男女平等が尊重され共学化が進むいま、女子大が危機にさらされている。東京都多摩市にある恵泉女学園大学・大学院と、兵庫県神戸市にある神戸海星女子学院大学・大学院が、それぞれ2024年以降の新入生の募集を停止すると発表した。
短大においては、25年以降に上智大学短期大学部が募集停止、26年3月には岐阜聖徳学園大学短大部が閉校する予定である。
女子大近くに学生向けのアパートを所有していたり、今後、女子大近くのアパート購入を検討する際など、女子大事情について知らないわけにはいかないだろう。
大学ジャーナリストの石渡嶺司氏は、「小規模の女子大ほど経営が苦しくなる傾向が強く、今後、この傾向はより強まる」と危機感を抱いている。詳しく話を聞いた。
共学化が進み、規模の大きな大学が好まれる傾向。
規模の小さな大学ほど、生き残りが厳しくなる
2022年の出生数は、調査開始以来、初めて80万人を割り、想定以上のスピードで少子化が進んでいる。少子化が進むものの、大学進学率は年々上昇し、2022年は56.6%(文部科学省調べ)と過去最高を更新している。
「少子化だから大学経営が厳しさを増すかというと、けしてそうではなく、大学進学率が上がり、共学化が進むなかで、大学に求められるものが変化しています。受験生のニーズが多様化し、多くの学部を持つ、規模の大きな大学が好まれる傾向にあります」
大きな大学ほど学生は学部の垣根を越えて幅広く学ぶことができ、サークル活動もバラエティに富んでいるなどのメリットがある。さらには大きな大学ほど予算を確保しやすく、新しい学部やキャンパスを創るなど時代の変化に対応しやすく、その結果、人気を集めやすい傾向がある。
私立大学のなかには大学以外に中学や高校なども運営しているケースが少なくないが、昨今では中学受験者が増え、受験の早期化が進んでいることなどから中学・高校の運営は好調であるケースが多い。
たとえば恵泉女学園は大学のほかに中学校・高等学校を運営しており、神戸海星女子学院は幼稚園、小学校、中学校・高等学校を運営しているが、どちらもこれらの運営には支障がないとして、運営は続けるとしている。
「恵泉女学園や神戸海星女子学院は、中学・高校の偏差値が上がり、成績のよい子は内部進学をせず、他大学へ進学する人が増える傾向にあります。そうなるといかに大学進学者を集めるかが課題になります。両校ともに直近の大学入学定員充足率は、60%を割っていました。この入学定員充足率が60%を割るかどうかが、大学存続の分岐点にあると考えています」
入学定員充足率とは定員に対して、どれだけ入学者がいるかどうかを示す数値である。
「2000年以降に廃止または募集停止になっている大学17校のうち、入学定員充足率が60%未満だったのは10校でした。そのため入学定員充足率60%未満の大学の現状は厳しいものと推察できます」
生き残りの鍵は「共学化」「規模拡大」「都市部移転」
先に挙げた入学定員充足率を、大学存続の指針と考えると、現在国内にある女子大のうち、60%以下は、5~15校程度で、残る30~40校は中間層で、安全水域にあるのは20校ほどだと石渡氏は見ている。
閉学を決める女子大が増える一方、生き残りに成功している女子大もある。共立女子大学は2023年4月に建築・デザイン学部を新設。昭和女子大学は短期大学部を2014年に廃止し、2020年に環境デザイン学部環境デザイン学科を新設するなど、学部の廃止や新設を多く手掛けている。
津田塾大学では、2017年に千駄ヶ谷キャンパスを設け、総合政策学部総合政策学科を開設した。
「学部新設には予算を要し、容易なことではありませんが、時代のニーズに応じた、新たな学部を新設することは、大学の人気を維持するために必須です」
また大学が閉学しないからといって安泰とも限らない。過去に、健美家ニュース(「入居者激減の可能性も?大学キャンパスの撤退、移転に注意。統廃合や移転情報の入手法から学生アパート運営のヒント」参照)で、郊外キャンパスから都心キャンパスに移転をする大学が増えているとお伝えしたが、その傾向は今後も続くと考えられる。
短大も苦難の道。
大学とは異なる厳しさがある
短期大学においては、大学以上に、経営が厳しいものとみられる。2022年、定員割れが85.7%の短大でみられている(日本私立学校振興・共済事業団調べ)。
なお短期大学においては、上智短大が2025年に募集停止、岐阜聖徳学園大学の短大部が、2026年3月末で閉学予定だ。
「両校とも大学経営に注力していく経営方針です。岐阜聖徳学園は、地元では教員養成の大学として人気が高く、大学の募集人員を増やして大学経営により力を入れていく方針です」
このように短大をもつ大学は、人気が下がっている短大を閉めて、大学経営に力を入れるケースが今後も増える可能性がある。
「90年台までは女性は短大卒の方が大卒より一般職で就職しやすいと言われ、短大が好まれた時代もありました。ところが現在は女性も男性同様に長期的にキャリア形成に励み、育休・産休を取得して、職場に復帰する働き方が増えています。
女性のキャリアの主流に変化が見られたことが、女子大や短大の経営を厳しくさせている一因になっていると考えられます」
女子大や短大の経営はより一層、厳しさを増しそうである。募集停止・閉学のほかに合併や都市部への移転などの動きにも注視したい。