2023年3月に秋葉原の高架下にキャンプ練習場campassという施設が誕生した。キャンプを練習するという発想に面白さを感じるが、それ以上になるほど!と思うのはキャンプをする場所なら建物は不要という点。つまり、建物を作ることなく、土地が活用できるのである。どんな施設か、見学してきた。
母子キャンプへのハードルの高さが提案に繋がった
JRの秋葉原駅から上野駅間は6路線が並走して走り、高架下の幅が広いためか、早い時期からさまざまな形で活用が行われてきた。もちろん、駐輪場などとして使われているエリアもあるが、それ以外の先駆的な使われ方が多い一画として知られている。
そこに新たに加わったのがキャンプ練習場campass(以下campass)。秋葉原駅から向かうと蔵前橋通りの手前あたりに立地している。
同施設を社内で提案、実験的な営業を経て実現したのは株式会社ジェイアール東日本都市開発経営企画部の北田綾さんである。
北田さんは3人の子どもの母でこれまでは家族でキャンプを楽しんできた。ところが、長男が野球を始めることになった。夫がコーチを務めるため、週末、夫と長男はキャンプに参加できない。だが、母が子ども2人を見守りながら車で移動、重い荷物を運んでテントを張って……というのは現実的ではない。
そこで北田さんは思った。母子だけでのキャンプが難しいと思うように、キャンプをやってみたいと思いながらも一歩踏み出せない人達が他にもいるのではなかろうか、だとしたら、その人達向けの施設にニーズがあるかもしれない。
キャンプ道具は一式揃えるとなると10万円以上はかかることもあるそうだが、道具を揃えても子どもあるいは妻が外で寝るのが嫌だと言い出したら宝の持ち腐れになってしまう。
それに都会では道具の置き場を確保するのも大変だ。道具は揃えても最初は何をどうしたら良いか分からない、不安という人もいるだろう。単身男女の場合、一人で行くことに躊躇があるかもしれない。
campassはそうしたキャンプに関心はあるものの一歩踏み出せない人を想定してスタートした。道具は多くのものがレンタルできるようになっており、初心者にはスタッフが使い方などを説明してくれる。高架下なので一応屋根はあり、台風の時でもさほどには雨が吹き込むことはなかったそうだ。
また、周辺になんでもある便利な立地なので、野外でご飯を作るのが面倒だったら食べに行けばよいし、子どもが嫌がったら途中でやめて帰ることもできる。近くには雰囲気の良い銭湯もある。
また、キャンプサイトにはバーベキュースペースも作られており、高架のおかげで天気を気にせず楽しめる。
建物への投資なく事業を始められる
現地に行ってみてアイディアの勝負!と思ったのはキャンプ練習場なら建物への投資が不要だということ。
高架下の建物と聞くと高架を屋根に、橋脚を壁にしているように思っている人がいるが、鉄道の安全のため、高架下活用では高架には指一本触れることはできない。高架下にある建物は高架に影響が出ないように離して作られており、照明ひとつでさえ設置できない。かなりの制約の中で作られており、高架があるから楽ではなく、逆にいろいろと面倒なのである。
ところがキャンプ練習場では建物は必要ない。屋根としての高架の恩恵には預かっているが、多少の整地や人工芝を敷くなどの投資は必要だったとしても床すら必要ないのだ。道具もレンタルを手配すればよい。
また、事務所として置かれていたのはトレーラーハウス。ここに持ってきておけばそれでオフィスとして使え、不要となったらまた移動すれば良い。建物を建設する費用、時間を考えると低コストで実用的である。
意外に人気なのが焚火。リアルな炎が人を呼ぶ
ただし、キャンプ利用客は季節によって変動がある。好調なのは春と秋で5月、10月には予約が取れないほどの人気だが、夏になると暑さが敬遠されるのか、客足が落ちる。逆にバーベキューは夏に人気なのだとか。
もうひとつ、意外に人気だというのが焚火。都会ではリアルな焚火を外で見ることはほとんどないが、campassでは金曜日から日曜日に焚火ナイトを開催。550円でチェアを借りて炎を眺めることができる。
知識のない人がやると煙が出て電車の運転手が火事と誤認、トラブルになりかねないが、よく乾燥した薪を使い、空気の入る焚火台を使うことで煙を出さずに楽しめるという。金曜日には近隣のビジネスマンが、週末にはカップル、ファミリーが訪れるという。火があるだけで人が集まるのである。
これも焚火台や薪、チェアなどの用意は必要だが、それほど多額の投資がいるものではなく、少し郊外でまとまった土地のある場所ならできないことはなかろう。
土地活用というと建物を建てるか、駐車場、駐輪場などのようにモノを置く場所として使うのが一般的だが、アイディア次第ではまだまだやりようはある。そんな発見をした取材だった。