SBI、台湾大手と2027年に宮城県大衡村で工場稼働
1200人雇用へ インフラ整備や大学関係者らの賃貸需要も
いまや安全保障上の重要な産業なった半導体。その半導体の工場建設計画が日本各地で相次いでいる。10月には、SBIホールディングス(HD)が、台湾の半導体メーカーと共同で宮城県に工場を新設すると発表。
2025年4月には北海道で、次世代半導体の国産を目指す「ラピダス」の試作ラインが稼働する。注目すべきは、半導体工場の予定されるエリアで不動産市場が活況を呈していることだ。
産業の裾野が広く、大学などの研究施設の充実、物流センターの進出なども期待できるため、賃貸需要が膨らむことは間違いない。今後の不動産投資戦略においては、半導体産業が作る新たな「企業城下町」に注目していきたい。
SBIHDが、台湾の力晶積成電子製造(PSMC)と共同で半導体工場をつくるのは宮城県大衡村だ。宮城県が熱心に誘致してきたもので、県内への経済効果に対する期待は高い。
工場でつくるのは、自動車や産業機器向けの半導体だ。工場の建設は2期にわたっておこなわれ、第1期では工場の建屋を完成させ、27年に一部稼働を目指す。第2期は、生産設備をさらに整備し、29年にフル稼働させる。工場建設には2期合わせて約8000億円を投入する。
工場の稼働にあたっては、台湾から最大で250人の技術者を招く。地元での雇用も進め、本格稼働するときには1200人を採用する方針だ。
宮城県は人材受け入れに向けた住宅整備や電気、ガスなどのインフラ整備といった環境整備を行う。東北大などとも協力し、人材育成も進めるという。さらには、後工程であるパッケージなどの工場の誘致も進める方向とのことだ。
間違いないのは、工場で直接働く人だけでなく、住宅やインフラの整備にたずさわる人たち、大学関係者らが集まってくることだ。彼らを対象とした飲食店、商業施設なども出てくるだろう。このエリアの賃貸需要は、大きく膨らむ可能性が高いといえる。
北海道千歳市にはラピダス進出 最大4000人の従業員が勤務
千歳市の住宅地地価、すでに全国1位の30.7%上昇
これまで発表された半導体工場の建設エリアにおいて不動産市況が活気づいていることは、すでにデータにあらわれている。
先端半導体の国産化を目指し、NTTやトヨタ自動車などが出資して立ち上げた会社「ラピダス」の工場は、北海道千歳市につくられる。9月に建設が始まっており、25年4月に試作ラインを稼働させるとしている。
この工場では最大4000人の従業員が働くことが期待されているほか、関連企業の進出などでさらに多くの雇用が生まれることが期待される。
住宅需要の活況が予想され、千歳市のJR千歳駅近くの地価が急騰している。9月に公表された都道府県地価(基準地価)によると、住宅地では全国1位の30.7%、商業地では全国2位の30.8%の伸び率を記録した。
アパートのための用地などに対する需要が高まっていることが背景にあるとみられる。当然、賃貸需要も高く推移していくだろう。
熊本県菊陽町は台湾TSMC進出 周辺自治体に第2工場
投資マンションなど建設 隣接町の商業地地価は32.4%上昇
一方、熊本県菊陽町には世界的な半導体大手「台湾積体電路製造(TSMC)」が進出し、工場建設が進んでいる。この結果、菊陽町や周りの自治体では地価が高騰している。
6月には、第2工場の建設が菊陽町周辺で検討されていることが発表された。この結果、9月の基準地価では、菊陽町に隣接する大津町の商業地が32.4%と全国1位の、工業地が31.1%と、やはり全国1位の上昇率が記録された。
筆者も昨年5月、すでに建設工事が始まっていた菊陽町を訪ねたが、地元の関係者によると、投資用マンションが相次いで建設され、不動産業者にも多くのと問い合わせがあるという。不動産市場は非常な活況を呈していた。
かつて「産業のコメ」と呼ばれていた半導体は、今や戦略物資として国際的にとても重要になっている。日本政府も経済安保上、半導体調達を強化していく考えで、今後も日本各地で工場や関連施設の建設が相次ぐ可能性がある。
その周辺では賃貸需要が増すのは目に見えており、不動産投資家はその動きを見逃さず、しっかり手を打つようにしていきたい。
取材・文:
(おだぎりたかし)