※引用:長崎県
整備構想が持ち上がった背景
九州の西端に位置する「長崎の海の玄関口」である長崎港元船地区について、整備構想の策定が進んでいる。
長崎港元船地区とは、長崎駅から見て南側すぐの場所に位置する長崎港ターミナル周辺のことだ。
長崎港ターミナルからは県の西部にある各離島や沿岸への航路が就航しており、軍艦島クルーズを含めた年間利用者は、延べ約100万人に上る。
また、貨物港としても大きな役割を担っており、元船地区では長崎港全体における年間海上貨物量の約8割に該当する約100万トンを取り扱っている。
以前の元船地区には倉庫が建ち並んでおり、観光施設としての機能はほとんど持っていなかった。
しかし、1988年から始まった内港地区再開発事業によって現在の元船埠頭が整備され、1995年には「長崎港ターミナルビル」が完成した。
2000年4月にはショッピングモールの「ゆめタウン夢彩都」が開業しており、そのほかにもヨットハーバーが整備されるなど、現在ではにぎわいの拠点としても活用されている。
さらに、長崎港周辺では九州新幹線西九州ルートが2022 年9月に開業したほか、さまざまな都市開発が進んでいる。
- 長崎駅ビルの開発(2023年から順次開業済)
- 長崎スタジアムシティプロジェクト
- 県庁舎跡地の整備
- 市庁舎跡地の新たな文化施設
長崎の都心が100 年に一度と呼ばれる変革期を迎えていると行政は捉えており、地元の活性化とインバウンド消費の拡大を期待している状況だ。
また、長崎港周辺には「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」などの世界文化遺産もあるため、海外からのインバウンド消費も重要視している。
整備の方向性は
一方で、元船地区に設置されている各施設の老朽化やバリアフリー対応、ハード・ソフト両面からの利便性向上などが、解決するべき課題と行政は考えている。
課題の解決に向けて「長崎元船地区整備構想検討会議」が設置されており、2024年1月には整備構想の案が策定された。
整備構想案の中で提起されている課題と、元船地区利用者からのニーズは以下の通り。
解決すべき課題点
- 各施設の老朽化
- バリアフリー対応の遅れ
- 観光クルーズ乗船箇所がまばらで利便性が低い
- 海側に開かれた眺望場所が少ない
- 長崎駅からの歩行者動線が整備されていない
元船地区利用者からのニーズ
- 物販や飲食機能など、ターミナル施設に相応しい機能の充実
- 施設の緑化や港全景を望む場所などの整備
- 歩行者回遊性の向上と交通渋滞の緩和
- 休息空間の充足
課題の解決に向けて、元船地区は、大きく分けて2つの機能を備えたエリアになる。2つの機能とは、国内ターミナルの機能と観光・交流の機能だ。
※引用:長崎県
そして、各機能の整備に向けて検討されている施策の内容は以下の通り。
国内ターミナル機能
- ターミナル施設のバリアフリー化
- 利用者からのニーズが強い駐車場を再整備するとともに、車両待機スペース・動線を見直す
- 定期旅客フェリー等の乗場と貨物船の荷捌き場などを再区分・整備する
観光・交流の機能
- 点在する観光クルーズ発着場を集約し、待合施設の配置検討など環境の整備を進める
- 交流施設の新たな誘致
- 公共交通のターミナル直結の停車場整備など、ハード、ソフト両面からターミナルへの利便性の向上を図る
- 休息広場を配置し、そこから海を見渡せる視点場を確保する
今後のスケジュールとしては、まだ抽象的なものだが、まずは整備構想を案から正式なものへ調整するとともに、事業費の検討などを進める。
その後、施設設計等を経て整備・新施設の共用という流れになる。なお、施設設計等から供用までの期間は概ね10年とされている。
施設の供用予定はだいぶ先の見通しではあるが、長崎が持つエリアとしての「ブランド性」が高まることを期待したい。
取材・文:
(はたそうへい)