東京の西、武蔵野と呼ばれるエリアに位置する三鷹市は、今年、市政70周年を迎えた。駅でいうと、関東の住みたい街のランキングでベスト3から落ちたことのない吉祥寺の、一つ先の駅である。
新宿を中央線に乗って西に向かうと、中野、高円寺、阿佐ヶ谷、荻窪、西荻窪と個性ある街の駅が続くが、23区を抜けると最初が吉祥寺、次が三鷹という順番である。
実は2019年のランキングでは、三鷹は二子玉川、自由が丘といった東京では自慢してしまう住みたい街を抑えて16位であった。2020年のランキングでは再び後塵を拝し33位となったが、この年の調査が異常値であったのかどうか、改めて三鷹を検証してみたい。
三鷹駅を中心に考えると、駅の南側が三鷹市、北側は吉祥寺を擁する武蔵野市が占める。
もともと中央線沿線の新宿寄りのエリアは、関東大震災で被災した東京下町の移転先として人口が増加した地域である。
戦時中は、横河電気や中島飛行機といった軍需工場が立地して被災した。戦後、高度成長期には、都心のベットタウンとして発展して、多数の公営住宅も建設されが、1970年代から人口はほぼ横ばいで、三鷹市約18万人、武蔵野市約14万人が今の人口である。
最近、人口は少し逓増傾向で、かつてのベットタウンの街で顕在化する高齢化は、両市共に高齢化率(65歳以上住民の人口比)約20%強で、全国平均よりは5%程度低いが着実に進行している。
この街が、(たまたまにせよ)住みたい街のベスト20内に入った理由はどこにあるのか?
三鷹というと、2001年に開館した「三鷹の森ジブリ美術館」である。東京を訪れる外国人を含めた若い人たちにとって是非行きたい場所であり、予約がないと入れない、市民の自慢の一つだ。
もう一つを挙げるならば、それは街を歩くとすぐに分かる。文豪が住んだ街なのである。太宰治、「路傍の石」の山本有三、武者小路実篤、三木露風。
特に太宰は、よく訪れたといわれる陸橋など、いたるところに足跡がある。三鷹市も、駅南側の中央通りには文学モニュメントを配置し、市営の太宰文学サロン、山本有三記念館、中央図書館には太宰コーナーを用意して、文学好きの人たちを迎え入れている。
もともと中央線沿いの個性ある街には、大正期から昭和初期には、多くの文学者や作家が移り住み、それに伴い編集者なども住むようになった。
井伏鱒二は、「昼間にドテラを着て歩いていても、近所の者に後ろ指を刺されるようなことがない」と書いているが、こうした大らかで自由な雰囲気は、今でもこのエリアにはあるが、やはり太宰は別格、三鷹市の財産となっている。
もう一つの大きな財産は、三鷹市と武蔵野市に挟まれた井の頭恩賜公園である。
総面積43千平米。広大な芝生があるような公園ではないが、そこは恩賜公園、武蔵野の雑木林、日本庭園に、ボート遊びができる池、テニスコートの他、自然文化園エリアには象のはな子が居た動物園に、北村西望の200点もの彫刻の展示まであり、家族で楽しめるほか、実は、沿線の大学の学生には格好のデートスポットでもある。
三鷹駅の北側、武蔵野市側は、落ち着いたすっきりとした印象を受ける。よく見ると、ポツンポツンと個性的な飲食店や物販が点在していて、吉祥寺の個性的な雰囲気の流れが少しあるように感じる。
三鷹市と武蔵野市は、実は65年前に合併が検討され、一票差で否決された歴史がある。この両市に共通しているのは、「先進的な自治体」という点で、「全国で初めて」という取り組みも多い。
全国で初めて下水道率100%達成、ゼロ歳児保育施設を開所させた三鷹市は、市民参加型の産学官協働の情報先進都市としての色彩もあり、2005年に「インテリジェント・コミュニティ・オブ・ザ・イヤー」で世界1位となった。
一方、全国で最初に「地域生活環境指標」を作成した武蔵野市は、コミュニティバスの運行、リバースモーゲッジなど意欲的な施策を全国に先駆けて実施しているが、この市にも共通するが市民参加の意欲が高い。
そして、三鷹は、この点が最も魅力的なのかも知れないが、交通の便が優れていることである。少し正確に言うと、三鷹駅は始発駅である。千葉方面へのJR総武線だけでなく大手町へ向かう地下鉄の始発駅であり、かつ、JRは特別快速の停車駅であって、これに乗れば新宿駅まで2駅、東京駅へは26分で到着である。
吉祥寺は華やかで、PARCOや東急百貨店が立地し、お洒落な飲食店から居酒屋、個性的な物販店など多様性に富んで何でも揃う。それゆえいつでも人が多い。三鷹は、そんな吉祥寺に徒歩でも行ける距離感である。
駅の南側には三代続く老舗とチェーン店が軒を並べた商店街があり、日常的な買い物や飲食には不自由はしない。がっつり購入したい場合には、一駅先の武蔵境駅には、日本一売り場面積が広いイトーヨーカドーがある。
落ち着いた良質な住環境とコミュニティを保持しながら、街自体にもしっかりした特色があり、交通の便の良さと、場面に応じて隣街を使い分ける、まさに「グッドポジション」が三鷹である。2019年のランキングは、それに気づいた人たちが「三鷹に住んでみたい」、という結果なのだろう。
しかし、アベノミクスの効果からか、対前年比で若干マイナスのときもあった地価の方はここ数年右肩上がりである。
もちろん吉祥寺に比較すれば安価。三鷹のポテンシャリティはまだ高い。
健美家編集部(協力:多摩北部)