老朽化や狭隘化を背景に移転
駅近の立地で利便性向上にも期待
静岡県の県庁所在地である静岡市。県内では浜松市に次いで人口は多く、直近で約68万人。ただし、2017年4月に推計人口が70万人を割ってから、人口は減り続けている。
一方、市内には約4万の事業所があり、年間商品販売額は3兆円を超えるなど、県中部地区における商業・ビジネスの中心としての存在感は健在だ。
同市は静岡駅から駿府城周辺にわたる静岡都心と清水港周辺にかけて広がる清水都心を併せ持つ多核都市であり、文化教育拠点として東静岡・草薙副都心の整備が進んでいる。
こうしたなか基本設計の概要を明らかにしたのが、静岡県立中央図書館(以下、県立中央図書館もしくは新図書館)の移転プロジェクトだ。
県立中央図書館は静岡市駿河区にある公共図書館で、1925年に開館。戦後を経て1970年に現在地に移転している。
一方、建物の老朽化や狭隘化は顕在化し、2016年には新館建設と今後の図書館サービスについての期待を盛り込んだ「静岡県立図書館の新館建設についての要望書」を静岡図書館友の会が静岡県教育長に提出。翌年には1階天井部に積載荷重と劣化によるひび割れが見つかるなど問題が深刻になるなか、2018年3月に新図書館の基本構想案が承認されていた。
移転先は、東静岡駅南口の県有地だ。同駅はJR東海の東海道本線が乗入れ、1日平均の乗車数は8000人台で推移。「静岡県コンベンションツアーセンター(グランシップ)」が隣接し、付近も副都心として位置づけられていることから、行政が主体となり再開発を推進。高層マンションの建設や宅地分譲といった開発が進行中で、駅南口の県有地でも「文化力の拠点」の形成に向けた計画を進めていて、その一環として図書館の移転先に選ばれたようだ。
新図書館は地上9階建て・延べ床面積約1万9800㎡。550台分の駐車場、370台分の駐輪場、41台分のバイク置き場も備える。
蔵書可能数は約200万冊で、そのうち約80万冊は来館者が自由に手に取って閲覧できる予定。公共図書館では国内内最大級とのことだ。
特徴的なのは、2階から9階にまたがる書庫を「資料体」として建物の中心に配置すること。
その見た目はさながら城郭のようで、来館者の目を引くばかりか好奇心を刺激する。低層階には学び・交流・創造の場といった機能を配置し、2階以上には公開書庫、閉架書庫に加え、富士山を見渡す方向を中心に閲覧室やテラスを各所に整備する。
施設には県全域の木材をふんだんに活用し、温かみと親しみのある空間を創出。什器には県産家具の活用も検討する。総事業費は192億円を見込み、今後は2024年9月までに具体的な実施設計を行う。早ければ同年度中に工事に着工し、2027年度後半の開館を目指す。
先述の通り、県は東静岡エリアを文化教育拠点にすべく再開発を進めていて、東静岡駅周辺には新図書館以外の公共施設が誕生する可能性が高い。
こと、現在の中央図書館は最寄りのJR草薙駅から徒歩約25分、静岡鉄道の県立美術館駅からも徒歩で約15分の距離。今後の少子高齢化を見据えると、駅近の好立地に移転することで、地域住民の利便性は向上するに違いない。
ちなみに、不動産・住宅情報サイト「LIFULL HOME’S」の「住まいインデックス」によると、直近3年間で東静岡駅の賃貸マンションの賃料は2.81%と緩やかに上昇しているが、中古マンション価格は同期間で21.47%も上昇している。これは静岡県の変動12.89%に比べると高い水準だ。
同駅周辺はこれまでの再開発でまち並みが整備され、市街地に出やすいことに加えて公園もあり住環境は申し分ない。駅の北口ではアリーナ施設の建設を市が構想している。
隣の静岡駅に比べると不動産価格はまだ安く、さらなる発展が期待されるのではないだろうか。冒頭で静岡市は人口減に直面していると述べたが、今回のようなまちづくりが、状況を変える転機になるのかもしれない。
健美家編集部(協力:
(おしょうだにしげはる))