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新型肺炎だけじゃない。「江東5区」浸水リスクの危険度

長嶋修さん_画像 長嶋修さん 第220話 著者のプロフィールを見る

2020/2/13 掲載

新型肺炎が猛威を振るい死亡率は4.3パーセント超、死者900名超、首都圏や南海トラフ地震の発生確率が30年以内に70~80パーセントと予測され、気候変動待ったなしの中で今年もさらなる台風や大雨が予測されるなど、人知を超えた事象が私たちの前にリアリティーを持って立ち現れています。

中央防災会議は、利根川や荒川などの堤防が決壊し、東京湾で大規模な高潮が発生した場合、最大約7,600人の被害者が出ると想定。土木学会では、東京で洪水や高潮が発生した場合、建築物などの資産被害の総額は64兆円に上る推定です。

関西大学社会安全研究センターの河田恵昭センター長は、荒川が氾濫した際の復旧には数年必要で経済的被害額は90兆円と試算。いずれにせよ2018年に過去最大の被害をもたらした西日本豪雨の1.1兆円をはるかに上回るものです。

■ 江東5区の浸水リスク

東京23区の中でも、とりわけ大きな被害が想定されるのがいわゆる「 江東5区 」( 墨田・葛飾・江戸川・江東・荒川・足立区 )。

東京都の試算によれば、墨田区は99パーセント、葛飾区は98パーセント、江戸川区は91パーセント、江東区は68パーセント、荒川区と足立区も50パーセント以上が浸水するとしています。

そうした中、東京都江戸川区から衝撃的なメッセージが発信されました。 「 ここにいてはダメです 」。東京都江戸川区の「 水害ハザードマップ 」の表紙には大きくそう記されています。



ハザードマップには「 巨大台風や大雨による河川氾濫や高潮の発生で、排水が間に合わなくなると“区内のほとんどが水没”する 」とされています。

明治から高度経済成長期にかけて東京東部地域では、近代化に伴う地下水のくみ上げや天然ガスの採取などによって地盤沈下が進行。最大で4.5mも沈下した地域があります。

圧倒的な住宅不足の中で、地盤沈下を考慮しない市街化、過密化が進行した結果、海抜ゼロメートル以下の広域な市街地(「 広域ゼロメートル市街地 」)が形成されてきた経緯があります。

「 低地帯の地盤高平面図 」東京都建設局河川部発行パンフレット

墨田区、江東区、足立区、葛飾区を含む、いわゆる「 江東5区 」の被害想定は250万人と、約258万人住んでいるこの地帯の90パーセント以上が被害に見舞われるわけです。

この海抜ゼロメートル地帯を守っているのは堤防1枚のみ。とりわけ江戸川区は荒川や江戸川など大河川の最下流に位置しているため、江戸川区には関東地方で降った雨の大半が集中。

そもそも江戸川区は陸地の約70パーセントが満潮時の海面よりも低い、ゼロメートル地帯どころか「 マイナスメートル地帯 」になっているのです。平井駅周辺などはなんと海抜マイナス2・5メートルです。

そこで江東区としては「 最大10メートル以上の浸水が1~2週間以上続く 」といった前提で、次のような対応策を示しています。

「 3日前には、江東5区で共同検討を始める 」
「 2日前には、自主的な広域避難を呼びかける 」
「 1日前には広域避難勧告を出す 」
「 9時間前には、緊急的に小中学校や建物の高層階に垂直避難を呼びかける 」

しかし一口に「 避難 」といっても、事はそう簡単ではありません。250万人が一斉に動き出せば自動車は大渋滞に巻き込まれ、道路にあふれる歩行者は将棋倒しになるなどのリスクがあり、大混乱は必至です。

バスや鉄道などの公共交通は暴風や浸水などの災害でダイヤが乱れ、運行停止になれば利用で着なくなる恐れがあり、江戸川区としては「 タイミングを逃さないよう積極的に情報収集しましょう 」といったアナウンスにとどまります。

■ 最大のウィークポイントは荒川鉄橋付近の堤防

江東5区にとって最大のウィークポイントになっているのは、京成本線の荒川鉄橋付近の堤防( 京成関屋~堀切菖蒲園間 )。鉄橋があることで周辺の堤防よりも3・7メートル低く、洪水時の危険性が高くなっているのです。

1931年に完成したこの鉄橋は建設当時、堤防より高く設置されましたが、高度経済成長期に工業用地下水のくみ上げや天然ガス( メタン )採取などで最大約4.5メートルの沈下、鉄橋付近では約3・4メートルの地盤沈下が確認されています。

国は堤防のかさ上げ工事を行いましたが、鉄橋部分はそのままでした。その結果、2019年に発生した台風19号では、荒川の観測所で過去最高を上回る水位を記録。

墨田・江東・足立区・葛飾区・江戸川区江東5区長が連名で「 京成本線荒川橋梁架替事業推進の要望書 」を赤羽一嘉国土交通大臣に提出し、橋梁架替に伴う堤防強化の早期実現を要請していますが、実現はまだずいぶん先のこととなるでしょう。

過去の災害では、水害、地震、津波、火災などの危険が目の前に迫っていても、日常生活の延長線上の出来事だと判断し「 自分は大丈夫 」「 まだ安全 」などと思い込んでしまう「 正常性バイアス 」といった人間の心理的な傾向が働いたため被害が拡大した、と報告されています。十分な備えが必要です。

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プロフィール

長嶋修さん

長嶋修さんながしまおさむ

不動産コンサルタント
さくら事務所 会長

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経歴
  • 不動産デベロッパーで支店長として幅広く不動産売買業務全般を経験後、1999年に業界初の個人向け不動産コンサルティング会社である、不動産の達人 株式会社さくら事務所を設立、現会長。

    以降、様々な活動を通して“第三者性を堅持した個人向け不動産コンサルタント”第一人者としての地位を築く。国土交通省・経済産業省などの委員も歴任。

    2008年4月、ホームインスペクション(住宅診断)の普及・公認資格制度をめざし、NPO法人日本ホームインスペクターズ協会を設立、初代理事長に就任。

    また、TV等メディア出演 、講演、出版・執筆活動等でも活躍中。

    現在、「東洋経済オンライン」、「Forbes JAPAN WEB」等で連載コラムを執筆中。業界・政策提言や社会問題全般にも言及。

    主な著書に、『空き家が蝕む日本』(ポプラ社)、『不動産格差』(日本経済新聞社)、『5年後に笑う不動産』(ビジネス社)等。

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