昨日の前編の続きです。昨日はリフォーム現場での服装や靴について説明しました。次は頭を守るヘルメットです。
1、高所で頭は絶対に守ること。最悪は死にます
建設業の死亡災害トップは転落・墜落事故です。体重60㎏の人が高さ1.0mから転落すれば衝撃荷重は1.5tになります。頭を守る保護具なしで頭から落ちればひとたまりもありません。
ヘルメットにも種類があって「 飛来落下物用 」「 墜落時保護用 」「 電気用防止 」と用途に応じて種類が分かれています。分からないときはショップの店員さんに聞いて選定してもらうといいでしょう。
ちなみに高所作業で使用するヘルメットは「 飛来落下物用+墜落時保護用の両方の機能を有するもの 」です。ヘルメットの内側に衝撃緩和用の発泡スチロールが入っています。
2、高所作業で忘れてはいけない安全帯
2.0mを超える高さでは、墜落転落しないために「 胴ベルト型の安全帯 」の着用が義務づけられています。2022年1月2日以降は、高さ6.75mを超える高所作業については「 フルハーネス型墜落防止器具 」を着用義務とする法令が制定されました。5.0m以上は推奨となります。
なぜ法令が厳しくなったかと言うと、胴ベルト型の安全帯を付けて作業をしていても、きちんと胴ベルトを締めていなかったり、正しい着用ができておらず人が抜け落ちてしまったり、ぶら下がった状態で脱出できずに圧迫死するケースが発生したからです。
胴ベルト型安全帯を使っていたとしても、必ず助かると言い切れないのです。
3.粉塵作業を甘く見ていませんか?
私がDIY界隈で心配しているのは粉塵対策です。面倒だからって、PM2.5やウイルス用の普通の不繊布マスクを使っていませんか? つけないよりはましですが、あれは飛沫感染を防ぐ物です。ほこりは、ほほの周りから口・鼻にたどり着き体内に入っていきます。
肺に粉塵が蓄積されると肺胞が破壊され、「 塵肺 」と言われる病気になります。一度かかると二度と治らない病気です。息がすぐにあがり、呼吸が苦しくなります。短時間の作業だからと甘く見ない方が良いです。
目に見えない粒子はあなたの周りに漂っています。実際に防塵マスクを使って残置物撤去作業が終わった時に、フィルターを外して見ると真っ黒になっています。その黒さに驚くはずです。
床下などに潜るときはカビにも注意してください、人に感染して肺をカビさせます。私がお勧めするのは、呼吸缶が二面付いた「 取り換え式防塵マスク 」で粒子捕集効率99.9%( 区分3 )の物です。
5,000円程度しますが、それで健康が買えるなら安いものです。このタイプの防塵マスクは呼吸がしやすく、有機溶剤の吸収缶を取り付けられますので、有機塗装の作業時にも使えます。
4、振動工具を使用した「 振動病 」も重い病気
長時間の振動作業は「 振動病 」のリスクが高まります。この病気に陥ると、最初に手指の痺れが現れ、次に腕のだるさ、脱力感が現れ、しばしば作業後や夜間になると、腕の強い痛みと痺れが起こるようになります。
安衛法では、打撃機構を有する工具の使用は一連振動ばく露時間おおむね10分以内とし、一連作業後の休憩時間は5分以上設けることとなっています。一日の作業時間も2時間以内と定められています。
回転機構はおおむね30分以内の作業につき、5分の休憩が必要とされています。また、振動作業の時は負荷を軽減するため、必ず防振手袋を着用しましょう。
5、作業音にも気をつけて
高音・大音量の打撃音や振動音を長時間聞いていると音が聞き取りづらくなったことありませんか? あれは難聴になる前触れです。一時的、短期間なら回復しますが、日常的になると知らず知らずに聴力が失われていきます。耳栓を必ず使って保護しましょう。
耳栓の形は様々でイヤーマフ型・カナル型・中栓型があります。個人的には集音機能付きイヤーマフが好きですが、ちょっと暑いのが玉に傷です。大音源をカットオフする機能がありながら、会話もできる優れものです。
6、取り出しやすい腰回りにすると作業の安全性が上がる
現場の職人やDIYを長年やっている方達の腰道具は、自分自身の使いやすいようにカスタマイズされています。道具が取り出しやすいと効率が良くなり、作業時間が短縮されます。
短縮された時間の分だけ、危険にさらされている時間が短くなるので、安全率が高まる効果があります。ぜひ自分のオリジナル腰道具を構築してみましょう。
この組み合わせが正解というものではありません。作業をしながら「 ここにあの道具があれば早くアクセスできるのに 」と思った物を腰ベルトに追加していくと、作業効率の良いオリジナルスタイルが確立されると思います。
新しい知識を自分の中に落とし込むと、次から作業をするときに、意識が安全に向かっていることに気づきます。この記事の私の狙いは皆さんの意識の中に、安全の楔を打ち込むことです。そこに気づいて頂ければ嬉しいです。
服装・装備編は以上です。ここまでで基本装備を整えました。次は道具編です。
【 道具編 】
1.頼もしいDIYの破壊王 大ハンマー
DIYで物件を壊す時に活躍してくれるのが大ハンマーです。数キロもある重量物を壁やブロックにインパクトする瞬間は楽しいですよね。私もついつい夢中になりがちですが、保護メガネはしていますか? 割れた破片が目に入ると失明の恐れがあります。
大ハンマーは焼きがほとんど入ってないので、使用とともに先端が潰れてささくれてきます。そんな状態でハンマーの芯で叩けずに端を強打すると角が割れ、破片が自分に飛んできます。割れた鉄の破片が目に刺さる失明事故が今も絶えません。
写真の左が潰れた大ハンマーです。右が新品の大ハンマーです。比べると違いがよくわかりますよね。( 先が潰れたら事故を起こさないように研磨しましょう )
ハンマーを振る時にその動線に自分自身が入っていませんか? 打点を外した時に大ハンマーを避ける事が出来ず、自分自身の足を叩いてしまう事故が起きています。最悪の場合は粉砕骨折で全治3カ月です。
これを防ぐには足元が安定した場所を選び、大ハンマーの動線に入らない位置で、正しい姿勢をとってハンマーを振る必要があります。また、自身が扱いきれない重量は選ばないことも大切です。一日1,000回以上振れる重量の物を選択するといいでしょう。
☆大ハンマー使用動画
2.脚立
脚立って便利ですよね。取り回しが良いですし、高所も楽々つい私も天板に乗ったり跨ったりしたくなります。でもそれって、禁止姿勢なんです。
脚立は、バランスを崩した時に何かつかめないと地面まで頭から落ちてしまいます。人は1mの高さでも落ちたら死ぬことがあります。天板より二段下に足を掛け、即座に何かをつかめる体勢を保たないといけません。
☆脚立使用の動画
先日、Twitterで脚立からの転落事故を報告された大家さんがいました。手術を含め全治2カ月の大怪我とのこと。命にかかわるような事故でなくてよかったです。
1mの高さから落ちた時の衝撃荷重は1.5t( 体重60㎏ )になります。面で受け身を取れば何とかダメージは免れますが、衝撃を点で受けたら身体はもちません。
手を着かないで顔面から床に倒れてみてください( 無理ですが )。とても耐えられないと思います。自分自身に降りかかる衝撃をイメージして作業を行ってください。それだけでも事故のリスクは減ります。
脚立は危険な道具なので土木現場では原則使用禁止です。現場では、足場が安定した場所を確保しにくいのです。
やむを得ず使用する場合は、作業計画書を作成し、監理技術者の許可をもらい、補助員を付けるもしくは脚立の足を固定して転倒防止措置を行った場合にのみ許可されます。それくらい危険な道具とされているということです。
3.バカにできない立ち馬の転落リスク
脚立の亜種として「 立ち馬 」と言われる物があります。天板が広いこのタイプは作業エリアが広がり、便利なので私も使用しています。
しかし、脚立よりも転落リスクが高い物なので、使用に注意してください。なぜ天板が広くて作業しやすいのに転落リスクが高まるの? と思った方がいると思いますので補足説明をします。
車を運転している時、よそ見をせず前を向いて走っていたとします。ふと考え事にふけり、ハッと気づいた時には目の前に停止した車が迫っていて、慌ててブレーキを踏んで、ギリギリ事なきをえた。こんな経験はありませんか?
人は考え事をしている時や作業に集中している時に、目や耳・手足から入ってくる情報や感覚から危険を判断できなくなってしまいます。工事現場の事例で言うと、目の前に明らかに穴の開いた開口部があるのですが、物を運んでいることに集中しすぎて誤って転落墜落して死亡する事例があります。
はたから見たら、まさか、そこに落ちるなんて・・・、と意味がわからない事が実際に起こります。立ち馬の場合は作業に没頭するあまり、あるはずもない足場を踏んで、そのまま床に叩きつけられます。
ヒューマンエラーは誰もが必ず起こします。起こした時に死なない、怪我をしない措置が安全設備であり安全対策なのです。
だから事前に作業の危険性を洗い出し、意識外の事故を減らす為に安全計画をするのです。それを作業者全体に周知することを危険予知活動( KYK )と言います。
【 おまけ・保険について 】
仕事中の事故であれば労働災害保険の休業補償が適応されますが、勤め人サラリーマンのDIY事故は、勤め先の労災認定を受けることができません。
そんな時に助けてくれるのが、保険です。DIY大家さんには、個人で医療保険・休業保険・所得保障保険に入っておくことをおすすめします。
保険を選ぶときに加味しないといけないのが、健康保険の私傷病手当です。これは業務外の事由による病気やケガで休業している期間について、生活保障を行う制度です。
・傷病の療養のため仕事を休んだ期間が連続3日間以上
・上記の3日間を含め4日以上仕事に就くことができなかった場合
に、給与( 標準報酬月額 )の2/3を保障してくれます。補償で不足する分を個人の保険で補うように掛けておきましょう。
どんなに気を付けていてもヒューマンエラーは必ず起きます。保険は身を助け、家族を助けます。必ず保険をかけて、作業を行うようにしましょう。
明日の最終回へ