皆さん、こんにちは。
大家でプロパンガス会社社長のガスタンク少佐です。
昨日の前編では、プロパンガス屋はガスを届けるだけでなく、「水道修理」「電気配線」「大工工事」「不用品回収」などなど、様々なサービスを行うところが多いと書きました。
今日はその話の続きと、2025年に施行される「ガス供給と関係ない設備費用の料金上乗せ禁止」が決まった背景、そしてこれからの影響などについて書きたいと思います。
■「暮らしのサービス」も得意な街のガス屋さん
プロパンガス会社のスタッフは、たとえ営業職であっても「これもできるの!」と驚かれるほど様々なスキルを持っている人が多くいます。
ガス器具を設置する際に、「電気」や「水道管」の接続が必要になることが多いので、必要に迫られるうちに何でも屋になっていったのです・笑。
例えば、給湯器を取り付ける際には、電気と水道菅の両方の作業が必要になります。場合によっては、給湯器を取り付ける場所に、下地の板を設置するなど「大工工事」をすることもあります。これほど、クロスオーバー的な作業をする業種もなかなかないでしょう。
そんな作業を毎週のように繰り返しているガス屋ですから、「蛇口の水漏れ」などの簡単な「暮らしのお困りごと」への対応はお手のもの。作業を頼まれて、お客様のご自宅に上がらせてもらうこともよくあります。これでお客様との「距離」が縮まらないはずがありません。
こうして小さなプロパンガス屋は、一軒一軒のご家庭と付き合いながら、自然と地域密着型の経営になっていきました。そして、そのお客様の中には、大家さんも含まれていました。
大家さんが他のお客さんと違うのは、物件を自宅以外にも幾つも持っている点です。
大家さんのご自宅へプロパンガスの供給と「暮らしのサービス」を続けるうちに、「次に買う(建てる)物件もぜひうちのプロパンガスを使ってほしい」という話になるのは自然なことです。
そして、アパート・マンションの建設時に、例えば「コンロを設置するついでに、換気扇を取り付けてほしい」と大家に頼まれれば、ガス契約のお礼として、「安価」で、あるいは「無料のサービス」で行うのも当然のことでした。
正直、契約を結んでくれたとしても、どれだけ利益を得られるかは、入居者がどれだけ多くのガスを使ってくれるかによります。つまり、建設時にどれだけのコストをかければ割に合うかは、実際のところはわかりません。
先々までシミュレーションをして一定の家賃を得ている賃貸業者目線でみれば、「どんぶり勘定」に見えます。それでも、お互いにメリットのあるところを探りながら、プロパンガス屋と大家さんは、持ちつ持たれつの関係を続けてきたのです。
■大手プロパンガス会社のサービス合戦がエスカレート
この「どんぶり勘定」のサービスに着目したのが資本力のある大手のプロパンガス会社と不動産会社でした。効率よくガスの契約をとるために、それまでの「無料サービス」にさらに上乗せした様々なサービスを、資本のあるプロパンガス会社が始めたのです。
それまでは有償だったガス給湯器などの高価な設備まで、無料で設置するようになりました。そこまで高額商品を出されると、近所のプロパンガス屋さんとの契約を切って、大手ガス会社に切り替える大家さんも出始めます。
そこからは義理も人情も関係ない世界です。そんな状況を他の大手ガス会社が知って、さらなるサービスを上乗せ。すると別のガス会社が、ライバル会社よりもさらに高額な設備提供を提案。そんな競争が始まりました。
営業マンたちは、ライバル会社に負けじと必死です。大家さんによっては、その競争を煽り、「競り」を行うようにより高い設備を要求したりする人もいました。
こうやって「雪だるま式」にガス屋の設備投資は増え、いつしかガスとは関係のないウォシュレットやテレビドアホン、はたまたエアコンまで、プロパンガス会社が無償で貸与する業態ができあがったのです。
そこまでやるのは、当然自社のプロパンガスを使ってもらうためです。儲けが出なければやる意味はありませんし、途中で契約を切られたりしたら大赤字になってしまいます。
このような状況の中、通称「貸与契約書」が生まれました。「解約した場合は大家が設備の残存価格を払う」というものです。そのうち、ガス会社が初期投資で赤字となった部分をガス代に乗せるため、入居者が高いガス代に不満を持つといった話も出てきました。
はっきり言って、毎月のガス代に少し上乗せしても、初期投資で何十万円も使っていれば、元をとるのに何年もかかります。あまりに薄利すぎて、割に合わないことは目に見えています。
それでも、ライバル会社に負けないために、大手ガス会社は崖っぷちのデッドヒートを続けました。利益がほどんど出ない上に、入居者からは「ガス代が高い」とクレームが入る。わけのわからない「泥沼」的な状況だったと思います。
■2025年度から始まる「ガス供給と関係ない設備費用の料金上乗せ禁止」の動き
そんな状況が問題視され、「待った!」がかかりました。法改正が行われ、2025年度からは「ガス供給と関係ない設備費用の料金上乗せ禁止」になったのです。「貸与契約書」を作ることも禁止されました。
参照:LPガスへの費用上乗せ禁止 2025年に前倒し!家賃値上げなど迫られるか (健美家ニュースより)
実際の施行は来年度からですが、1年前の現時点で、大手ガス会社はすでに「無償貸与」をやめ始めています。崖っぷちの泥試合の終焉に、ほとんどのガス会社はホッと胸をなでおろしているのではないでしょうか。
■大家とガス会社の関係はどう変わるのか?
大家業界の中には、この「無料サービス」から一気に撤退していくプロパンガス業界に対し、不満を感じている方も少なからずいると思います。気持ちはわかります。
資材も工事費も値上がり傾向にある中、コストを少しでも抑えたいのは大家なら当然です。この先、新たなルールをかい潜ろうとする大家さんも出るかもしれません。
私自身はどうかというと、前向きに受け止めています。あのままではどこかで破綻していたと思うからです。無理な競争はどこかにしわ寄せが出てしまいます。
例えば、ガス会社の設備貸与費用が入居者のガス代に上乗せされ、「プロパンガスは高い」という印象を持たれれば、プロパンガスを使った賃貸物件が入居者に敬遠されるという事態になりかねません。そうなれば、自分で自分の首を絞めるようなものです。
そして、今こそ、プロパンガスを使っている大家は、ガス会社とのコラボ関係に着目する時だと思います。
昔ながらのネットワーク力、コミュニケーション力を持つガス屋は今も健在です。そんなガス会社に、入居者と大家の「橋渡し」的な存在となってもらうのは、難しくないと思います。
ガス会社のスタッフを経由して入居者の声を聞きだし、需要に応えていく仕組みを作るのはどうでしょうか。ちょっとした困りごとの解決なら、器用なガス屋はちょいちょいと「サービス」でやってくれることでしょう。
もちろん、そこには、金額や契約書だけの関係ではない、大家とガス屋との人間関係が必要になってきますが。
所有物件でプロパンガスを使っているけど、ガスのことなんてこれまで考えることなんてなかった、という大家さんには、これを機に、ガス会社の担当者と話してみるのも良いと思います。
古い考えかもしれませんが、私はデジタル社会の現代だからこそ、ガス屋のネットワーク力と機動力に価値があると思います。それを生かすことで、これまでの「泥試合」は、入居者、ガス屋、大家にメリットのある「三方良し」に変わっていくのではないでしょうか。