法人税率が引き下げられていることから、法人で不動産を購入したいという需要はますます高まっていると感じられます。
そして、その際に、合同会社を設立される方が増えて来ました。インターネットで、定款の雛形が入手できたり、安価な設立代行の利用によって、手軽にできたりすることが要因でしょう。
ただ、安易に設立してしまって本当によいのでしょうか?
合同会社について、知っておくべきポイントをまとめてみました。
1.合同会社のメリット
(1)設立費用
合同会社の特徴は、設立費用が安いということです。
合同会社の設立登記の登録免許税は、「 資本金の額×0.7%( 最低6万円 ) 」です。
定款の認証は必要ありませんが、定款に印紙4万円を貼る必要があります。電子定款認証であれば、印紙は不要になります。しかし、電子定款認証の設備導入に費用がかかったりするため、手数料を支払って行政書士や司法書士が定款の電子署名を依頼するのが一般的です。
つまり、設立の段階では、最低6万円程度でできてしまうということです。
株式会社の設立の登録免許税は、「 資本金の額×0.7%( 最低15万円 ) 」で、かつ、定款認証が必要で、約52,000円かかります。定款に印紙4万円を貼る必要がある( 電子定款認証であれば、印紙は不要 )のは、合同会社と同様です。
株式会社の場合、最低でも設立に約20万2,000円はかかることになります。設立時点で、合同会社と株式会社では、最低でも約14万円の差が発生するわけです。
(2)役員の任期
合同会社は、役員の任期の期限がないため、役員がかわらなければ、変更登記の費用がかかりません。
一方、株式会社の役員の任期は「 最長10年まで 」であるため、実質的な役員の交代がなくても役員の登記( 変更がない場合には、重任登記 )が必要となり、費用がかかります。
(3)決算公告
株式会社の場合、決算を官報などに公告をする義務があります。
合同会社の場合には、決算公告が義務付けられていません。
2.株式会社と類似する点
(1)税制・社会保険
合同会社は、株式会社よりも税務上のメリットがありますか? と質問を受けますが、税務上は、株式会社も合同会社も同じ法人税が課税され、社会保険に加入しなければならないなど、取り扱いに変わりはありません。
(2)出資者の責任
株式会社の株主と同じく、合同会社の出資者は、有限責任のため、会社の負債の返済義務が出資者の財産にまで及びません。
(3)役員登記の表示
株式会社は、経営は株主総会から選ばれた取締役が行い、必ずしも株主である必要はありません( 所有と経営の分離 )。ですので、株主であっても、取締役ではないという立場が取れます。
取締役などの役員でなければ、登記簿上に名前は出てきません。出資だけで、会社経営をしなければ、勤務先の会社の兼業規定などには反しないケースも多いと思われます。
一方、合同会社はというと、株式会社と異なり、所有と経営の分離は認められておらず、出資者である社員が業務の執行を行います( 所有と経営の一致 )。つまり、原則は、出資者であれば、業務執行社員として経営陣という立場になります。
業務執行社員であれば、登記簿上に名前が出てきます。しかし、定款に定めることによって、社員のうちに業務執行する社員と業務執行しない社員に区分することが可能です。
業務執行しない社員になれば、登記簿上に名前が出てこないため、株式会社の株主と「 登記簿上の表示 」は同じになります。
(4)融資
5〜6年前までは、合同会社に融資しない金融機関も多くありました。しかし、合同会社が急増したことから、合同会社でも株式会社と同じように融資が受けられる金融機関が増えました。
3.合同会社の注意点
株式会社と合同会社の大きな違いは、議決権です。
株式会社は、原則として1株につき、議決権1個を持ちます。つまり、大株主が強い発言権を持ち、会社の方向性をコントロールできることになります。
合同会社は、出資額の金額にかかわらず、社員1人つき、1個与えられることになります。出資金額を多くしたところで、社員同士の発言権は平等になります。
合同会社の場合には、社員は必ずしも役員である必要はありませんが、( 上記2(3)参照 )、役員は必ず社員( 出資者 )になるというルールがあります。
合同会社で、安易に役員を増やそうとすると、議決権が分散します。定款変更には原則として、社員の全員の同意が必要です。1人の社員の反対があると意思決定ができなくなる可能性が出てきます。
社員が最初から最後まで自分1人であれば、全く問題ありません。しかし、ライフスタイルの変化に従い、配偶者やお子さんが役員に加わる可能性がある場合は、慎重に検討した方がよいかもしれません。
例えば、お子さんが3人いる場合に、株式会社であれば、株主は自分として、方向性をコントロールしながら、取締役をお子さん3人にして経営を任せて、役員報酬を払うことが可能です。
しかし、合同会社の場合には、役員にお子さん3人を入れると、お子さん3人とも議決権を持つことになり、仲違いすると、会社運営ができなくなることも想定されます。
合同会社によっても、定款に定めることによって、社員の議決権を出資割合とすることも可能ですので、これらの問題を回避する方法はあります。ただし、そのためには、最終的な会社のグランドデザインを描き、それに合わせた定款を予め作成しなければなりません。
会社設立前に、専門家に相談をした上で定款を作るか、そもそも株式会社を設立するべきかの検討をしないと、後々に後悔することが起こりえます。
株式会社と合同会社は設立時費用で14万円の差があると書きましたが、逆に考えると14万円の差しかありません。安いという理由だけで安易に決定しないようにしましょう。