JR川崎駅東口から歩いて13分、京急八丁畷駅から歩いて5分。ドヤ街として知られる川崎市日進町の簡易宿泊所がモダンなゲストハウスとして生まれ変わった。

同エリアは高度成長期に日雇いを中心にした労働者向けの簡易宿泊所が多く建ち並んでいた地域。全盛期には50軒ほどもの宿があったそうで、現在も少なからぬ宿が残されてはいるが、最近は宿泊というより、生活保護を受給する高齢者などが住居として利用している例が増えている。

また、2015年に少し離れた場所にあった2軒が火災で全焼、10名を越す死者、多数の重軽傷者が出たことから、以降、住宅としての簡易宿泊所の利用には行政の指導が入るようになった。本来は宿であり、生活の場ではないのだ。

そんな宿のひとつ「相楽ホーム」が、川崎市高津区に本社を置くNENGOによる改修を経て、「日進月歩」なるゲストハウスに生まれ変わった。

建物は1963年(昭和38)年に建てられた築54年の木造2階建て。だが、外から見ると3階建てにしか見えない。違法に3階部分が作られ、室数が増やされているのである。

違法部分は行政指導に基づき、是正済み。元々が簡易宿泊所であるため、違法部分撤去だけで用途変更は不要。ゲストハウスとして運用できるという。

もちろん、その分部屋数は減ったが、従前は生活保護の住宅扶助上限が1室辺りの料金の上限であったことを考えると、ゲストハウスとしてうまく稼働すれば部屋数は減っても、従前以上の収益に繋がるのではなかろうか。宿泊料金は素泊まりで1泊3,500円(税別)から。周辺よりはやや高めの設定だ。
1階は入ったところにはフロントが設けられ、その右手に共用のラウンジ。各階には共用のトイレ、洗面所、シャワーブースがあり、客室は1階、2階合わせて15室。客室は元々の3畳間が基本そのまま使われている。

1点、大きく変わったのは壁にドヤ街らしいユニークなアートが1室ごとに描かれていること。ドヤ街というネガティブなイメージを吹き飛ばすかのような勢いのあるアート揃いで、これが宿の雰囲気を変えている。多額の改修費をかけずとも、この手を使えば印象は大きく変えられるわけだ。
川崎市日進町は川崎駅に近いのはもちろん、京急を利用すれば羽田、成田へもダイレクトにアクセスでき、利便性は高い。駅からの近さにも関わらず、これまではまちのイメージが開発を阻んできたが、今後、外国人旅行客や土地の歴史を知らない若い層が入ってくれば、まちは大きく変化するかもしれない。
実際、日進月歩が生まれたことで、周囲も新たな可能性に気づき始めており、エリア内の不動産価格が上がり始めているとNENGOの中村彰氏。

川崎に限らず、山谷(東京都台東区)、釜ヶ崎(大阪市西成区)などといったドヤ街でも同様の変化が起きていることを考えると、これまでイメージの悪かった場所にほど可能性があるのかもしれない。
健美家編集部(協力:中川寛子)