いまや全国で空き家は約 849万戸、空き家率は 13.6%(務省統計局発表「平成 30 年住宅・土地統計調査」)と過去最高の水準である。野村総合研究所の試算※では 、2038 年には全国の住宅の 3 軒に 1軒が空き家になると予測されている。
空き家対策が急がれるなか11の団体が空き家問題の解消に向けて集結し、「全国空き家対策コンソーシアム」を設立。9月28日に行われた記者会見を取材した。
空き家問題は相続、除去、売却など様々な領域に及ぶ。
金融や不動産、ITなど業種を超えた連携が必要
「全国空き家対策コンソーシアム」は代表理事を務める株式会社クラッソーネが発起人となり各企業や大学に連携を呼びかける形で始まった。理事をアットホーム株式会社、株式会社 AGE technologies、大和ハウスパーキング株式会社、株式会社 LIFULL、株式会社リノバンクが務め、会員として東京大学連携研究機構 不動産イノベーション研究センター(CREI)、野村不動産ソリューションズ株式会社、みずほ不動産販売株式会社、株式会社三菱 UFJ 銀行、株式会社 LIXIL が参画する。
参画事業者・団体間にて専門ノウハウを共有することで、空き家所有者への啓発活動を強化し、空き家の増加抑制の実現を目指すことが狙いだ。
「当社は「『街』の循環再生文化を育む」というビジョンを掲げ、解体工事を通じて多くの人々の豊かな暮らしの実現を目指しています。その中で空き家問題の解決は重要だと考えており、解決には各分野の事業者や行政との協調が必要だと感じております」
クラッソーネでは66の自治体(行政運営の団体含む)と連携し、空き家対策事業に取り組んでいるが、空き家の問題は相続、除却、売却、活用など様々な分野に関連し、空き家所有者への支援は幅広い専門分野の情報を必要とすると感じていた。
そこで不動産、金融、駐車場運営など独自に専門ノウハウを持つ事業会社と連携し、知見を共有することで空き家の増加抑制に努めていく。
ゲストとして招かれた国土交通省、住宅局の住環境整備室長の石井秀明氏からは「空き家政策の新たな展開」と題したセミナーが開かれた。
石井氏はこれまでの施策は空き家を除去しようと、医療でいえば「終末期」の治療のような対応に重点をおいていたが、今後は、医療でいうところの「予防医療」のように空き家になる前段階での対策が求められると話し、次のような展望を語った。
「これまで空き家対策のメインプレイヤーは市町村でしたが、これからは民間ビジネスとして盛り上げていくべきだと考えています。空き家対策特別措置法ができたのは2015年。空き家ビジネスが始まったのはまだこの10年ほどでで、みなさん手探りだったのではないか。こうした団体ができたことはきわめて画期的で期待しています」
東京大学不動産イノベーション研究センター(CREI)の特任研究員である長瀬洋裕氏からは「長期空き家の外部性に関する分析」と題したスライド発表があった。4年以上の長期にわたり空き家があると、その約50mの範囲におよび長期空き家数が1軒増えるごとに周辺の住宅の取引価格が約3%低下することが明らになったことが報告された。
「長期空き家数を抑制する政策をとることで、住環境の悪化を軽減する効果が高い可能性を示している」と長瀬氏は分析。これらの研究結果も、産学連携による全国空き家対策コンソーシアムの取り組みにより、役立てられていくだろう。
約500万戸の空き家が活用できれば、
30兆円規模のマーケットが創出できる
理事を務める企業からは、各社、代表取締役社長が出席し、抱負が語られた。中でも印象的だったのが、株式会社 LIFULL 代表取締役社長 井上高志氏の言葉である。
いま約850万軒の空き家があるといわれているが、そのなかの約500万軒は市場流通していないものと考えられる。建物を耐震補強と断熱工事をして売値600万ぐらいで流通できたとすると30兆円のマーケットが作れることになると推察する。
「仮に500万軒の空き家がなんらかの形で投資できたとしたらどうでしょうか。みなさんと一緒に空き家を活かす活動をしていきたいと思っています」と井上氏。
アットホーム株式会社 代表取締役社長 鶴森康史 氏は、自社のネットワークを活用する計画を示した。
「当社では『アットホーム空き家バンク』を通じて、700 以上の自治体と全国約62,000 の不動産会社、そして生活者を“情報で繋ぐ”ことで、空き家の解消、地域の活性化、移住支援などに取り組んでおります。今後は各社との連携を図り、社会的な変革をもたらしたい」
株式会社 AGE technologies 代表取締役 CEO 塩原優太 氏は空き家の取得経緯の約過半数は”相続”が原因とされていることに触れ、相続登記手続きを効率化する WEB サービス「そうぞくドットコム」を運営するなかで空き家対策に寄与していきたいと語った。
大和ハウスグループとして駐車場の運営・管理を行う大和ハウスパーキング株式会社 代表取締役社長 宮武孝之 氏からはすぐに売却や活用の予定がないケースでも都市部であれば「駐車場」として活用できる可能性があることが伝えられた。
空き家所有者や自治体の依頼に基づき空き家の調査から利活用提案までを行うサービス『コダテノバリュー』と、リノベーションを通じて中古戸建流通市場の活性化を目指す WEB サイト『たすリノベ』を展開する株式会社リノバンク 代表取締役 芝田旅人 氏からは自社サービスを通じて協力したい旨が語られた。
こうした空き家対策の取り組みがスタートしたことを念頭に置きつつ、空き家を上手く活用できないかどうか、投資対象になりうるかどうかなど慎重に検討していきたい。
※2038 年には全国の住宅の 3 軒に1軒が空き家:出典元『 2040 年の 住宅 市 場と 課 題 -迫 力 を欠 くス ト ック シフ ト 、本 腰 を入 れた 取 組が 必要 -』 野 村総 合 研究 所