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数年後に取り壊し予定のビルにあえて移転し利用、JINS新社屋。「壊しながら、つくる」オフィスとは?

賃貸経営/リノベ・修繕 ニュース

2024/01/29 配信

数年後に再開発で取り壊し予定のビル。一般には貸せないものと考えられがちだが、アイウエアメーカーJINSを擁する株式会社ジンズホールディングス(以下JINS)はそんなビルを利用、「壊しながら、つくる」ことで新本社ビルを完成させた。これからの働き方、求められるオフィス像を考えながら見学してきた。

取壊し予定ビルに移転することで人心一新を

立地するのは千代田区神田錦町。地元に複数の不動産を保有する安田不動産所有のビルで、数年後には再開発で取壊しが予定されているという。

普通なら数年間しか使えないビルに本社を移転することなど考えもしないだろうが、JINSの代表取締役CEOの田中仁氏はそんなビルをわざわざ選んで移転を決意、順次工事を進めて2023年12月末に完成させた。

2024年1月、プレスなど関係者を招いての内覧会で田中氏は「自分たちがベンチャーであることを改めて認識、新しい価値づくりに挑戦するマインドを取り戻すために空間を変えた」とその理由を説明した。

移転以前の同社はJR飯田橋駅前の高層ビルの最上階とその下のフロアに本社を構えており、広さは現在の約2倍。360度を見渡すような眺望に恵まれたオフィスだったが、その快適な環境が企業としての成長を止めているのではないかと田中氏は感じていたという。いわゆる大企業病である。

そこで環境を変えることで企業マインドを変えようと当初は倉庫などを検討していたそうだが、なかなかこれは!という物件に巡り合えずにいたところに紹介されたのが現在の建物。取り壊し予定で原状回復は不要とあれば、自由に手を入れられる。

田中氏の挨拶を聞いて、そういう考え方もあるかと新鮮な驚きを感じた。たしかに期間は限定されるが、新たなチャレンジのためには良い舞台とも言えるわけで、そうした考え方をすれば取り壊し予定の不動産にもチャンスが生まれるというものである。

1階は外に開かれたコーヒーショップ「ONCA COFFEE」

建物は9階建て。内覧会では6~8階のワークスペースを除く空間が公開されたが、いずれも工夫のある一味違う空間ばかり。テーマは「壊しながら、つくる」。建築家・高濱史子氏のもとにフルリノベーションが行われている。

正面に見えているガラス部分は開放することができる
正面に見えているガラス部分は開放することができる。写真/太田拓実

以降、簡単にご紹介しよう。1階はフロアの奥に緑色が印象的なコーヒースタンドがあるスペースで同社が運営しているONCA COFFEE神田店が入っている。

その手前にはテーブル、椅子が用意されているが、ここは外に開かれたオフィスの一部であり、かつ地元の人達も利用できる空間。いろいろな人が交わる公園のような場とでも言えば良いだろうか、角地にあるため、二面のガラス窓を開放すると半戸外にもなる。わざわざ地域に関わろうとしなくても自然に関わりが生まれる空間と考えるとよく考えられている。

フラットな床に仕込まれた椅子が印象的

2階は一見平らなホールのような空間だが、よくみると格子状の床には木で作られた何かが仕込まれている。これは持ち上げて足を立てると椅子になるというもの。

個人的にはこれが一番面白かった。OAフロアのようで実は~という、なんだろうなと思わせる部分が楽しい
個人的にはこれが一番面白かった。OAフロアのようで実は~という、なんだろうなと思わせる部分が楽しい

使う人、使う場面に応じて全部を椅子にしても、一部に固まって座っても、あるいは内覧会時のようにすべてを床のままで広いホールとしても使えるというフレキシブルな仕組みで、これは住宅にもアレンジできないかと思わず考えてしまった。使う時だけ床から立ち上げる椅子とテーブル、それ以外の時にはフラットな空間というのは面白いと思う。

会議室前にはアート作品を展示

会議室フロア。商談にでかけてこんな空間だったら緊張するのか、弛緩するのか……
会議室フロア。商談にでかけてこんな空間だったら緊張するのか、弛緩するのか……

3階は広い廊下を挟んで会議室が複数並ぶ。その入り口には落下して割れたカップ&ソーサーの破片が仮想空間で再び出会う物語を表現した「Gravitation」と題されたアート作品が掲げられていた。真っ白な宇宙船の中をイメージさせるような空間に青く光る点が動く風景は映画のワンシーンのようだった。

作品そのものの入れ替えも予定されているとのことでアートに関心のある人は情報をチェックしてみても良いだろう。

5階には空気を浄化する新しい形のアートも

ポイントはガラスのケース内。外側はある意味、カモフラージュ的に用意された植栽
ポイントはガラスのケース内。外側はある意味、カモフラージュ的に用意された植栽

5階から8階までは中央が吹き抜けになっており、各階を繋ぐ階段が設けられている。5階には空間の空気を浄化するという新しい形のアート作品が置かれていた。アジアでは初の導入となる「Fabbrica dell’Aria」(以下「ファブリカ デラリア)という多彩な熱帯植物を利用した植物ろ過システムである。

建物中央の吹き抜け部分。原状回復がなければここまで大胆なことも可
建物中央の吹き抜け部分。原状回復がなければここまで大胆なことも可

これはフィレンツェ大学教授のステファノ・マンクーゾ氏が国際植物神経生物研究所で実証した実験結果を基に作られたもので、簡単にいえば植物の入ったガラスケースがろ過装置。

汚染物質を含んだ空気がケース下部から入り、植物の根と葉で分解、吸収されて清浄な空気となってワークスペースに出て行くという。

面白いのはこのシステムを監修した金沢21世紀美術館館長の長谷川祐子氏が内覧会で科学と芸術の融合について話をされていたこと。

これまでは空気を浄化するといった実用性のある装置は科学という分野に置かれていたと思うが、世界ではそれもまたアート。緑に癒され、リラックスし、自由な発想を生むと考えればそれがアートでもあるのは自然な流れである。

これはオフィスが実用性オンリーの場ではなくなってきていることと同じで、働き方の変化、働く人の生むものの意味が変化していることの例でもある。

実用オンリーのこれまでと同じオフィスでは選ばれなくなっているともいえるわけで、アートや緑、憩いなどオフィスにはこれまで以上に多様な空間、施設が求められているということだろう。

9階には従業員用「ARNE SAUNA」。ソロサウナも用意

グループサウナ。サウナストーンとして眼鏡型のものがあったのはご愛敬
グループサウナ。サウナストーンとして眼鏡型のものがあったのはご愛敬

最上階9階は従業員のためのリラクゼーションの場となっている。売りはグループとソロの2つのサウナ。グループサウナの外気浴スペースにはサウナ内で生まれたアイディアをすぐにディスカッションできるようにホワイトボードが備え付けられている。

ラウンジ。最近ではこうしたスペースを設けたオフィスが中心になってきている
ラウンジ。最近ではこうしたスペースを設けたオフィスが中心になってきている
一部に眼鏡のちなむ絵もあり、ポップな雰囲気
一部に眼鏡のちなむ絵もあり、ポップな雰囲気

ラウンジには電子レンジなどの置かれたキッチン、ソファ、書棚などが備え付けられており、ここにもアート作品が飾られていた。若い人の勢いのある作品が主流と見たが、どのような作品を選ぶかでも会社の雰囲気が分かるというものである。

田中氏は出身地前橋での活躍も知られている
田中氏は出身地前橋での活躍も知られている

ちなみにARNEは群馬弁の万能あいづち「あ~ね」から来ているそうで、そうなんだ、そうだね、なるほどと理解、共感、納得などを表わすのだとか。ソロサウナもあるものの、どちらかといえばコミュニケーションの場としての意味が大きいということだろう。

監修にあたった慶應義塾大学医学部特任助教の加藤容崇氏はリリースで「ただのリラクゼーションスペースではなく、社員の健康と企業文化の向上を目指すJINSの企業方針を体現する場所になっています」とコメントしてもいる。

内覧会では「ルーティンにならないオフィス」という最後のジンズ取締役社長の田中亮氏の言葉が印象に残った。これまでは効率優先でモノを考えてきたが、それでは仕事が作業になり、ルーティン化してしまう。

これからのオフィスにはそうしないために工夫が必要なのだろう。提供する側もそのあたり、意識したいところである。

健美家編集部(協力:中川寛子(なかがわひろこ))

中川寛子

株式会社東京情報堂

■ 主な経歴

住まいと街の解説者。40年近く不動産を中心にした編集業務に携わり、近年は地盤、行政サービス、空き家、まちづくり、地方創生その他まちをテーマにした取材、原稿が多い。
宅地建物取引士、行政書士有資格者。日本地理学会、日本地形学連合、東京スリバチ学会会員。

■ 主な著書

  • 「ど素人が始める不動産投資の本」(翔泳社)
  • 「この街に住んではいけない」(マガジンハウス)
  • 「解決!空き家問題」「東京格差 浮かぶ街、沈む街」(ちくま新書)
  • 「空き家再生でみんなが稼げる地元をつくる がもよんモデルの秘密」(学芸出版)など。

※ 記事の内容は執筆時点での情報を基にしています。投資等のご判断は各個人の責任でお願いします。

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