2005年は一般の人達の間で生成AI(Generative AI)が話題になった年だった。これまでのAIが分析、予測などに特化していたのに対し、生成AIはゼロから1を創出する力を持っているとされ、テキスト、画像、音声、動画などの多様なコンテンツを新たに作り出すことができる。すでにいくつか使っているという人も多いのではなかろうか。


実際、AI不動産投資のRENOSYが行った「2026年に挑戦したいこと、AIの利用意向調査」によると約2人に1人が挑戦したいことがあり、その具体的な内容としては1位に現職のスキル向上、2位にAI・データ活用技術の習得が挙げられており、使いこなしに向けて意欲のある人が多いことが分かる。
では、AIの活用は不動産業界にどのような影響を与えるか。AIを使った投資用不動産サービスなどを開発、運営している株式会社GA technologiesで主席研究員を務める稲本浩久さんに伺った。
情報を受信した途端から分析、査定がスタート
同社の事業は主に中古マンションを売買、それを管理するというもの。業務自体が多岐に渡ることからさまざまな場面でAIが使われている。そこでまずはひとつ、実際の場面でどのような形で使われているか、導入に至るまでを教えていただいた。

「物件査定の分野では2018年くらいからAIを利用してきました。徐々に精度を上げてきており、現在ではAIを中心に査定業務が行われていると言っても良いほどです。作業の流れを追って説明すると、業務の始まりは全国の不動産会社からいわゆるマイソクと呼ばれる販売画面が送られてくるところから始まります。最近はさすがにメールが大半で、ファックスはだいぶ減りました」
さて、送られてきたマイソク、それを元にした査定には2つ、問題があると稲本さん。
「ひとつは図面です。日本には2025年3月末時点で約13万社、不動産会社があるそうですが、それらの会社がそれぞれ思い思いのフォーマットで作成しており、それが送られてきます。そこでそれを自動で読み取り、デジタル化する必要があります。
もうひとつの問題は査定。これまでの査定は属人性が高く、Aさんは2000万円といった物件をBさんが2300万円というなど査定する人によって額が違うことも。それを安定したものにし、かつスピーディーに処理できるようにしたいと考えました」
その結果、現在ではメールで情報が送られてきた時点で自動的に物件が登録され、図面がデジタル化、自動で査定が始まるようになっている。同社では全国に数万室を管理しており、その情報を使えばいくらで貸せるかは容易に査定できるようになっており、そこからいくらなら買っても良いかが判断できる。過去に客付けその他で何か問題があった物件も分かるようにもなっている。
人間が目を通すのは一連の査定が終了した時点から。そこで周辺情報などと突き合わせを行い、本当にその額で良いかをチェック、良いとなれば購入ということになる。
「査定には多数の要素があり、中には矛盾するような条件もあります。たとえば高速道路の近くに立地していて、そこに防音壁があったとすると2階は防音壁のおかげでそれほどうるさくはないものの、5階は逆にうるさいかもしれない。
でも、5階のほうが眺望はよいかもしれない。細かくやりだすときりがありません。そこである程度までは最大公約数的なものとしておき、最後は人間が判断するというやり方です」
現在では住環境に影響を与えそうな施設や要件なども全部住所に紐づいて出てくるようになっているので、それを見ればどのような場所に立地しているかは一瞬で分かる。
「空室になっている物件や現在の賃料などで多少判断に時間がかかる場合もありますが、慣れた担当者なら即座に判断できることもあり、査定スピードは一気にアップしました」
同社には月に6000物件以上の情報が送られてきており、ひとつずつに時間をかけていてはいつまで経っても仕事が終わらない。だが、AIを使えばそれ以上の数を査定できることになり、それが扱い物件数の増加に繋がっている。
導入初期には工数が減らないと不評
だが、最初からスムーズに導入できたわけではない。
「最初にマイソクを読み取らせる技術を導入しようとした時には現場からその技術はすぐに消して欲しいと言われました。当時の読み取り精度は85%ほど。しかも、どこが間違えているかが分かりません。そのた、住所の中に中国語が混じるなど変な間違いが生じてしまい、工数はほとんど減らないと言うのです。
そこでその後の3カ月間、私が2万件ほどのマイソクを見てチェックしていたのですが、それでは作業が膨大過ぎる。そこでクラウドソーシングに出し、間違い探しをしてもらうようにしました。
それから1年ほどしたところで今度は現場からクラウドソーシングは要らないという声が出ました。一度外に出すとその分の時間がかかり、それが無駄だというのです。
1年ほど使ってみたところ、この仕組みは業務に必要不可欠だということが理解され、100%正確でなくても自分たちで直せばいいということになったのです。
AIに限らず、新しい技術などを取り入れようとする時に技術と現場の間での軋轢はよくあること。ネットスラングでは「PoC死(ポック死)」と言われています。概念実証(Proof of Concept:PoC)はしたものの、本格導入に繋がらないまま、プロジェクトなどが頓挫・中止になってしまうことを指しています。でも、それでおしまいにしてしまっては進化はありません。
人間の読み取りも精度としては90数%。そこをダブルチェックすることで精度を上げているわけで、AIの利用も同じです。試行錯誤しながらAIを使い続けることでいずれは業務を大きくサポートしてくれるようになり、その積み重ねが業務を支援、楽になっていきます。そこまで使い続けられるか、そこが大事です」
導入はしてみたものの、現場が使いたがらないからと中止してしまってはダメということ。
「今後、AIが活用できない不動産会社は他社に比べてコストがかかるようになり、サービスの品質にも影響が出てくるはず。変化にきちんと対応できてこそ、良いサービスも提供できるのではないでしょうか」
人間とAIで業務に合わせた協働作業を
とはいえ、大事なのはAIにすべてを任せるのではなく、人間との協働作業。AIに全面的に任せるのではなく、AIが出した結果を正しく判断し、使いこなしていくことで、具体的にどうすべきかは業務の内容によっても異なるという。
「たとえば管理業務は定型作業が多く、かつリアルタイム性が問われない作業なので、AIに任せやすい業務です。スケジュール、やるべきことなどを管理してもらうことでついうっかり忘れていたといったミスを減らせます。
一方でクライアントに自動でメールを送らせるようなことはまだまだ怖くてできません。やはり最後は担当者が自分でチェックする必要があるでしょう」
今の段階では一見無人のように見えている自動運転でも実際には後ろで人がコントロールしているのだという。よくニュースなどでカリフォルニアの自動運転の映像が流れているが、基本的にはAIが運転しているものの、AIが判断に迷う場面に遭遇した時には人が介入し、支援している。
「たとえばすれ違いが難しい道路で対向車が来た。脇に私有地があり、そこに入ればやり過ごせるものの、AIが私有地に侵入するという判断ができるよう、人間がアドバイスするというわけです」

防災センターで複数のモニターを人が監視している風景をイメージしてみると分かりやすいかもしれない。よく、AIの台頭で仕事が奪われるという言い方があるが、それよりも一人でできることが増えると考えれば良いのかもしれない。
これまでは1人で1台を運転していたが、これからは複数台の車を一人が監視、きちんと安全に走行するようにするというわけである。人口減少の中、一人でできることが増えるのは社会的にも意味のあることかもしれない。
こうして人と協働することで精度を上げていく努力もまだまだ必要だという。入力して、情報を整理、分かりやすくするところまでは簡単にできるようになったが、精度自体は前述した通り、まだ85%ほど。
それでも商品のリコメンド機能のように多少間違っていても問題にならないような業務ならそのままでも良いが、不動産などのように多額のお金が動く場合にはやはり100%を目指したい。これからの課題はそこだ。
不動産業界の“怪しさ”を解消、より不動産が流通する社会へ
では、今後、AIの進化は不動産業界をどう変えるのだろう。起こりつつある変化のひとつが非構造化データが構造化されるようになることだという。
非構造化データ(注参照)とは、メール、画像、動画、音声、文書ファイルなどの一定のルールで決められた形式や構造を持たないデータのことで、世界中のデータの大半を占めている。これに対して構造化データとはエクセルで作成されたシートのように管理しやすい形になっているもので、コンピュータで扱うためにはこの形である必要がある。
ところが、非構造化データは膨大で、かつ種類も多岐に渡っているため、これまではそれを分析、整理して使うことが難しかった。だが、今後、AIを使うことで専門家がいなくても、こうした大量のデータを分析、構造化することができるようになる。
そうなれば膨大な情報の中から瞬時に必要な情報が抽出できるようになる。考えてみれば不動産業に限らず、さまざまな業務ではまだまだ紙の書類が多く、資料として画像が添付されていたりする。そうしたものがすべてパソコン上で整理されたら、どれほど業務が楽になることか。
また、そうして情報が整理、データ化されていくことで不動産業界のイメージが変わるのではないかと稲本さん。
「いまだに不動産業界にグレーなイメージを持っている人がいらっしゃいますが、それは信用できるデータが少ないため。でも、現在、私たちが業務を楽にするために行っている非構造化データの構造化への転換が進み、その正確なデータが公開されるようになればそれが不動産業界のイメージを変えてくれるのではないかと考えています」
また、信用できる価格データが明らかになることなどによって空き家の流通も増えるのではないかという。
「これまで空き家を所有していてもなんとなく不動産会社に相談しに行かない人が多くいました。その背景には不動産会社に対する漠然とした不安に加え、不動産会社のスキルの低さもあったのではないかと思っています。本来なら1000万円で売れるのに、面倒なので早く売りたい、だから800万で売りましょうというようなやり方です。でも、そこで1000万円で売れることが分かり、実際に売れるようになったら空き家も流通するようになるのではないかと思います」
もうひとつ、不動産所有者にも自分でできる範囲が広がるのではないかとも。
「大量の紙のファイルの中にあった情報が明らかになり、価格が誰にでも分かるようになり、管理業務の進展が見えるようになってきたら、所有者も判断がしやすくなり、自分の意思を不動産会社、管理会社などに伝えやすくなるはずです」
もちろん、所有者自身にその意思があるかどうかが大事になってくる。新しいモノに躊躇せず、がんがん使っていきたいものである。
以下、注
構造化データ:大部分(約80~90%)を占めますが、その膨大な量と自由な形式ゆえに従来のデータベース管理や分析が困難なのが特徴。近年では、AI(人工知能)や 機械学習(ML)、自然言語処理(NLP)技術の発展により、これらのデータから価値ある洞察を引き出す活用方法が注目されてる
構造化データ: Excelシートのように整理され、RDB(リレーショナルデータベース)で管理しやすいデータ(例: 顧客ID、売上金額)







