長崎IR、ハウステンボス隣接 目指してきた開業時期は2027年
九州圏への経済効果3000億円以上、雇用創出3万人
4月14日に大阪の「カジノを含む統合型リゾート(IR)」の整備計画が認定されたことはこれまで報じてきたが、同時に認定を申請していた長崎のIRは継続審査となった。
改めて認定されるチャンスはあるが、実際に認定され、開業されるかされないかで周辺の人の流れは大きく変わり、長崎における不動産投資をどうしていくかの戦略にもかかわってくる。今回は、長崎IRの特徴や、なぜ認定されなかったかを探ってみたい。
整備計画によると、IRの仮称は「九州・長崎IR」。長崎県佐世保市にある日本有数のテーマパーク「ハウステンボス」に隣接している。広さは約32ヘクタールあり、2027年の開業を目指している。
運営する事業者は「KYUSHUリゾーツジャパン株式会社」。中核株主は、世界でカジノを展開するカジノオーストリアインターナショナルジャパンと、外資系の事業会社となっている。
具体的な設備としては、カジノ施設のほか、大規模な会議場や展示場などのMICE施設、送客施設、ホテルといった宿泊施設などかある。
長崎IRの特徴としては、次の3つをあげている。
まず1つ目が「風光明媚な大村湾、ハウステンボスとの隣接」。
具体的には、風光明媚な大村湾に面したマリンリゾートの演出に最適であることを指摘。。さらに、海上移動が活かせるハーバーに隣接しており、長崎空港から海上でダイレクトアクセスが可能としている。
このほか、IRのエリアはすでに開発済みの用地であり、隣接するハウステンボスが観光客を受け入れるためのインフラ整備をすすめてきたことが優位な点であるとする。
2つ目が「佐世保市の地域性」だ。
IRが立地する佐世保市は、大型集客が可能な観光施設とともに歩んできた歴史があり、米軍基地との共生するなど、国際性のある先進的な取り組みに理解を持つ地域であるとする。
加えて、年間を通じて温暖な気候や地震発生確率の低さなど、快適で安全な環境にあることを指摘。とくに、佐世保市で今後30年間の震度6弱以上の地震が発生する確率が0.7%と、全国的に最も低い地域となっていることをアピールしている。
3つ目が「アジアに近い観光アイランド九州」であることだとする。
九州地域について、成長著しいアジアに最も近く、古くからの交流の歴史を土台とした観光資源に加え、温泉、自然、都市文化など多様性に富む日本の魅力が凝縮された「観光アイランド」であると表現。今後増加するインバウンド(訪日外国人客)にとっても魅力出来だとする。
年間売上高の想定は、開業5年目に約2716億円。このうち、カジノでの売上高は約2003億円で、およそ7割を稼ぐとみた。カジノ以外の売上高の想定は約712億円で、約3割を占める。この5年目の年間の最終利益は、約302億円になると弾いた。
そして、長崎IRの九州圏内の経済波及効果は3000億円以上、雇用創出効果は3万人に上るとみられている。
初期投資額4383億円 資金集めるクレディ・スイスが破綻
認定が遅れれば開業時期も後ろ倒し可能性
しかし、大阪IRと違い、長崎IRの認定は国によって見送られ、継続審査となった。なぜなのだろうか。
国は、その理由を公表していない。だが、有力な理由と考えられているのが、開業に必要な資金調達に不安が出てきたからではないかということだ。
長崎IRの初期投資額は約4383億円。このうち設備投資額は約3527億円に上る。
この投資資金を集める取りまとめ役の一つが、スイスの金融大手クレディ・スイスだった。
クレディは、米国の利上げによる保有債券の含み損拡大に端を発する、今年3月の米シリコンバレー銀行の経営破綻の影響で経営危機に陥り、6月、スイスの同業大手UBSに買収された。
このため、資金調達がうまくいくかについて疑義が生じ、今回の認定は見送られたのではないかというわけだ。
だとすれば、長崎IRは、確実な資金調達のシナリオを、改めて示さなければならなくなる。
認定までさらに時間がかかることになれば、開業の時期も後ずれすることになるだろう。
最寄駅はハウステンボス駅 ロープウェイで結ぶ
JR大村線沿線などにも賃貸需要が出る可能性あり
だが、もし開業すれば、ここで働く従業員らの賃貸需要や、観光客のための宿泊需要が高まるはずだ。
長崎IRの最寄り駅になるのは、JR九州のハウステンボス駅で、長崎IRからは約1.3キロの位置にある。IRとハウステンボス駅は、ロープウェイで結ぶ計画がある。ロープウェイは1台8人乗りで、輸送能力は1時間当たり1200人になるという。
このハウステンボス駅があるのが大村線だ。佐世保駅や長崎駅などともつながっており、沿線の駅には一定の賃貸需要が生まれる可能性がある。同様に、観光客のための宿泊施設の需要も生まれてくるだろう。
今後、長崎IRがどのようなスケジュール感や経緯で認定に向けて動くのかはまだ不透明だ。
しかし、審査は引き続いて行われる予定となっている。長崎県の大石賢吾知事も記者会見で「継続審査ということは不認定ではないと理解しているので、認定されるチャンスはまだ十分にあると理解している。
IR誘致の成功は県政の最重要課題と思っているので、引き続き早期認定をいただけるよう、県として取り組みを進めていきたい」と発言。前向きな姿勢を捨てていない。
不動産投資家に大きなチャンスを生みうる長崎IRの行方を引き続き注視していきたい。
取材・文:
(おだぎりたかし)