千葉県船橋市と八千代市を結ぶ第三セクター路線
東葉高速線は、第三セクターの東葉高速鉄道が運営する鉄道路線。1996年に開業し、千葉県船橋市の西船橋駅と八千代市の東葉勝田台駅を結ぶ。
路線距離は16.2㎞で、駅数は9駅にのぼる。沿線地域には住宅街や文教地区、商業地が整備され、西船橋駅からは船橋、幕張新都心、舞浜へ、東葉勝田台駅からは成田空港へアクセスしやすいのが特徴だ。
同線では、海老川上流を通る東海神駅と飯山満駅の間に、船橋市が設置費用約65億円を負担して誘致する請願駅を、2026年に開業する予定で取り組みを進めていた。
ところが、船橋市は新型コロナウイルスの影響で地権者を集めた会合を開くことができず、区間整理の事業の遅れなどを理由に、2年遅れた2028年度末にずれ込む見通しを示した。
なぜ、この場所に新駅を開業するのか。背景にあるのは、船橋市による「ふなばしメディカルタウン構想」が関係している。
同エリアでは東葉高速線の開業時から土地区画整理事業が構想され、住宅地・商業施設の整備に伴う新駅の設置が計画されていた。
ところが、地権者の同意を得られず、2009年には事業施行の業務代行予定者が正式に撤退を表明することに。その後も民間事業者から事業参画の申し入れがあったが進展することなく、時間だけが過ぎていった。
こうしたなか、転機が訪れたのは2015年のこと。船橋市の松戸徹市長が、老朽化の課題を抱えていた市立医療センターを海老川上流に移転すると表明するとともに、医療・健康をテーマとした「メディカルタウン」にすることを構想したのだ。
翌年にはまちづくりの検討が本格化し、2018年には地権者による土地区画整理組合の設立準備会を設立。2021年の船橋市都市計画審議会では、関係する都市計画の変更や土地区画整理事業などが承認され、2022年3月には組合設立が認可されている。医療センターに関しては2024年度から工事に着手し、2026年度に開院する予定だ。
ふなばしメディカルタウン構想では医療センターの移転以外に、都市のなかに健康意識が高まるさまざまな仕掛けも施す。例えば、新駅の北側に整備される公園は、健康、憩い、交流といったコンセプトを掲げ、せせらぎなどの親水空間や芝生を配置し、自然豊かな空間を創出。
歩道、河川管理用通路、公園などの公共用地を活用し、ウォーキングコースも整備するという。ここからわかるのは、新駅はメディカルタウン構想の一部だということだ。
新駅開業とメディカルタウン構想は密接に関係
新駅と医療センターの間には医療施設を充実させ、病気の早期発見、治療につなげるクリニックモール・健診センターを配置。保育施設や高齢者福祉施設などが整備された、多様な世代が憩い、交流するゾーンになることを目指し、クリニックモールや温浴施設、保育・福祉施設、スポーツクラブなどを誘致する方針だ。
このように、新駅開業とメディカルタウン構想はセットで計画されている事業。新駅は医療センターへのアクセスに重要な役割を果たすが、今回の遅れは大きく影響すると言わざるを得ない。今後の動向は気になるところだ。
現状、新駅予定地の南側には住宅街が広がる。新しい駅ができ周辺の開発が進むと、住まいとしてのニーズはさらに高まるかもしれない。一方、駅の北側は住宅街に加え、市場通りのロードサイドには自動車ディーラーや飲食店、コンビニなどの商業施設が建ち並ぶ。
新駅の隣にある東海神駅、飯山満駅ともに、ここ数年の中古マンション価格、賃貸マンションの賃料は上昇しており、今後もメディカルタウンや新駅の開発により、より人気のエリアになっていくかもしれない。
一方で気になるのは、東葉高速鉄道の財政状況だ。同社の2022年度決算によると、旅客運輸収入は142億円、運輸雑収入は5億円弱、利用客は5067万人、1日平均で14万人と順調に映るが、2297億円の長期債務が存在している。
返済や利払いだけで負担は重く、昨年5月には、はやくて2028年度に資金ショートする可能性があると報じられた。2021年度は約10.5億円を長期債務にかかる利払いのみに費やしている。
ただし、翌年度は7.8億円に留まり、これにより経常利益・営業利益は大幅に改善した。債務超過の状態であり、経営上の大きな課題であることは事実であり、新駅の開業とこれに伴う再開発による利用客増、他沿線における地域開発や発展も期待されるところだ。
健美家編集部(協力:
(おしょうだにしげはる))