訪日客が急増して観光地を中心に日本に賑わいが戻った。インバウンド需要が日本を支えている。その日本の首都である東京の総合的な力を図った指標がある。森記念財団 都市戦略研究所が11月に発表した「2023年版『世界の都市総合力ランキング(Global Power City Index)』」によると、東京は8年連続で3位をキープした。1位はロンドン、2位はニューヨークとなり、東京の後にパリとシンガポールが続き、この上位5都市まで昨年と順位は同じだ。
東京はいつまで経ってもロンドンとニューヨークの後塵を拝しており、もどかしさを感じるが、一方で8年連続3位にランクインしていることの摩訶不思議を指摘する声も少なくない。日本の国力が総体的に落ちている中で、東京がなぜ3位をキープできるのか。
同調査は、『経済』『居住』『研究・開発』『文化・交流』『環境』『交通・アクセス』の6分野ごとに評価している。その経済での評価を見ると、東京は過去最低の10位まで転落した。
その要因として「GDP成長率」「優秀な人材確保の容易性」「法人税率の低さ」という3つの課題が改善されずに世界の都市と比べて劣っていると判断されたためだと指摘している。コワーキングスペースやインターネット速度で測る「ワークプレイス充実度」も評価を下げている。
居住費の安さで評価を上げる実態は
経済分野だけの評価では、1位がニューヨーク、2位がロンドンとなっている。ニューヨークはGDP、上場株式時価総額、賃金水準の高さが経済トップ評価の要因となっており、ロンドンでは働く環境の評価であるワークプレイス充実度が貢献している。
総合力で東京の背後に迫るシンガポールも、経済分野では4位と「賃金水準の高さ」で高評価を受けて東京より評価が高い。総合力でトップ10圏外の北京も経済分野で昨年の4位から3位で上げており、その要因はワークプレイス充実度だ。これまで東京の強みであった経済力が沈み続けている。
こうした半面、東京の『居住』評価は前年から大きく躍進して3位となり、『文化・交流』も前年と変わらず5位を維持した。居住評価の高さは、「住宅賃料水準の低さ」や「物価水準の低さ」の評価が上昇していることと、「小売店の多さ」や「飲食店の多さ」という生活利便性の高さによるものだ。
つまり、世界水準で見れば、為替変動の影響を受けて生活コストが低い都市としての評価だ。安いニッポン、安いトーキョーが居住評価を上げた要因だ。むしろ日本人にとっては、高い居住費と物価高であえいでいる。
将来、近隣アジアの高齢者が「老後は、生活費がかからずに利便性の良いトーキョーにでも行こうか」という現象が出てくるかもしれない。
ひと昔前までは、日本人が「老後は年金内で豊かなに暮らせるマレーシアにでも行こうか」などということが流行ったが、その逆バージョンである。国力のなさで評価が上がる現象を高評価としていいのか素直には喜べないのが実情だ。
『文化・交流』も前年と変わらず5位だった。「ホテル客室数」と「食事の魅力」は高い評価を受けている。「ハイクラスのホテル客室数」を増やしたり、「ナイトライフの充実度」などの評価が上がれば、文化・交流の順位はトップを狙えそうだ。
ナイトライフの充実度と称して地元に迷惑が生じるようなものは御免こうむりたいが、円安ニッポンに大挙する観光客のニーズをどこまで満たせるかが鍵を握っている。
世界から見捨てられるアラートが鳴る
訪日客の来やすさも総合力を上げるためにカギを握る評価対象だが、『交通・アクセス』は8位と前年から2ランク上げている。「公共交通機関利用率」の評価が最も高いほか、「国内・国際線旅客数」や「タクシー・自転車での移動のしやすさ」高い評価を維持している。
さらに順位を上げるには、「国際線直行便就航都市」と「空港アクセス時間の短さ」など海外の人が来日しやすい利便性に改善余地があるとしている。
同研究所では、新たなビジネスや価値の創造を支える環境整備と人材育成が総合ランキングを上げるカギだとしている。優秀な人材が集まるような環境を整備するために、ワークプレイスやICTなどの労働環境の整備に加えて、多様性社会の推進であったり、ナイトエコノミーの推進など文化的な側面からの新たなアプローチが重要になるとみている。
個々の評価の裏側では、東京というよりも日本政府が背水の陣で臨まなければ世界から見捨てられかねないというアラートが鳴っている。同研究所が発表する来年の「世界の都市総合力ランキング」も東京は3位なのだろうか。
健美家編集部(協力:
(わかまつのぶとし))