源泉徴収票など偽造 偽口座サイトもつくって対面審査で示す
またもや不動産投資を取り巻く環境を厳しくしかねない悪質な事件が起きた。
源泉徴収票などを偽造して横浜銀行から3億8000万円もの不動産ローン(アパートローン)の融資金を詐取したとして、不動産コンサルティング会社代表や、こともあろうに現役の三菱UFJ信託銀行職員ら計4人が詐欺などの疑いで逮捕されたのだ。
不動産投資をめぐっては、2018年に明らかになったスルガ銀行の不正融資が記憶に新しい。今回も横浜銀の融資姿勢が問われると同時に、ほかの金融機関の融資姿勢がさらに厳しくなる恐れもある。
不動産投資家は、物件を買いたいがために怪しいコンサルなどの口車に乗って犯罪に手を染めてしまわないよう、細心の注意が必要だ。
まず、今の時点で分かっている事件の概要をみてみよう。
警視庁に逮捕されたのは、不動産コンサル会社「UP―Fコンサル」(東京都千代田区)の藤本優容疑者(31)と同社の社員2人、三菱UFJ信託銀職員、松田大樹容疑者(47)ら4人。
UP―FコンサルのHPの採用ページには「『不動産会社=悪徳』のイメージを払拭し、お客様の人生を豊かにする」とあるが、容疑が事実なら、まったくの噴飯ものだ。
手口はこうだ。
犯行の時期は22年3~5月。松田容疑者の名義で横浜銀へアパートローンの融資を申し込むにあたり、松田容疑者の源泉徴収や金融資産の残高証明書を偽造し、メールで横浜銀へ送付した。
さらに藤本容疑者らはプログラムで金融機関の公式サイトに酷似した偽のサイトを偽造。横浜銀の担当者との対面審査で、その偽サイトの画面を見せ、IDやパスワードを打ち込んでログインし、偽の預金残高を表示して、融資を受けるのに必要な残高があるかのように装った。そしてまんまと審査を通過し、3億8000万円の融資を引き出した。
松田容疑者は約3億3000万円でアパート1棟を購入。賃料収入を得て返済を続けていた。また、融資額との差額5000万円と、手数料1000万円が松田容疑者サイドに支払われたという。
顧客もグルになり偽造へ加担 ほかの複数地銀から32億円詐取か
藤本容疑者らは19年から22年にかけ、複数の地銀から合計で約32億円を詐取していたとみられる。事件は広がりをみせそうだ。
スルガ銀の問題が明るみに出て以降、金融機関による不動産ローンの審査が厳しくなったのをくぐり抜けるため、詐欺に手を染めたとみられる。事件の詳細は、これから明らかになってくるだろう。
それにしても、わざわざ偽サイトをつくる手口は、ウェブ上で偽サイトに誘導してお金をだまし取るフィッシング詐欺と変わらない悪質なものだ。組織的な犯罪といってもいい。
スルガ銀行と違うのは、アパートの購入者が不動産コンサル会社とグルになって必要な書類を偽造していた点だ。スルガ銀行では、購入者が知らない間に改ざんが行われていた。
しかも、今回の購入者は、三菱UFJ信託銀という、メガバンク系の超優良金融機関の職員でかなりの高属性。若いころから勤めていれば、47歳という年齢はかなりだ。
31歳という若いコンサル代表の口車に乗せられうっかり悪事に手を染めたと考えるのは不自然であり、「確固たる信念」で悪事をおこなったといっていい。
なぜ5000万円超過のオーバーローン 高属性を過大評価?
そして、横浜銀の審査姿勢も問われることになるはずだ。
そもそも、3億3000万円の物件を購入するにあたり、3億8000万円という5000万円も額が多いオーバーローンを組むことを認めたのはなぜなのか。
その5000万円が不動産コンサル側の懐に入っていることを考えると、横浜銀の担当者と不動産コンサルがもともと親密で、たとえばキックバックやリベートが横浜銀の担当者に支払われるといった関係ではなかったのか。
さらには、たとえば預金残高をチェックするさい、通帳を調べなかったと思われるが、そのプロセスに瑕疵はなかったのか。
そして、横浜銀も不動産融資には厳しくなくなっていたはずだが、三菱UFJ信託銀職員という顧客の高属性を過大評価として、少々怪しい点があっても、融資を通してしまう甘さがなかったのか。
こうした疑問も、今後の捜査や裁判で明らかになってくるだろう。
不動産投資家にとって懸念されるのは、今後、融資の審査がますます厳しくなりかねないことだ。
高属性なのに、明らかな犯罪を働いてまで融資を引き出す輩が出てきては、不動産投資家に対する金融機関の警戒心が高まってもおかしくはない。少しでも引っかかる点があれば、融資をはねられるケースが出てくる可能性がある。
不動産投資家は、まずは誠実に金融機関へ向き合っていくことが大切だ。
その上で、不動産コンサルなどへ安易に、過度に頼りすぎないよう注意したい。日経平均株価が最高値を更新するなど、日本はデフレ脱却へ向けての機運が高まり、不動産市場も活況を呈してくる可能性がある。
こうした局面で必ず出てくるのは、活況のおこぼれにあずかろうという悪質な業者たちだ。その口車に乗って犯罪にかかわり、逮捕されるなどして、一生を棒に振らないよう気をつけたい。
取材・文:
(おだぎりたかし)