政府は「貯蓄から投資へ」のスローガンを掲げて久しく、金融庁は金融教育を学習指導要領に組み込むなど、近年は国民の金融リテラシー向上にベクトルが向けられ始めている。
上記のような方向性が巷にも浸透し始めているためか、教育の変化に敏感とされる受験の世界においても、世相を反映するかのように投資や金融関連の出題が見られた。
今回、今春の受験シーズンにおける出題事例を紹介することで健美家ニュース読者にも”バーチャル受験”をしてもらいながら、不動産投資にも関連する箇所に焦点を当てたい。
屈指の進学校でも不動産や起業に関する出題があった
東京大学合格者数ランキングで長年に渡って上位に位置する某私立高校の学力試験(入学試験)で今年、「社会」の科目で以下の問題が出題された。問題冒頭の説明文において「起業」や「空き家」などのキーワードが登場する。
「一般的に、新しく事業を始めることを『起業』と呼びます。中でも、社会的課題の解決を目的とした事業を始めることを『社会的起業』と呼びます。(中略)
ソーシャル・ビジネスの例としては、(中略)⑥空き家を活用して住まいと仕事を提供する事業などが挙げられます。2006年にノーベル平和賞を受賞した⑦グラミン銀行も、社会的起業の一つです。」
下線部⑦に関しては以下に示す設問が出された。今どきの中学3年生に「担保」という言葉が常識なのか興味深いが、健美家ニュース読者にとって、この時事問題は”サービス問題”となっただろうか。
「バングラデシュのグラミン銀行は、生活に困窮する人々が事業を始めるための少額の資金を、無担保で融資する事業を始めたことで有名です。この事業を何と呼ぶか、カタカナで答えなさい。」
特定のビジネスモデルに対する理解度を問う問題も
前述の下線部⑥に関しては、不動産を活用したビジネスの例としてさらに以下の文章を受験生に読ませた上で設問に進む。ビジネスの利害や価値を考えさせる問いの中でシェアハウスも登場する。
「現在、日本には、差別や貧困によって住まいと仕事を持つことができない人がいる問題と、高齢化などにより空き家が増加しているという問題があります。こうした状況を改善する方法について、『Renovate Japan』による『タテナオシ事業』を参考にして考えてみましょう。
空き家を利用するには、まず改修作業が必要です。そこで、空き家(X)の改修作業を、住まいと仕事に困っている人に依頼します。同時に、その人を、会社が前もって改修しておいた空き家(Y)に受け入れます。このように、空き家(Y)に泊まり込んで空き家(X)の改修に参加する人は、この事業においては『リノベーター』と呼ばれます。
ただし、空き家(Y)には宿泊費を設定しておきます。その上で、空き家(X)の改修作業に従事した時間数に応じてリノベーターに賃金を支払い、宿泊費を支払えるようにします。もちろんリノベーターは、宿泊費以上の収入を得ることも可能です。このようにすれば、住まいと仕事を提供することができます。」
設問は以下の内容だ。健美家ニュース読者にとっては朝飯前と言えるだろうか。正答例が気になるところだが、公表されていないのが残念なところだ。
「第三段落のしくみについて考えてみると、会社の支出の方が多くなっています。そこで、Renovate Japanはこの事業によって改修を終えた空き家(X)を、シェアハウスとして活用しています。これはリノベーターもその他の人も、家賃を支払ってともに住むことができるものです。そして『住むだけで”社会貢献”してみませんか?」と呼びかけるなど、入居者を募集しています。
それでは、空き家(X)に住む、リノベーター以外の入居者について考えてみたとき、その人はなぜ社会貢献していると言えるのでしょうか。説明しなさい。」
今後の金融教育における実効性にも期待!?
一方、金融庁HPに掲載されている情報は、資料の幾つかを見る限り一般的かつ基本的な内容にとどまる。最終的には自己責任で取り組むことが必要という投資の本質をはじめ、甘くない現実や実態を正確に伝えることも欠かせないだろう。
また、全体像が示されていると言っても、不動産に関しては唯一、「投資」のパートで「Jリート」について言及があるのみだ。「不動産投資」や「レバレッジ」といったキーワードは無く、そもそも監修者の間で不動産投資・不動産賃貸業が金融教育の対象として実際に検討されたかは不明だ。
最近の健美家ニュースで住宅市場を軸にした未来の日本に関して取り上げられたように、今の高校生をはじめとした若年世代にとって将来の住生活に着目することは必須とも言える。
金融教育が常に進化を遂げ、若年世代にとってイノベーションを起こす助けとなることにも期待したい。
執筆:
(さんとうりゅうおおや)