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奈良県御所市の分散型ホテル「GOSE SENTO HOTEL」。歴史ある街並みにこれからの変化の期待大

都市計画・再開発(地域情報)/神戸・京都/関西 ニュース

2023/04/24 配信

奈良県御所市をご存じだろうか。「ごしょ」と読みたくなるが「ごせ」だ。古事記や日本書紀などに記載された古代の地名が多く現存する、飛鳥文化以前から栄えてきた地域である。江戸時代には伊勢街道、竹内街道、高野街道などの交通の要衝として、また、大和絣、菜種油、薬などの取引でも繁栄してきた。

だが、交通手段の変化とともに衰退。というのはどこの街でもよくある話だが、ここ数年、街が変化し始めている。

これほどの街並みが残っていたとは!

御所市を訪れることになったのは2022年10月誕生した分散型ホテル「GOSE SENTO HOTEL」を見学、取材するため。

分散型ホテルとは街全体をひとつの宿泊施設に見立てたもので、一定地域内にある一か所のフロント、点在する客室などからなる。

従来のホテル、旅館がひとつの施設内でフロント機能、宿泊機能、飲食提供機能などさまざまな機能を提供、施設にのみお金が落ちる仕組みだったのに対し、地域内に機能を分散させることで地域の経済が回ることから地域再生に寄与するといわれる。そのため、全国各地で主に空き家などの遊休不動産を利用した分散型ホテルが増加しているのである。

駅近くの商店街。開いている店を数えるほうが早い状況
駅近くの商店街。開いている店を数えるほうが早い状況

そのひとつが御所市の「GOSE SENTO HOTEL」。御所はJR、近鉄が利用できるが、奈良からはどちらで行っても50分から1時間ほどかかり、あまり便利とは言い難い場所。しかも、駅前は非常に寂れており、無人。こんなところに分散型ホテル?と思ったものである。

全く知らない土地だったが、歴史が色濃く残る街並みに圧倒された
全く知らない土地だったが、歴史が色濃く残る街並みに圧倒された

だが、歩きだして反省した。古い、栄えた街で、交通の便の悪さが幸いしてというべきだろう、往時の立派な建物が軒を連ねて残っているのである。

奈良県には古い街並みがそっくり残っていることで知られる今井町(橿原市)という国の重要伝統的建造物群保存地区があるが、それを彷彿とさせるような街並みなのだ。

街並みの向こうに葛城山。つつじが有名だそうで、観光客はこうした街並みを見ることなく、反対側の葛城山に行ってしまうそうだ
街並みの向こうに葛城山。つつじが有名だそうで、観光客はこうした街並みを見ることなく、反対側の葛城山に行ってしまうそうだ

まだ広く知られてはいないが、この価値を生かすような活用が行われれば、この地域は面白いことになるのではないか、そんな期待を抱かせる、ポテンシャルのある街なのである。

きっかけは市からの銭湯再生の依頼

建物右側がホテル、奥はカフェバーとなっており、地元産の食材を使ったランチなどが頂ける
建物右側がホテル、奥はカフェバーとなっており、地元産の食材を使ったランチなどが頂ける

さて、取材目的だった「GOSE SENTO HOTEL」は日本で最初に丹波篠山で分散型ホテルを手がけたNOTEに繋がる人たちが手掛けたもの。

名称の通り、銭湯と2か所の宿泊施設、洋食店から成っており、プロジェクトのきっかけとなったのは銭湯。2008年に廃業した「御所宝湯」を再生できないかと市から相談があったのだ。

再生された御所宝湯。残念ながら開業前の時間で入浴は叶わず
再生された御所宝湯。残念ながら開業前の時間で入浴は叶わず

銭湯は解体するにも費用がかかると市に寄贈されていたが、14年も放置されていたため、建物は傾き、設備はすべて交換する必要があるという状況。数千万円かけて改修しても、銭湯はご存じの通り、入浴料金が定められている。奈良県の場合は440円で、それで改修費を回収するのは難しい。

そこで銭湯以外にも施設を作ることで課題を解決しようと分散型ホテルという形になったわけである。だが、蓋を開けてみたところ、地元を中心に銭湯の利用者は想像以上に多く、経済的に成り立ちそうだと運営にあたる株式会社御所まちづくりの支配人・小谷和生氏。

というのは高齢者には風呂を沸かす、風呂掃除をするのが面倒。加えて御所は前述したように古い家が多く、風情はあるが寒い。そこで手間なく温まれる銭湯へという流れがあるのだとか。

それによってこれまであまり外に出なかった高齢者が外に出るようになり、地域の人同士が顔を合わせるようにもなっている。銭湯が地域を変えつつあるわけだ。

また、銭湯では珍しいフィンランド式サウナを導入したことで、サウナ好きの若者が遠くからも来ている。今でも減少傾向にある銭湯だが、使いようでは地域再生に寄与するものというわけだ。

グレードの違う2つの宿泊施設と洋食店

RITA御所まちのラウンジ。かつての繁栄を偲ばせる
RITA御所まちのラウンジ。かつての繁栄を偲ばせる

宿は宿泊料金、グレードを変えて2施設。ひとつは昭和期に世界と競り合ったというモリソン万年筆の工房を改装した「RITA御所まち」で、中庭を囲んで4室が作られている。かつてのお屋敷の品格が漂う、広々とした宿である。

宿チャリンコ。店舗として使われていた棟をラウンジに、奥の蔵や居住部分などを客室に改装してある
宿チャリンコ。店舗として使われていた棟をラウンジに、奥の蔵や居住部分などを客室に改装してある
ラウンジ内部。地元の建築家が手掛けており、印象的
ラウンジ内部。地元の建築家が手掛けており、印象的

もうひとつは元自転車店の店舗、住宅などの3棟を利用した「宿チャリンコ」で、手頃に泊まれる。地域に開かれたラウンジも作られている。

洋食ケムリ。店内左手にかつてたばこを販売していたカウンターが見える
洋食屋ケムリ。店内左手にかつてたばこを販売していたカウンターが見える

飲食では1階の一部でたばこを販売していた建物を間取り等は変えずに「洋食屋ケムリ」に改装。宿泊者はここで朝食をとることになる。

地元有力企業、市も動き始めている

これだけではない。2018年にはクラフトジンの蒸留所「やまと醸造所」が築100年以上という古民家を改修して誕生。庭を挟んだ蔵、離れを利用して2022年にはフレンチレストラン〈A+(アプリュス)〉も。

酒蔵のある通り。左手にはタンクが見えている
酒蔵のある通り。左手にはタンクが見えている

これらは地元の油長酒造株式会社が手掛けるもの。同社は1719年に酒造業に転じた老舗で、日本酒に関心のある方なら「風の森」といえばお分かりいただけるだろう。同社はもう1社の地元に本社のある会社とともに株式会社御所まちづくりに参画してもいる。地元の有力企業がまちに関わりだしているわけで、街並みという財産も含めて考えるとその意味は大きい。

御所市も伝統的建造物群保存地区としての選定を目指しており、2021年からは広報御所で「御所まち伝建通信」と題した伝建地区についての市民の理解を深めるための情報を発信している。民間も行政もともに歴史ある街並みを武器に、街を変えようとしているのだ。

現時点では回遊性に難あり

ただ、現時点では足りないものも多い。数時間、街を歩いたのだが、建築だけ眺めて満足できる人ならいざ知らず、普通に観光に来る人であればもう少し立ち寄る場所が欲しいだろう。カフェや地元の産品が買える店があればうれしいはずだし、できれば建物内部が見学できるになっていたら良い。街の歴史を知る場所、トイレなども欲しいところだ。

1階部分を自分で改装、見学できるようにしていた商家。以前はまちを案内するNPOがあったそうだが、現在は活動していないとか、残念だ
1階部分を自分で改装、見学できるようにしていた商家。以前はまちを案内するNPOがあったそうだが、現在は活動していないとか、残念だ

商家で1軒だけ、土間に扱っている品物を並べ、内部が見学できるようにしていた店があったが、さすがに1軒だけでは賑わいは生まれない。もう少し、回遊できるようになれば訪ねる人は大きく増えるだろう。続く出店を期待したい。

そして、関心を持たれた方はぜひ一度現地へ。これだけの街並みがあまり知られることなく残っていたこと、そのポテンシャルに驚かれるはずだ。

健美家編集部(協力:中川寛子(なかがわひろこ))

中川寛子

株式会社東京情報堂

■ 主な経歴

住まいと街の解説者。40年近く不動産を中心にした編集業務に携わり、近年は地盤、行政サービス、空き家、まちづくり、地方創生その他まちをテーマにした取材、原稿が多い。
宅地建物取引士、行政書士有資格者。日本地理学会、日本地形学連合、東京スリバチ学会会員。

■ 主な著書

  • 「ど素人が始める不動産投資の本」(翔泳社)
  • 「この街に住んではいけない」(マガジンハウス)
  • 「解決!空き家問題」「東京格差 浮かぶ街、沈む街」(ちくま新書)
  • 「空き家再生でみんなが稼げる地元をつくる がもよんモデルの秘密」(学芸出版)など。

※ 記事の内容は執筆時点での情報を基にしています。投資等のご判断は各個人の責任でお願いします。

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