人口37万人の中核市で多目的屋内施設を整備
愛知県の東三河地方に位置する、豊橋市。1906年に全国で62番目の市として誕生した同エリアにおける中心都市であり、中核市に指定されている。東は弓張山系を境に静岡県と接し、南は太平洋、西は三河湾に面しており、豊かな自然と温暖な気候に恵まれている。
自動車の輸入台数・金額で全国1位の三河港を中心に臨海工業地帯が形成され、全国トップクラスの農業産出額を誇る同市。人口は2010年の37.6万人をピークに減少に転じ、直近では約37万人。他方、世帯数は伸び続け、2022年に16万を突破した。
そんな豊橋市で、多目的屋内施設および豊橋公園東側エリアの整備・運営事業が始まろうとしている。
計画地となる豊橋公園は、吉田城址、美術博物館、三の丸会館など文化施設などがある市民のシンボル的公園で、軟硬式テニスコート、陸上競技場、野球場、武道会館などのスポーツ施設も多数あるスポットだ。
豊橋市は、2011年度に策定した「豊橋市生涯スポーツ推進計画」に基づき、市民が生涯にわたりスポーツを楽しむことができるよう、スポーツ施設の充実を推進。2020年度には「豊橋市『スポーツのまち』づくり推進計画」を策定し、スポーツへの参加促進や環境の充実だけではなく、スポーツによるまちの魅力と活力の創出にもつなげる取り組みを進めてきた。
一方、市のスポーツ施設の中核を担う豊橋市総合体育館は建設後30年以上が経過し、老朽化が進んでいるため大規模修繕等を実施する必要に迫られている。加えて、男子プロバスケットボールリーグ「B.LEAGUE」の最高峰であるB1リーグに所属する三遠ネオフェニックスのホームアリーナであるため、利用の過密化により施設の利用予約が難しくなることに。
市の縁辺部に位置していることから、三遠ネオフェニックスのホームゲームの来場者等による経済効果を充分に享受できていないといった状況にあった。
民間の力を活用した施設づくりを推進
こうした状況を背景に、市は豊橋市総合体育館を補完する新たな施設について検討を進め、2022年5月には多目的屋内施設の基本的な考え方を発表。プロスポーツやエンターテインメントなどを観る機能や防災活動拠点としての機能の強化・充実という点に加え、コンベンションなどの集客による経済効果、まちづくりへの寄与を可能とする多目的屋内施設の規模・機能の整理、並びにPFI方式による事業スキームを整理するとともに、「多目的屋内施設整備に関する有識者会議」においても検討を進め、2023年8月に「多目的屋内施設整備基本計画」(以下「基本計画」という。)として取りまとめていた。整備・運営の基本方針は以下の通りだ。
・多様な「観る」機能を備えた施設
・広域的な大会開催や日常利用の機能を備えた施設
・憩いと交流・まちなかの賑わいの創出につながる施設
・地域の防災拠点機能を備えた施設
・人にやさしく環境に配慮した施設
・民間活力を活かした公園一帯での整備・運営
多目的屋内施設は広さ約2700㎡のメインアリーナ、約1400㎡のサブアリーナ、武道場、多目的室兼会議室などを備えることを想定。市民がスポーツやコンサートを楽しみ、防災拠点としても活用できる施設を目指す。
事業は、将来の維持管理・運営を見据えた施設整備とし、民間のノウハウや創意工夫が活かされるよう、設計・建設と維持管理・運営を一体事業として実施。PFI法に基づき、事業者の提案をもとに対象施設の施設整備を行った後、市に所有権を移転し、事業期間を通じて維持管理・運営業務を行うBTO(Build Transfer Operate)方式を採用する。多目的屋内施設は、市が事業者に対して公共施設等運営権を設定し、事業者が公共施設の運営を通じて利用者に対してサービスを提供するコンセッション方式とした。
これらのスキームを併用することで、民間事業者が豊橋公園東側エリアを一体的に管理しながら、施設を最大限活用したホスピタリティ機能の充実、サービスの質の向上やスポーツ・エンターテインメントを通じたまちの賑わいの創出が期待できる。また、民間経営による収益性の向上により、市の財政負担の軽減も期待できる。
今後は、2024年4月26日の入札書及び事業提案書の提出締め切りを経て、5月に落札候補者の決定及び公表、9月に事業者と特定事業契約を締結する予定。多目的屋内施設・駐車場は2027年9月末まで、それ以外を2028年度末までに建設・整備する。遠くない未来に、中核市に巨大アリーナが誕生することで、プロバスケットボールやコンサートなどを楽しんだり、市民がスポーツに接する機会は増える。各種イベントの開催による経済効果も期待される。
近年はプロバスケットボールが全国的に盛り上がりを見せているが、2026年に始まる新たなトップカテゴリーに参入するためには、充実したアリーナ施設が必要とされ、多くのクラブが自治体や企業と協力し、アリーナ建設に動いている。豊橋市の取り組みもこの一環で、2024年以降は他にも千葉県船橋市や長崎市、神戸市、東京都江東区、名古屋市、愛知県安城市、神奈川県川崎市などで開業する予定だ。今後は、スポーツと一体的になった施設建設、まちづくりが各地で進み、これら取り組みは地域の住宅事情にも影響を及ぼすに違いない。
健美家編集部(協力:
(おしょうだにしげはる))