2024年1月から、相続税・贈与税に関するルールが改正された。
贈与税は、基本的に暦年課税制度か精算課税制度かどちらかを選択することができる。選択をしなければ暦年課税制度が適用されるが、精算課税制度は選択した年から適用される。
暦年課税制度と精算課税制度の違いは何なのか、これらの制度を利用して、賢く節税する方法にはどのようなものがあるのかを不動産業の税務に詳しい花光慶尚(はなみつよしたか)税理士に聞いた。
なお、例として100の財産を「1回の相続」と「1回の贈与」で動かした場合にどちらが有利になるかと言えば、常に相続税の方が贈与税よりも抑えられるという。
「なぜなら、贈与の方が相続よりも有利になってしまうと、資産家は全財産を生前に贈与する方法を選択し、相続税の制度が崩壊するからです。それを防止するために、相続税よりも贈与税の方が超過累進税率(税率構造が階段状になっていて、財産額が増えるほど税額が上がる仕組み)の上昇度合がきつくなっています。
しかし、100の財産を「1回の相続」と「10ずつ10回の贈与」で動かした場合に、贈与税の方が相続税よりも抑えられるタイミングがあります」と花光税理士は話す。
贈与による相続税対策の基本は、財産を小分けにすることで相続税額よりも贈与税額が減少することがあるため、その税率差、税額差を狙うことだという。
選択して適用される精算課税制度と
選択しなければ適用となる暦年課税制度
【暦年課税】
◆相続発生からさかのぼって7年以内の贈与が相続税に計上
選択しなければ自動的に適用される暦年課税は、相続発生時からさかのぼって7年以内に被相続人から相続人が受けた贈与が、相続税として計上される。改正前は相続発生から3年だったため、事実上の増税といえる改正だ。なお、プラスされた4年間に受けた贈与のうち総額100万円までは相続財産に加算しない。
相続開始前7年以内に被相続人から受けた贈与財産が相続財産に加算されるため、例えば被相続人から相続人に対し毎年110万円の贈与があった場合、相続財産に加算される贈与財産額は『110万円×7年-100万円=670万円』となる。
なお、令和5年12月31日以前に行われた贈与についての生前贈与加算期間は、改正前の相続開始前3年以内となっている。改正後の相続開始前7年以内について相続財産に加算されるのは、令和6年1月1日以後行われる贈与からが対象となる。
【精算課税】
◆累計贈与額2500万円までは特別控除、越えた場合は一律20%課税
◆相続発生の直前まで毎年110万円の基礎控除
◆特別控除枠を越えた部分は全て相続税として計上
累計贈与額2500万円までは非課税となり、2500万円を超えた部分は一律20%の課税となる。精算課税を選択した年の贈与から、相続発生直前までに贈与した資産分は全て相続税として納税することになるが、今回の改正により、令和6年1月1日以降に受ける贈与については毎年110万円の基礎控除が受けられるとされた。この基礎控除の部分は贈与税だけでなく、相続税にも加算されないのが特徴になる。
基礎控除110万円の範囲内については贈与税も相続税も課税されないことから、相続財産に加算される贈与財産額はゼロとなる。
初めて精算課税を選択した場合に、贈与できる財産額が2610万円以内なら1年で動かした場合でも贈与税の負担がないので安心だ。ただし、あくまで無税で動かせるのは基礎控除の部分のみで、特別控除の部分は、贈与税はかからなくても、相続財産に持ち戻され相続税が課されることに留意する必要がある。また、精算課税は一旦選択すると、やめることができないことにも注意が必要だ。
上記の新しい税制を利用して資産を守るために、どのような対策が取れるだろうか。
将来の値上がりが予想される資産を優先し
できるだけ早く行動することが対策の一つ
「将来の値上がりが予想される資産を贈与することを早々に決断し、すぐに行動することが対策の1つになります。早い人はゼロ歳児でも両親を法定代理人とした贈与契約書を作成することで贈与しています」と花光税理士は話す。
仮に一人の子供に暦年課税で贈与をする場合、贈与から相続発生まで7年以上元気で健康に過ごすことが重要になる。
精算課税での贈与を決め、初年度に特別控除枠の2610万円以内の贈与を行う他、毎年110万円以内の贈与を進めた場合、相続発生までの期間が長ければ長いほど節税につながる。
どちらの贈与を選んだとしても早く行動に移すことが重要なことは明白だ。
また、どの資産を先に贈与するかを悩む場合、「将来最も値上がりしそうな資産から先に贈与していく」ことが正解だ。
「贈与のセオリーとして、収益が上がるもの、値上がりが期待できるものは先に贈与するというものがあります。基本的には相場を見て贈与する時期を判断するわけですが、例えば上場株の場合、課税時期は相続贈与があった日の相場だけでなく、その月平均、前月平均、前々月平均の一番低い株価を基準にして計算されるため、相続贈与があった日の相場よりも前月平均、前々月平均の方が低い場合には有利になる場合があります」(花光税理士)
仮に暦年課税で贈与から7年以内に相続が発生し、相続税として納税することになったとしても、贈与したタイミングでの株価を基準に計算されることもポイントだ。
同じように精算課税を選択し、初年度に特別控除枠の2610万円の他、毎年110万円を超える贈与を行っていたとしても、贈与を行ったタイミングの価額を基準に計算することになる。
なお、不動産の持分を少しずつ贈与する方法もあるが、贈与契約書や登記に必要な書類の用意などで、煩雑な手続きやコストが増加しやすいため、注意が必要だ。
ここで紹介したのは所有している資産をしっかりと把握し、相続税と贈与税の仕組みを理解した上で行う方法の1つ。まずは早期に相続を専門とした専門家に相談することが重要だ。
取材・文:
(つちだえり)