昨日は新築12階建高層物件のオーナー検査の日でした。
設計の先生も来てくれて、建築会社の専務と現場所長とで最上階のフロアを見てまわりました。
直近の建設費や建設現場で導入される週休2日制による弊害、省エネ法適応にどのように対応するかなど、短い時間でしたが会話のなかから色々と今後のヒントを得られたオーナー検査でした。
12階建てともなれば土地を見つけて設計プランしてもらい、着工から竣工までおよそ2年の時間がかかっています。出来上がってみればあっという間の感覚ですが、その間はお金が出ていく一方ですから他の物件からの賃料収入か、他の収入がなければ耐えられません。
この12階建ては今年春に竣工した10階建ての物件とともに、コロナで苦しんだ宿泊事業から本業回帰に向け、火事場の馬鹿力のような力を使って造った物件です。まさに、ピンチをチャンスに変えた2物件と言って良いでしょう。
もしコロナがなければ建築には取り組んでいなかったかもしれません。この話はまたいずれ書きたいと思います。
■建築費の大幅上昇で新築はもう打ち止めか?
コロナ前と今の一番の違いと言えば、建築費が大幅に上がったことでしょう。設計の先生と建築会社の専務と一緒に12階のフロアを回っている時、設計の先生が「この物件が賃貸業をやっている普通のオーナーに依頼されて自分がやる最後の高層物件になるかもなぁ」と呟きました。
それは高騰した建築費のことを指して言っていることです。現在、これと同じものを建てるとしたら30%以上も高い建築費になると建築会社の専務が話していました。もう、投資利回りで考えれば高層物件は造れないという現実があります。
建築現場では厚労省の指導のもと、「働き方改革」が進められています。具体的には2024年問題と高齢化による建設業の2025年問題、さらに住宅の省エネ法が絡む2024年問題など、コストアップに繋がるイベントが目白押しです。
この建設業の2024年問題というのは、今まで猶予されていた建築現場での時間外労働上限規制が適応され、土曜日や天候次第では日曜日も仕事をしていたものが、今後は出来なくなる(させられなくなる)というものです。
ひいては労働力が不足し、当然のことながら工程も伸びるため、竣工までの時間が長引き、今まで以上にコストアップすることになります。
大手の元請けはその皺寄せを下請け業者に押し付け、下請け業者は孫受けに皺寄せすることを危惧する記事も読みました。ここには、建築費が上がっているのに現場の職人の給与が上がらないという問題も存在します。
そして建築業の2025年問題とは、建設現場での高齢化が進み、退職による熟練職人の不足と新たに若い人が建築業入ってこない根本的人材不足により、建設現場が回らなくなるというものです。これは大きな問題です。
さらに、これほどの円安になると海外からの優秀な人材に来てもらうことも困難です。今の日本で働いて得る給与は、世界水準では安いほうに入ります。1ドルが100円程度の円高にならない限り、この状況は変わらないでしょう。
時代は変化しています。少し前まで人口減少の解決方法として、移民を積極的に受け入れるという考えがありましたが、今では日本の若者が時給の高いオーストラリアにワーキングホリデーで出かけるような話も増えています。
オーストラリアの高齢者ケアハウスで1ヶ月に100万円も稼ぐ日本のナースの話も、TVで放映されていました。夏は暑く冬は寒い日本の建築現場で、安い給与で働きたい若者が少ないのは当然のことです。
もう一つ、建築の2025年問題というものがあります。こちらは、一般住宅も、賃貸マンションやアパートを含む収益物件も、とにかく全ての建物で「省エネ適合判定」が義務化されるというものです。
これにより、2025年年4月以降に着工する全建築物に省エネ基準への適合が求められます。住宅躯体の断熱性能アップや省エネタイプの設備の変更が余儀なくされ、これもコストアップにつながるトピックとなります。
具体的には、躯体の断熱性能を上げるために吹付している発泡ウレタンフォーム厚を厚くすることや、省エネタイプのペアガラス窓が必要になるでしょう。屋上に太陽光パネル設置して蓄電池を設置し、共用部の電気をまかなうことなどが対応として考えられます。
実はオイラの大型高層マンション2棟は、この動きに先駆けて、新しい省エネ基準に適合させたものを造りました。そのため、それなりにコストアップしています。
法律がまだ施行されておらず、全容までは見えないのですが、札幌の平均的な新築RC賃貸住宅では、平均で500万くらいのコストアップになるという話を耳にします。

実際に完成した12階建RC
一方で、オイラのように10年以上前からペアガラスなどを積極的に取り入れしている高規格の賃貸住宅ではそれほどのコストアップにはならないという声もあります。どちらにせよ、建築費が安くなることがないのは確かです。
■職人不足でセルフリフォーム大家さんに有利な時代に
このように、新築RC投資には強い逆風が吹いています。しかし、建築現場の人材不足は新築だけの問題ではありません。既存の物件の維持すらままならない状態へと突き進む可能性もあります。
今でも腕の良い職人は現場では奪い合いの状態です。今後はますます専門性の高い技能を持った職人が重宝される時代ですね。
今後、専門性が高い技能に伴って時給や給与が上がっていけば、若い人も新たに入ってくるようになると思います。その際には働き方改革と同時に給与改革も進めなければならないと思います。
また、今まで日本では積極的に住宅のメンテやリフォームをする文化はありませんでしたが、今後メンテ職人の給与が上がれば、高額になった工賃の影響で簡単に外注が出来なくなるはずです。
そうなると、軽微なリフォームやメンテについては、アメリカのようにホームセンターで道具と材料を購入して自分でメンテをするということが、広く一般的になっていくのでしょう。
職人不足で簡単な工事は自分でやらざるを得ない時代になるならば、今後はセルフリフォームを得意にしている大家さんが優位な時代になるとも考えられます。
今までの日本は法定耐用年数が過ぎたり少し古くなったら建物を取り壊して新しく建て直すことが主流でしたし、実際に賃貸物件などは建て直したほうが収益性も上がることも多かったです。
しかし、新築のコストが永続的に高コストの時代になると、新耐震以降の建物は古くなっても解体せず、悪くなったところを直しながら長く使う時代にならざる得ないと思います。
今の賃貸マーケットでは、少し古くなると「築古」と認識されます。これは、新しい物件がどんどん供給されるせいもありますが、それ以外に、開拓からまだ日が浅い北海道民は新しいもの好きの気質があることも関係しています。
彼らは新築の賃貸物件に入っても、2年も住めばすぐに飽きてしまいます。そしてまた違う新築に引っ越すのです。しかし、将来はだんだんと古きものを大切にする文化に変化していくと期待しています。
■時代の流れの速さに思う
話を戻しますが、オーナー検査でご一緒した設計の先生、建築会社の専務さんとは、もう10年近くのお付き合いになります。
今回の12階建で4棟目の高層物件になりますが、この三者で最初に仕事をした時の建築費は、今の半分の単価で利回りも9%ありました。今考えると夢のような数字です。
時代の流れの速さに驚愕すると共に、この先も変化が加速する未来が待っていること、その変化について行かなければ生き残れないことを思いながら、完成したばかりの12階の窓から見える藻岩山の景色をぼんやりと眺めました。