賃貸マンションに住んでいた頃の話です。ある日、隣の部屋に住んでいる女性が玄関の外に観葉植物を置いたことがありました。「 ステキですね! 」と私は隣人に言ったのですが、翌日にはなくなっていました。
不思議に思って理由を尋ねると、「 大家さんが廊下に置いてはだめだと言うので…… 」と言います。「 厳しいですね~。なぜなんでしょう。それぐらいいいのにね? 」と小さな声で話し合いました。
彼女と私だけがそう感じていたわけではなく、他の入居者さんたちの間でも「 うちの大家さんは厳しいよね! 」と話題になることがあったようです。
あれから数年・・・。色々あって、私も大家になりました。そして先日、私はある入居者さんに、「 玄関の外の廊下に置いてある観葉植物を室内に入れてください 」という手紙を書きました。
観葉植物とその周りに人形の置物などがいくつか、かわいらしく置かれていたので、胸が痛みましたが、仕方がなかったのです。手紙の内容は次のようなものです。
「 とても素敵にディスプレイされている観葉植物などですが、大変申し訳ありませんが、室内に置いていただけないでしょうか。消防法で共用部には物を置いてはいけないことになっているからです。
共用部にある物は、火災時などの避難する際に障害になってしまうことがあり、また放火される危険があります。xx様の安全のためにご理解いただけますようお願いいたします。防火管理者 」
そうなんです! 実は、入居者さんたちの安全を守るために共用部分に物を置かないようにお願いしていたのです。私は大家兼「 防火管理者 」でして、共用部分やバルコニーに物が置かれていないかどうかをチェックする役割を担っているのです。
そもそもなぜ防火管理者になったかというと、ある程度の大きさの建物には防火管理者を置くことが義務付けられており、私の所有物件はその規模に該当しているからです。
外部に委託すると月に数万円かかりそうということで、コスト削減のため、自分が資格を取得しました。そのために、消防庁で二日間の防火管理講習を受けました。最後に試験がありますが、全員受かったと記憶しています。
コストを下げるという目的で受講した講習ですが、死亡者の出た火災で建物オーナーが有罪になったケースなどを学んでいるうちに、オーナーの責任の重さを感じて、いろいろと怖くなりました。
それ以来、入居者の命を守る責任を重く考えるようになりました。
いざという時に避難路である外階段に物が山積みになっている飲食店が入ったビルなどを見るとぞっとします。また、新耐震以前の古家を安く買い、耐震性を気にせずに表面的なリフォームだけをして貸しているという話も恐いと思ってしまいます。
数カ月前に、ニュースでマンションの火災の現場の映像を見たのですが、このときもぞっとしました。
火事があった部屋の近くの部屋の住人がバルコニーに出たのですが、煙に巻かれそう! その人は隣の部屋に避難をしようとして蹴破り戸を何度か蹴りました。けれども、蹴破れない!!
「 わー、早く、早く! 」と手に汗を握って見ていると、隣の住人がバルコニーに出て物を移動したようで、無事に蹴破れました。隣人がバルコニーに物を置いていたため蹴破れなかったのですね。
そんなわけで、私は入居者さんの安全のために、共用部分やバルコニーに物を置かないように、時々注意喚起をしているので、「 厳しい大家さん 」と思われているかもしれません。
でも安全のためならそう言われてもいいし、理由を説明すればわかってもらえるのではないかと思っています。あの頃、私たちの行為に対して注意した大家さんの気持ちが、大家の立場になって、ようやくわかった次第です。