経産省の有識者会議が今年3月に議論スタート
今夏にも報告書をまとめ制度改正へ
賃貸住宅に供給されるLPガスに関し、国の制度改正が行われようとしている。LPガスが使われている賃貸住宅に関しては、長年の商慣行で、給湯器、コンロなどの設置費用をオーナーが支払わず、入居者がLPガス料金に上乗せする形で負担する形となってきた。
しかし、この慣行が入居契約時に入居者へ知らされないことが多く、不透明で不公正だと問題視されているのだ。制度改正は、この商慣行を改める方向で議論が進んでいる。賃貸住宅のオーナーは負担増になる可能性があり、議論の行方に注目したい。
議論は今年3月、およそ7年ぶりに再会した経済産業省の有識者会議で進められている。この夏にも報告書をまとめ、制度改正につなげる方向だ。
有識者会議は、この商慣行の「歴史」について、次のように説明している。
まず、LPガスの事業者が、賃貸集合住宅へのガス供給契約を獲得するための営業として、オーナーにガス給湯機やガスこんろを無償提供を始めたことがスタートだという。
その後、エアコン、インターホン、Wi-Fi機器、防犯カメラといったさまざまな製品もLPガス事業者が費用負担するようになり、後日、LPガスの料金で入居者から回収されるという形になった。
近年は、オーナーや建設業者からの無償提供の要求を断るとLPガス供給を受注できなくなるケースがあるという。
また、資金力のある大手LPガス会社が、積極的にオーナーや建設業者に無償提供したり、営業攻勢をかけたりしているケースもあるとしている。
料金は入居者の支払いに上乗せ、事前に知らされず
LP事業者も契約獲得のため「無償」やめられない
そして、こうした商慣行は次のような悪影響を生んでいると分析する。
一つは、多くの製品をLPガス事業者が費用負担した結果、入居者が支払う料金が高騰したことだ。
入居者は住み始めてからLPガス料金を知るので、料金に不満があっても、受け入れざるをえない状況になっていることだ。入居者に選択の機会が事実上なくなる。
もう一つは、費用負担のサービスができないLPガス事業者は、オーナーから契約を断られるという圧力がかかるようになったことだ。
料金ではなく、どこまで無償提供できるかで契約が決まるので、結果的に入居者の負担がどんどんふくらみ、入居者の利益につながらないという歪みが発生している。
そして、2021年度の調査によると、LPガス事業者の約半数が、賃貸集合住宅のオーナーや建物の管理会社からの要求に応じて機器の無償提供をしていることが分かった。
さらに無償提供は、LP事業者の契約戸数が多いほど行なわれている。
たとえば、1~150戸の物件では29,1%が、151~300戸の物件では45.2%が無償提供したことがあると回答。これが1001~2500戸だと84.3%、2501戸だと90.6%が、無償提供したとがあると答えた。
さらに、無償貸与したものの中で最も多かったのは給湯器で98.4%。続いてコンロで40.6%、エアコンで30.6%、などとなった。
制度改正でオーナーや管理会社が費用負担か
プロパン使用率約4割、影響受けるオーナー多い
有識者会議では、これまでみてきた商慣行を次のような方向で見直してはどうかと提案された。
①ガス機器などについては、基本料金や従量料金と分離し、住宅のオーナーや所有者が適正な対価を払って、所有権を有する契約としてはどうか。
②賃貸集合住宅への導入設備等の投資に対して、LPガス事業者が費用回収をするさいには、入居者のLPガス料金とは別に、オーナーもしくは不動産管理会社と導入設備などの費用回収・メンテナンス実施などの契約を締結してはどうか。
つまり、これまでのように必要な費用を入居者に支払わせるのでなく、オーナーや管理会社に支払わせようという制度改正だ。
入居者の視点に立てば、なるほど正しい制度改正だろう。しかし、賃貸住宅のオーナーにとっては負担が増えることになる。
実は、今もLPガスは多く使われている。有識者会議に示された資料によると、2019年度現在、LPガスを使っている世帯は全体の約38%。都市ガスの約46%とほぼ同数だ。そのほかはオール電化で16%となっている。
この数字を考えると、LPガスを使った住宅を賃貸している不動産投資家もかなり多いのではないだろうか。
今回の制度改正によって多くの不動産投資家がかなりの費用負担増を強いられるかもしれず、議論の行方には大きな注意を払っていきたい。
取材・文:
(おだぎりたかし)