僕は1年に数回ホテルに籠って人生と不動産投資戦略を見つめ直す時間を作っています。
今までは東京のホテルで行っていましたが、いつからか様々な地方に行き見聞を広げ、その土地のビルや店舗、商店街、アーケードなどを歩いて見て利用し研究するようになりました。
僕はエリアをすごく狭くして集中投資をしているので、「井の中の蛙」になることを恐れています。行動範囲を広げることで、新しい視点や新たなる目標、仮想の競争相手を発見することにつながり、強烈に自分を刺激をすることになります。
中2の時、選抜選手に選ばれてサッカー部の先生に褒められると思ったら、「お前なんかより、もっと上手い奴は外に出ればいくらでもいる。井の中の蛙にならないように、選抜で頑張ってこい」と怒られているのか激励なのか分からないメッセージをもらいました。
言われた時はカチンときましたが、その通りに上手い選手はたくさんいたし、上手い選手とプレーすることは楽しいし、自分の目線がもっと上を向くようになって何にも勝る刺激となりました。大人になってからは自分でお金と時間を用意して自分を外に出すしかありません。
そして今、アパホテル創業地の金沢片町1号店に宿泊してこの原稿を書いています。もっともらしい言い訳を重ねましたが、実は昨年2月に寒ブリを食べた衝撃が忘れられず、今年もまた寒ブリのベストシーズンである冬の金沢に舞い戻ってきたのです。
寒ブリの追っかけみたいなものでしょうか。いつも合宿では部屋の中で勉強や仕事をするのでもう少しゆったりとできるホテルに泊まるようにしていますが、今回はどうせ勉強しないで寒ブリをはじめとする金沢グルメを楽しむだけだからアパホテルに宿泊することにしました。
アパホテルは皆様がご存じの通り、グループ全体で600以上もの宿泊施設を所有する大企業ですが、その始まりはここ石川県金沢市です。
不動産を賃貸してホテル営業をする大手チェーンも多い中、不動産は自己所有を原則として運用し、銀行への借入は健全な事業資金のみ、高いレバレッジはかけない姿勢で、近年はサッカー日本代表のスポンサーもされています。
名物社長の元谷芙美子さんがテレビ等に出ているのを見たことがある人も多いと思います。僕が強く興味を持ったきっかけは、2017年のプレジデント誌での、「不動産は買いたいときに買ってはいけない」というインタビューでした。
「昨年度の社長である自身の年収は5億5,000万円でした」ではじまるその内容は一見派手に聞こえますが、商売の本質を突いていて質実剛健。下記に一部引用し、ご紹介します。
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・この規模で仕事をしていると、万に1つのことが毎日6つあってもおかしくない。気の抜けない命懸けの仕事に日々緊張しながら生きている。休みなんてない、毎日仕事をしている。
・不動産はタイミング、素人は必要な時に買うが、プロは要る、要らないで判断せず、タイミングを買う。その理由は経済はサイクルで動いているから。景気が変動する中でどこで買うか。
・アパグループはイケイケではない。大変慎重で、撤退する勇気を重視している。撤退には大きなお金が必要で、実は一番難しい。過去には東京に本社を構えた後、再度金沢まで戻ったことがあるし、名古屋の支店開設時には事務所のオープン予定日に撤退したこともある。
・不動産を景気が大底の時から、キャッシュで買ってきた。最近では6、7年前(2017年の記事なので2009年ごろ)が一番の底で、皇居の周りの土地を60ヶ所ほど買った。
・オリンピック後は必ずオーバーホテル現象になる。そうなったら、ダメになったホテルをさらに買えばいい。
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そんなホテルの創業地に泊まって何かを感じたい。また、この合宿に同行した沖縄のホテル王候補のミスターミヤギにも、ここで僕以上に刺激やご利益を受けてほしいと思いました。
それに、このホテルは「上から下」のレッスン(148話)を受けた倫敦屋酒場(ロンドンヤバー)のある飲食店街の近くでしたから、フィールドワークを行うには駅前のホテルに泊まるよりも絶好なポジションだったのです。
今年はそんな金沢に3泊しました。僕の住む高崎から金沢までは新幹線で片道2時間5分。普通席なら11,670円、グリーン席で17,270円、グランクラスで21,270円です。
僕は移動の際には普段は考えないようなことに向き合い、ノートやスマホに書きつけています。この時は周辺にうるさい人やマナー違反の人がいるリスクを排除するために、一番高い席を利用しています。
せっかくの旅なのに、不愉快になったりテンションが下がったりしたら台無しです。
■ドレスコードのない商売はしてはいけない
さて、今回の合宿でもたくさんの学びがありました。神社仏閣、パワーストーン店、レコード店、寒ブリ等、現地在住のマダム・ユカリが僕のリクエストを完璧な日程で組んでくれました。その中でガツーンと頭を殴られたような倫敦屋酒場でのマスターの言葉を紹介したいと思います。
このお店は無休で、たまにまとめて休むスタイルなのだそうです。基本的には毎日0時までマスターと奥様が2人で働いています。アパホテル社長もそうでしたが、とにかく休まない。もしかして僕は休みすぎなのかもしれません。
そしてマスターは常に、奥様のことを「最高の女性、これ以上素敵な人に会ったことがない」「趣味は奥さん」と言っています。この点でも僕は、自分の姿勢を改めるようにしなければと思います。
店に入るとマスターは雰囲気のある方と親しげに話をしていました。マスターが、「彼は72才で40年ぶりにここに来た。数々の大物アーティストを海外から呼んでいる最高の呼び屋になった」と教えてくれました。
ミヤギ氏が「呼び屋ってなんですか?」とトンチンカンなことを僕に聞きます。僕の138話のライブハウスのコラムを本当に読んでいるのかと思いながら(笑)、「プロモーターですよ」と教えました。
お店の中にはたくさんの有名人のサインが飾ってありますが、この方もすごい人生を送ってきたことが雰囲気で分かります。呼び屋さんが帰った後で、マスターに「すごい人がたくさん来る秘訣は?」と質問してみました。
すると、「ドレスコードのない商売はしてはいけない」ということでした。また、「経験のDNAがお客様を集める」とも。こういう素敵な言葉の意味を深く説明するのは粋ではありません。「バーのカウンターは勉強机」とよく言われますが、今回もそれを体験できました。
それにしても僕が普段から遊び慣れていれば、呼び屋さんが帰る時に、「最後に一杯ご馳走させてください」と声をかけてもっとお話を伺うこともできたはずです。改めて、遊ぶことは自己投資であり、もっと質の高い遊びをしなければならないと感じました。
■誰もがダメだと思っている今こそやろう
さて、本題です。カウンターに座りマスターと話をしていると僕が不動産をしているということから、借景の話になり、「景色や空気を売らなくてはダメ」という話から、今回被災した能登半島の珠洲市の話に。
「大変なことになってしまったが、あんなに風光明媚な場所だから、40年50年後には海外の人がたくさん来るすごい場所になるぞ。今なら、みんな安く売ってくれる。みんな困ってんだ。だから、一緒に買わねえか?俺は山林も買っているんだ。面白くないか?」
78歳のマスターが40年、50年後のことを興奮しながら話すのです。あまりに興奮しすぎて、店のお酒を自分で飲むという禁を犯し、自分で作ったカクテルを飲みながら、未来について語るその姿に僕は強いショックを受けました。
実を言うと、昨年2月に金沢を訪れた時に、珠洲市やその他の土地の物件をいくつかピックアップしてマダム・ユカリに連れて行ってもらおうとしていました。ただ、その時は時間がなくて、叶わなかったのです。
そして、今年の地震の後にも、「もしあそこに物件を買っていたら大変でしたよ」という会話をミスターミヤギとしていたのです。これは完全に僕のコラムタイトルを返上しなければいけないような思考でした。
正直に言うと、ただでさえ遠くて大変なのに、被災してしまったらしばらくは何もできないところだったなと思っていたのです。これでは、みんなと同じ思考ではないか。何がブルーオーシャンだ。全く逆も裏も行っていないなと思ったのです。
一方で、78歳のマスターは、「あそこは今は誰もがダメだと思っているから、今こそやろう」と言うのです。今困っている人にお金を渡すのですから、決して火事場泥棒みたいにはならないはずです。
僕はすぐにでもあのあたりの不動産を買いたい気持ちになりました。でも、やっぱり取りやめました。僕の地元に、やりかけた仕事と夢があるからです。
それでも、「心配しなくても40年、50年後にはたくさんの外国人が来る素晴らしい場所になっているよ」と言ったマスターのその表情と声が忘れられません。僕のビジネスにも必ず役立つ言葉だと感じました。一晩経ってもまだそのことばかり考えています。
外に出たからこそ出会いがあり、それまで想像もしなかったことを真剣に考えることができる。これが合宿をする最大の目的です。パワースポットであるアパホテル1号店の部屋の中で、僕はこれからの人生とビジネスを大きく考えています。
また来年も寒ブリを食べに戻ってくるつもりです。