オリンピックのサーフィン会場でもあった千葉県長生郡一宮町で、サーファー向けの賃貸住宅が人気を集めている。当初はオーナー住宅1戸+賃貸1戸の賃貸併用住宅を7棟建て販売する計画だったが、賃貸ニーズが高いために全14戸を賃貸に。
手掛けているのは、「まちづくり」や「地域活性」に取り組んできたTAWs DESIGN一級建築士事務所の田辺 誠史氏である。敷地内にコミュニティスペースを設け、バーベキューなどして住人同士がつながる工夫を施している。田辺氏に人気を集める賃貸住宅を建てるポイントを聞いた。
賃貸住宅は飽和状態。ターゲット層を絞り込み、
強い特色を出して差別化すべき
まちづくりや環境に配慮した建築を手掛ける会社で経験を積んできた田辺氏。現在は個人住宅から子供向けの施設の建築など幅広く手掛けている。そんな田辺氏の考えが色濃く表れているのが今回ご紹介するサーファー向け賃貸住宅である。地元の工務店からの依頼が始まりだった。
「自分はサーフィンをしないため、サーファーのライフスタイルや考え方や世界観などを知るためにサーファーの方を4人ほど集めてヒアリングをして構想を練りました。話を聞いて感じたことは、こちらが思っていたよりもサーファーのみなさんはストイックで自然環境への配慮など意識が高いことを知りました」
このヒアリングを元に建物の外でシャワーを浴びてから室内に入れるような動線にするなど、ターゲット層の心を掴む工夫を施した。
「リサイクル材でできたサイディング材の『SOLIDO(ソリド)』が登場して早いタイミングで、採用しました。とても珍しかったと思います。コンセプトやこの場所に合うものをポイントで使うことで、建物ができるストーリーや考えがうまくミックスできると、より特色が際立つと思います」
依頼主である工務店はもともと分譲住宅にして販売することを考えていたが、プランをつめるなかで、賃貸ニーズが高いことから、全戸を賃貸に。結果として相場より高い家賃で満室が続く人気を集めている。
「分譲住宅にすると、道路を各戸に引き込む必要があり、敷地が狭くなるだけでなく、計画地の良い部分を道路や駐車場などに使われてしまいます。
7棟が連なる1つの大きな集合住宅にすることで、道路を引き込む必要がなくなり、駐車場も外周部にまとめられ、建物やコモンスペースに敷地を有効的に活用でき、いい住環境を創り出すことができました」
住まいとコミュニティを大切にするコーポラティブハウスなどに関わってきた経験から賃貸住宅であっても住む人同士の距離がちょうどよい距離感で近くなるように、魅力的な共用部である『コモンスペース』を確保することが重要だと感じていた。
結果として、開放感がある広い芝生の庭や、庭を望むウッドデッキが各戸に備わっていることなど魅力的な『コモンスペース』を設けたことで、サーファーの目に留まることに。このような強い個性を持った賃貸住宅を創ることが、賃貸住宅を建てるうえでは必要不可欠だという。
「賃貸住宅はすでに飽和状態です。強い特色を出さないと生き残りは難しいでしょう。過去にご協力した、徹底的に省エネ住宅にして差別化を図ったものがありますが、こうした強い個性がこれからの賃貸住宅には求められるのではないでしょうか」
デジタル化が進んでも、人と人のつがなりは欠かせない。
住人同士が集う「コモンスペース」の使い方がカギ
建物は木造2階建てで、同様のものを建築する場合、1棟あたり建築費は5000万円~。間取りは2種類あり、吹き抜けの1LDKと、ワンルームの住戸がある。
「今はデジタル時代で、今後もデジタル文化は発展していくでしょうが、それでも人とのつながりは、求められていくと思っています。賃貸住宅でも、人と人とのつながりが大事で、住人同士や周りの人たちとの憩いの場となる『コモンスペース』をどう提供するかが重要です」
たとえば子育て世代向けの賃貸住宅では、共用の「キッチンスペース」を確保したコモンスペースを設け、お料理教室をしたり、食事を楽しめたりできる空間を確保すると、住人同士だけでなく、地域や社会とよい距離で、コミュニティが形成されるのではないかと考えている。
「一方、いくら魅力的なコモンスペースを作っても創っている人と住みたい人がマッチングしないと活用できません。コミュニティが充実した、いい賃貸住宅となるためには、オーナーさんがどういう人に住んでもらいたいかを明確にして、ターゲットを絞りこむこと。あとは、ソフト部分をどう運用していくかも重要です」
どこにでもあるような賃貸住宅を建てるのではなく、同じ趣味を持つ人が集まるようなコモンスペースが魅力の賃貸住宅。まだまだ可能性はありそうだ。
●取材協力:建築家ポータルサイト『KLASIC』
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