巨大地震への備えが急速に高まっている。昨年は、関東大震災から100年の節目の年となり、都内では関連するイベントなどがあちらこちらで見られ、今年は能登半島を震度7の地震が襲った。現在の人々の記憶には、1995年1月17日の阪神・淡路大震災、2011年3月11日の東日本大震災が刻まれている。これら一連の地震と能登半島地震は人々の脳裏でつながっており、地震への備えに対する意識が強まっている。特に木造の戸建て住宅やアパートなど所有者は能登半島地震に限らず、過去の大震災においても建物が崩れ落ちる全壊状態が多く見られた。
マンションや戸建て住宅を購入する際によく聞くのが新耐震基準かどうかである。新耐震基準とは、1981(昭和56)年6月1日に施行された耐震基準だ。震動6~7の地震でも建物が崩れ落ちないよう基準を変えたものだ。ただ、新堀アトリエ一級建築士事務所(東京都江東区)の建築家・新堀学さんは、「この耐震基準は建物がまったく損壊しないということを想定しているわけではなく、命を守るための最低限の基準だと考えていてください」と話す。
最近の新築住宅の販売広告を見ると、耐震等級が1だとか、2だとかをうたっているが、これは2000年4月1日に施行された「住宅の品質確保の促進等に関する法律」(品確法)が定めている「住宅性能表示制度」に基づく耐震性を指す指標である。
新堀氏は、「耐震等級2は、等級1の1.25倍、等級3では等級1の1.5倍の力を受けても倒壊・崩壊しないレベルの耐震性を示しています。耐震性を検討する場合に使われる建物の性状として壁量がありますが、建築基準法により、この壁量が定められています」と解説するとともに、既存物件の耐震改修のプロセスについても次のように説明する。
耐震壁の量を多くすることが倒壊を防ぐ
木造の戸建て住宅で言えば、まずは、耐震診断で設計内容のチェックと現地の施工状態を踏まえての耐力チェックを行う。耐力チェックでは一般的に建築士や構造一級建築士が実施する。
その後は、診断に基づいて耐震改修設計を行い、一般に不足している壁量を内部のプランと調整しながら確保することと、劣化している接合部に対して補強を行う。まれに基礎についてもコンクリート補強を行うなどの改修が必要な場合もあるという。
能登半島地震では、液状化現象も注目されているが、地盤の弱い低湿地帯は地耐力が低い傾向が強いため、マンションなど鉄筋コンクリート造の開発では、杭基礎が支持地盤まで力を伝える設計にするなどが必要になる。最近の新築は、地盤調査に基づいて地耐力に応じた基礎の設計と必要な場合の地盤補強がようやく一般化してきているものの、敷地単位での対処となるため、その地域の地盤がどういう性状なのかを認識した設計が必要になっているとしている。
大震災では、建物の1階部分が2階に押し潰されるケースも多く発生するが、1階部分の耐震壁を多くする作りがそのような現象を防止するのに有利であり、上階の荷重は軽いほうが同じく地震力を和らげることにつながるため、屋根や壁の素材等も軽量なほうが有利となる。特に1階がお店だったり、車庫だったりする場合は、通常よりも補強をする必要がある。
ただ、そうは言っても、耐震診断や構造計算に基づいて100%施工されているかが最も重要になっている。設計者が設計監理という仕事を受けて現場を見ている場合は、施工側と設計側で現場を見て記録・確認をすることが二重で確かめられるが、建て売り住宅など設計・施工が社内で一体になっているとダブルチェックがあまくなる可能性が高まるため、建設会社や工務店の責任の重さが増す。
街・町の成り立ち等の情報収集カギ
また、一般消費者は、旧耐震基準で建てた住宅を購入する場合、不動産会社は耐震診断の記録の有無などについて調査・説明の義務があることを知っておくことも必要である。
大きな買い物をするには、それなりに労を惜しまずに情報収集に励むことが欠かせず、実需でも投資用でも物件を購入する際には、ハザードマップを使い過去の災害事例をある程度、調べられる範囲で調べておくことも重要になる。古地図を使うことも一考だ。過去に河川、沼、田んぼなどの湿地帯であったかや、その街・町が出来てから古いのか新しいのかを調べることができる。一概には言えないが、震度7クラスを視野に入れれば、ざっくりと400年くらい人が住んでいるなど長い目で判断したほうがよいとされ、そこまでいかなくても江戸から明治に入った頃や、関東大震災以降などの節目で古地図や古い資料で追いかけることでリスクを予測することが可能であるとされる。
過去から情報を拾い上げて、現代の防災対応に生きる街づくり、家づくりが求められている。
健美家編集部(協力:
(わかまつのぶとし))