不動産情報サイト事業者連絡協議会の調査によると、木造アパートの人気が前年よりも落ちてしまった。調査元でもこの現象については、ちょっと驚いており、なにかの兆候かと相談を受けた。その背景と対策について考えてみたい。

■賃貸アパートの検討者が81.1%から50.0%に急落。
お部屋探しで、なにが起っているのか
不動産情報サイト事業者連絡協議会(RSC)による、第19回「不動産情報サイト利用者意識アンケート」調査結果が、2021 年 10 月 28 日発表された。調査期間は2021 年 3 月 18 日~6 月 16 日。まさにコロナ禍のピークでの調査として注目された。
この調査では例年、検討している物件の種別を聞いている。どちらかというと、年代や賃貸売買の別といった属性による回答の違いを見るための、ローデーターの数字なのだが、驚くべき事に、賃貸アパートの検討者が81.1%から50.0%に急落した。
お部屋探しの条件として、賃貸アパート、すなわち木造が急に敬遠されているのだろうか。

■突然の大きな数値変動
理由を探ってみる
「コロナ感染リスクから共用部のある集合住宅よりも、戸建ての人気が売買で高まった」と言われた2020年の変化よりも、激しく数字が動いた。ここまで大きく数字が変動したことはなく、「そんなに賃貸アパートが敬遠されるように事件はあっただろうか」と考えてみる。

たしかに、賃貸物件の案内で婦女暴行事件があったり、界壁がない物件が出たり、あるいは築浅物件で階段が壊れて人が亡くなったりと、賃貸全般にはマイナスイメージもあった。しかし、「賃貸マンションはいいけど、賃貸アパートはちょっと・・・」という理由とは考えにくい。
考えられるのは「遮音性」の問題である。新型コロナ感染防止のため、国は「テレワーク7割」を目標に掲げ、積極的に企業に働きかけをした。これまでの会議や商談が、自宅からオンラインでの参加が推奨され、働き方は大きく変わった。こうした変化は、遮音性の低い賃貸アパートでは、ハンデとなっている可能性が高い。

また、大学のキャンパスでの授業がオンラインに変わっている。6割の大学でオンラインと対面の併用。1/4の大学ではオンライン授業のみとなり、自宅でのオンライン環境は、学生には重要となっている。
■授業だけでなく、
就職活動もオンラインに
感染リスクを防ぐため、会社説明会や面接もオンラインとなった。人生の一大イベントである就職活動で、家からオンラインで接続となると「ちょっとネット環境がないので、カフェから」と言うわけにも行かない。場合によっては「下宿先は隣の部屋がうるさくて、面接がしにくいから、引き払って実家に戻ろう」なんてこともあり得る。


■騒音クレームの
発生件数が増加
賃貸物件のクレーム対応をアウトソーシングで受託しているプロコール24の集計によると、コロナ禍で確実にクレームが増加している。中でも多いのが「騒音クレーム」だ。図のように、騒音クレームは、毎月前年の数を上回っており、コールセンターの業務負荷の増大の原因となっている。
なにも、テレワークやオンライン授業でなくとも、「ステイホーム」でいらいらしながら住まいにいると、どうしても「隣家の音」は気になる。極端な話としては、警視庁への通報でも、騒音に関する通報が38%増加(2020年4月)と増えているそうだ。
自宅で過ごす時間が長くなる中で起きる、いわば“巣ごもり騒音”の苦情が多発していたと言えるだろう。
■感染拡大で注目される
遮音性
冒頭紹介した、第19回「不動産情報サイト利用者意識アンケート」調査結果では、賃貸アパートの検討が減った理由が「遮音性ではないか」を裏付けるデータがある。
この調査で、「新型コロナウィルス感染症拡大が起こる前と比べて、住宅に求める条件はどのように変わったか?(複数回答)」で、最も多かった回答が、「遮音性に優れた住宅に住みたくなった」である。特に賃貸の検討者では顕著だ。
省エネ性能や、断熱性なども賃貸アパートは弱点ではあるものの、そうした項目はまだまだ少なく、今回のデータ影響は遮音性にあると考えるべきだろう。

■賃貸アパートでも
遮音性を高くするには
さて、では木造はダメなのか。そんなことはないだろう。投資としては、早く資金回収しやすいアパートは、入居者にとっては家賃が安い。収入が少ないという人だけでなく、「家賃は抑えて、いずれ戸建てを買いたい」「単身生活は趣味にお金を使いたい」といったニーズに合致する。そこにコロナ禍という外部要因が来ただけだ。
では、コロナがおさまれば人気復活かというと、テレワーク・オンライン授業はこれからもある一定程度残るだろう。便利だからだ。
となると、防音床や防音壁という手段もある。
二重サッシも有効だ。そこまでお金をかけなくとも、「カーテンを引く」「カーペットを引く」などで、音漏れを防ぐ方法はある。「加害者側に騒がないよう注意をする」「被害者側に、マイク・ヘッドフォンを推奨する」なども有効だ。

■テレワーク・オンライン環境が
建物の近くにあれば
昨今では、首都圏では駅に「テレワークブース」のようなものも登場した。こうした設備が近いケースでは、それをアピールするのも良い。
また、カラオケボックスでは、ネットをつなぎ「テレワーク会議室代」として領収書を出してくるところもある。もともと、防音に適した構造であり、かつ日中の使用料はかなり安い。
物件のアピール材料としてもこうした事に気を配り、社会の変化に対応して満室経営を続けていきたい。

執筆:上野典行(うえの のりゆき)
執筆:
(うえののりゆき)