新型コロナウイルス禍がきっかけとなり、リモートワークへの関心が高まっている。そんな中、政府は、主な生活拠点とは異なる地域にも暮らす「二地域居住」を推進している。
今国会にも推進を促す制度改正の法案を提出。普及に向けた財政支援をおこなっていく考えだ。都市部に住む人にも地方に拠点を持とうという人が増えれば、地方の賃貸物件の需要が高まることになる。
不動産投資家はビジネスチャンスの拡大につながるので、今後の動向に注意していきたい。 国交省の「移住二地域居住等促進専門委員会」が1月下旬につくった「中間取りまとめ」によると、コロナ禍以降、東京圏に住む人の地方移住への関心は高まっており、20代の約半数が「関心がある」としているという。
二地域居住を行っている人の世帯年収層をみると、最も多いのが「400万円~600万円未満」で20.49%。次が「200万円~400万円未満」で17.81%、3位が「600万円~800万円未満」だった。
一般的なサラリーマン世帯などが中心であるといえるだろう。中間取りまとめでは、まず現状について、「コロナ禍を契機に、テレワークが普及・拡大(した)」「住む場所に縛られない新たな暮らし方・働き方が浸透(してきた)」と指摘。
さらに、「東京の転入超過数はコロナ禍において減少したものの、現在は再び増加傾向に転じている」「一方で、近年、若者世代を含め、地方への移住希望者の数は増加している」ともした。
その上で、二地域居住の「社会的意義」として次のように指摘した。
「地方への人の流れを生み、地域の担い手の確保や消費などの需要創出、新たなビジネスや後継者の確保、雇用創出、関係人口の創出・拡大等につながる。
二地域居住などの促進は『目的』ではなく、より良い地域づくりを進めるための『手段』(である)」
「個人的意義」については次のように述べた。
「多様なライフスタイルの実現を通じたウェルビーイングの向上、新たな暮らし方、新たな働き方の実現、新たな学びの機会の創出につながる」
制度改正で市町村は居住促進の計画を策定 空き家の改修などには支援も
こうしたことを踏まえ、政府は二地域居住の普及に向けた対策をとり始めた。
その一つが法律の改正だ。政府は今国会に、「広域的地域活性化基盤整備法」の改正案を提出した。
改正案の施行後、想定される新しい制度のあり方は以下のようなものだ。
この計画には、二地域居住の促進に向けた基本的な方針や、拠点施設にかんする拠点施設の整備についての事項が記載される。
方針は住民の意見を取り入れた上で公表し、地域と二地域居住者を 適切にマッチングする。施設は、空き家を改修したりコワーキングスペースを整備した場合、財政支援を受けられるようにする。
このほか、「住まい」「なりわい」「コミュニティ」を二地域居住者に提供するNPO法人や不動産会社といった民間企業などを「二地域居住等支援法人」に指定できるようになる。
市町村長は法人に対し、空き家や仕事、イベントなどの情報を提供。法人は市町村長に対し、特定居住促進計画の作成や変更を提案することが可能になる。さらに市町村は、計画作成などについて必要な協議をおこなうため、官民の協議会をつくることができる。
協議会のメンバーとしては、市町村長や都道府県、二地域居住等支援法人、地域住民のほか、不動産会社、交通事業者、商工会議所、農協などを想定している。
政府は数値目標も定めた。計画の作成数を法律施行後5年間で累計600件にするとした。また、二地域居住等支援法人の指定数を、法律施行後5年間で累計600法人とするともした。
課題は居住者の交通費、ネット費用の負担の重さなど 支援の検討必要
このような制度が実現すれば、二地域居住の拡大は進んでいくことだろう。
しかし、まだまだ課題は残る。
たとえば、地域での居住にかかる、いろいろな費用への支援をどうするかだ。新幹線や高速道路で移動するための交通費、ガソリン代などの燃料費、宿泊のための滞在費、インターネット環境を確保するための費用などは個人の負担が大きい。このため、負担を軽くするための支援を検討していく必要があるだろう。
また、居住した地域で交通や買い物、医療、福祉、子育て、教育といった生活サービスを継続して受けられる態勢づくりも必要になってくる。
居住した地域でのさまざまな意思決定のプロセスに、居住者がどう参画していくのかを考えることも必要だろう。
取材・文:小田切隆(おだぎりたかし)
■ 主な経歴
経済ジャーナリスト。
長年、政府機関や中央省庁、民間企業など、幅広い分野で取材に携わる。
■ 主な執筆・連載
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「経済界」(株式会社経済界)
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「近代セールス」(近代セールス社)
ニュースサイト「マネー現代」(講談社)など