群馬県水上温泉は、上越線の開通とともに、渓谷美を備えた首都圏に近い温泉街として、高度経済成長期に栄えた。
しかし、バブル崩壊後急速に衰退し、一部が廃墟化した。その水上温泉で近年大型投資を含め、再生の取り組みが始まっている。
■ かつて全国有数の温泉地として栄えたが衰退
大正時代に歌人・若山牧水の「みなかみ紀行」によって紹介され、温泉情緒と雄大な渓谷美の自然が調和した温泉として多くの文人に愛された。
その頃牧水が泊まったのは現在の水上温泉よりも麓の湯宿温泉だ。その宿は現在も国道沿いにひっそりと佇む。
雪国新潟との国境である清水トンネルが開通したのが昭和初期。そのトンネルを抜けて雪国へ向かう起点にもなった上越線水上駅周辺の水上温泉は、急速に発展した。高度成長期にかけて温泉街は、温泉宿のみならず多数の飲食店などが立ち並び、大変なにぎわいであったという。
しかし、企業の慰安旅行などの団体客向けに温泉旅館の大型化が進むと、旅館が飲食、レジャーなどのニーズを囲い込み、徐々に温泉街が衰退。バブル崩壊後は、景気が減退し団体旅行から個人旅行へとニーズが変化すると、温泉旅館も次々と廃業していった。
廃業した旅館が廃墟化したまま放置されて本来の渓谷美、温泉地の景観も損なわれる状態になり、宿泊客、観光客ともに減少の一途をたどっている。
■ 産官学金が提携し、温泉街の再生に取り組む
近年、その水上温泉街の廃墟再生に向けて本格的な動きが始まっている。
2021年、みなかみ町、群馬銀行、オープンハウス、東京大学の4者が、産官学金包括連携協定を締結した。産官学金が一体となって、みなかみ町のまちづくりに取り組む。
温泉街の再生ビジョンの研究・提案をおこなっている東京大学の都市デザイン研究室がコンセプトを立案、試験的な実行を試みる中で、本格的な再生につなげていこうというプロジェクトだ。
試験的な再生は、2022年9月から「廃墟再生マルシェ」というイベントを不定期に開催することで始まった。廃旅館内でのフリーマーケット、露店販売を通じて地元住民を巻き込んで再生のあり方を考えて来た。
2023年12月には、水上駅から道の駅「みなかみ水紀行館」までの利根川沿いの5つの広場を中心に再生するコンセプトブックをとりまとめた。これら5つの広場を温泉街らしい魅力的な公共空間に変え、水上温泉を訪れる観光客を出迎える空間としたい考えだ。
まず最初に手掛けるのが、温泉街の中心部に位置する「旧一葉亭」の再生だ。建物の一部が利根川沿いの崖と一体化し、せり出すような構造になっていることから、既存建物を最大限に生かして川を感じる空間として活用する。
その他、敷地や建物内の庭に森を再生し、建物と一体化させて自然を感じる構造にするなどのアイディアが公表されている。今年1月に活用事業者の公募が締め切られ、現在は事業者の選定がおこなわれている段階だ。
■ スキーなどのアウトドアリゾート、温泉文化を売りにインバウンド誘致も
水上温泉のあるみなかみ町は、谷川岳などに8つのスキー場を抱える。これらを生かし、スノースポーツをメインとするアウトドアリゾート地としての売り込みにも力を入れている。
東京からヘリコプターでアクセスするサービスや、ヘリコプターツアーなども始まっている。
国内のスキー客は減少傾向にあったが、2016年にみなかみ町観光協会が母体となって立ち上げたDMOが中心となって、インバウンドニーズの開拓を推進して来た。
コロナで一次的に下火になっていたものの、2023年にはコロナ前の水準に戻り、再びインバウンド機運が高まりつつある。
今までは台湾がメインであったが、今後、米国西海岸やハワイをターゲットとして、現地旅行会社などにトップセールスをかけていく構えだ。
さらに、報道によれば、インバウンドセールスは、本来のみなかみの強みである温泉文化を世界基準のブランドにすべくプロモーションをおこなうという。具体的には、ユネスコ無形文化遺産への登録をめざす動きがある。
みなかみ町再生への足掛かりとなるか。インバウンド誘致のゆくえも注目される。