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【市長インタビュー】群馬県前橋市が取り組む官民連携まちづくり。にぎわいを取り戻し地域の発展に大きく寄与

都市計画・再開発(地域情報)/横浜・川崎・千葉・埼玉/首都圏 ニュース

2023/09/22 配信

人口減少や高齢化の課題を踏まえ
持続可能なまちづくりを実践

人口減少や高齢化、大型店舗の郊外出店など、さまざまな課題に直面する全国の自治体。住まい・交通・公共サービス・商業施設といった生活機能を集約するコンパクトシティ、MaaS(Mobility as a Service:移動のシームレス化)の導入、あるいは空洞化した中心街の再開発など、多岐にわたる施策でまちの再生に取り組んでいる。

「前橋市アーバンデザイン」を策定し、新たなまちづくりを進める群馬県前橋市。その影響もあり、中心市街地にはにぎわいが戻っている。
「前橋市アーバンデザイン」を策定し、新たなまちづくりを進める群馬県前橋市。その影響もあり、中心市街地にはにぎわいが戻っている。

群馬県の県庁所在地である前橋市。次世代に向けたまちづくりに積極的に取り組む自治体のひとつだ。以前、健美家でもその内容を取り上げたが、今回はその最前線に迫るべく、市長の山本龍氏とまちづくり担当者の方々にお話しを伺った。

前橋市が現在進めているのは、2019年に策定した「前橋市アーバンデザイン」を基にした、官民連携によるまちづくりだ。その取り組みは高く評価され、2020年の「先進的まちづくり大賞」では国土交通大臣賞を受賞した。

同プロジェクトが始まったきっかけは、約10年前に遡ると山本市長は振り返る。

「郊外に集客力の高い大型商業施設が出店するなど、前橋市は遠心力の強いまちになる一方で、前橋駅周辺の商業地はにぎわいを失っていきました。そうした中、約10年前からどのようにまちを再生・活性化させていくか議論が始まり、2019年9月に策定したのが官民協働で前橋駅から中心商業地を経て県庁周辺のエリアを含む中心市街地の約158haを活性化する『前橋市アーバンデザイン』でした」(山本市長、以下同)

特徴は民間主体のまちづくりであることだ。人口減少社会や逼迫する地方行財政等の状況下、行政主体のまちづくりには限界が見え始めることに。一方、官民連携で取り組むことで使われてこなかった施設が利用されにぎわいを取り戻す事例が複数紹介されるようになり、前橋市中心市街地においても約10年前から同様の施策が始まっていたという。

前橋市アーバンデザインの基本的な考え方。行政主体のトップダウン型ではなく、民間主体のボトムアップ型のまちづくりであるのが特徴だ。 出典:「前橋市アーバンデザインによる官民連携まちづくりについて」
前橋市アーバンデザインの基本的な考え方。行政主体のトップダウン型ではなく、民間主体のボトムアップ型のまちづくりであるのが特徴だ。
出典:「前橋市アーバンデザインによる官民連携まちづくりについて」

「最初の一歩は、自分たちの得意分野でまちを良くしようと取り組む20~30代のクリエイターの集まり『前橋〇〇部』などとの連携です。皆さんを中心にアート・建築・メディアカルチャーの輪が広がり、翌年10月には芸術文化活動の支援・振興のための施設『アーツ前橋』を中心市街地に開業しました」

これを機に地元クリエイターと企業家がタッグを組み次世代の担う起業家を発掘する『群馬イノベーションアワード』や『群馬イノベーションスクール』も開始した。2015年5月には民間再開発事業の指針「前橋市市街地総合再生計画」を策定。「2017年5月にはまちづくりの手法において世界中から注目されている米国ポートランドへ官民で視察を行い、開発局のアドバイスを受けアーバンデザインの作成が始まりました」

前橋市アーバンデザインにおける、まちづくりの方向性・指針 出典:「前橋市アーバンデザインによる官民連携まちづくりについて」
前橋市アーバンデザインにおける、まちづくりの方向性・指針
出典:「前橋市アーバンデザインによる官民連携まちづくりについて」

市民との連携が契機だったからこそ、官民連携のまちづくりになるのは自然な流れ。ワークショップを開催し方向性や指針を議論し内容を形にしていった。

「緑豊かでありつつ都市の利便性を兼ね備えた『エコ・ディストリクト』、住・職・商・学が混在した『ミクストユース』、地域固有の資源を最大活用する『ローカルファースト』といった方向性を皆さんの合意を得ながら決定し、具体的なアクションプランにつなげていきました」(下図参照)

前橋市アーバンデザインのガイドライン。具体的なアクションプランを定めている。 出典:「前橋市アーバンデザインによる官民連携まちづくりについて」
前橋市アーバンデザインのガイドライン。具体的なアクションプランを定めている。
出典:「前橋市アーバンデザインによる官民連携まちづくりについて」

「前橋市アーバンデザイン」を策定と前後して、官民連携の輪はさらに広がった。そのひとつが、「自分たちのまちは自分たちでつくる」という精神もと、市内に拠点を置く企業家有志が2017年に結成した「太陽の会」の存在。

現在は24企業が名を連ね、参画企業は毎年純利益の1%(最低額100万円)を前橋市のまちづくりのために寄付金として拠出している。これまでに岡本太郎氏の作品を前橋市に移設するなどの活動や、2022年には市に対して1億円を寄付するなど、経済面をサポートしてきた。

2019年11月にはアーバンデザインの旗振り役となる非営利の民間法人「前橋デザインコミッション(MDC)」も地域企業家が中心となり設立。プロジェクトの啓発・ブラッシュアップや都市再生推進法人としてモデルプロジェクトを推進。

まちづくりプレイヤーの支援・発掘・育成、エリアマネジメントを手がけ、山本市長も「MDCには市民による市役所のような役割として、まちづくりのパートナーになっていただいています」という。

アーバンデザインに基づき
市民が自由にまちを活性化

「前橋市アーバンデザイン」の策定後、どのような取り組みが行われてきたのか。「道路の整備などは行政の役割ですが、アーバンデザインに基づき市民がまちを活性化させるのは自由というのが、基本的な考えです」と山本市長は述べる。

2023年4月現在における官民連携事業の一覧。モデルプロジェクトをはじめ、大規模な再開発やリノベーションによるまちづくりなどが行われている。 出典:「前橋市アーバンデザインによる官民連携まちづくりについて」
2023年4月現在における官民連携事業の一覧。モデルプロジェクトをはじめ、大規模な再開発やリノベーションによるまちづくりなどが行われている。
出典:「前橋市アーバンデザインによる官民連携まちづくりについて」

これまでに、太陽の会やMDC、その他民間による単独、あるいは行政と連携した事業を展開していて、モデルプロジェクトはそのひとつ。

中心市街地の主要なエリアや拠点をつなぐ高い効果が期待できるものとして、「けやき並木通りにおける道路空間の利活用」「広瀬川河畔における水辺空間の利活用」「馬場川通りなどでの道路空間の再配分による利活用を進めてきた。

4つのモデルプロジェクトの概要
4つのモデルプロジェクトの概要
けやき並木通りでは歩道や車道を使ったイベント「前橋バルストリート」を開催した。 出典:「前橋市アーバンデザインによる官民連携まちづくりについて」
けやき並木通りでは歩道や車道を使ったイベント「前橋バルストリート」を開催した。
出典:「前橋市アーバンデザインによる官民連携まちづくりについて」

けやき並木通りとは、前橋駅北口から北へ伸び国道50号線と交わる通り。ここでは車道や歩道を活用して定期的にイベントを開催し、沿道の建物に入居する店舗を育てるステップアップ方式を目指しており、今年の9月9日には約500mの間の6車線の車道を歩道者天国にした「前橋バルストリート」を開催し、約200店舗の飲食店がテントやキッチンカーで集結、多くの人でにぎわった。

水辺空間を利活用する広瀬川河畔プロジェクトでは、2020年度から今年度にかけて、緑地整備事業を進めているところだ。にぎわいの拠点を創出するとともに、河川でカヌーに乗れるなどアクティブレジャーの場としても活用したいという。

河畔整備で使用するレンガに名前を刻む市民参加プロジェクトには1187名が参加し、河畔整備に向けた社会実験のひとつとして、キッチンカーの出店も支援するといった取り組みも行われた。

いまある資源を有効に使い、低予算で建物・施設を更新する「リノベーションまちづくり」のプロジェクトも始まっている。

「例えば、水辺が整備されても近くに店舗がないと、にぎわいは生まれません。そこでまず行政が主導して遊休不動産を調査、不動産オーナーへの啓発を行い、不動産オーナーと出店希望者をマッチングし、その後は民間が中心となり事業化まで進めています」

「リノベーションまちづくり」の仕組み。ひとつのリノベーション事業をきっかけに、まち全体に伝播することで賑わいが生まれ、まちの価値を向上させるのが狙い。 出展:「前橋市アーバンデザイン概要版」
「リノベーションまちづくり」の仕組み。ひとつのリノベーション事業をきっかけに、まち全体に伝播することで賑わいが生まれ、まちの価値を向上させるのが狙い。
出展:「前橋市アーバンデザイン概要版

ここでは、まちなかで出店したい、イベントを実施したいといった人を支援する「マチスタント」の担当職員をにぎわい商業課に配置。今年5月時点で約120名の不動産オーナー、約130名の事業オーナーを掘り起こすとともにマッチングをサポートし、これまでにベーカリーやシェアスペース、飲食店、クラフトビール醸造所などがオープンしている。

マチスタントの取り組みを通じてオープンした店舗。個人店だけではなく、「無印良品」など大手企業の店舗も含まれる。 出典:「前橋市アーバンデザインによる官民連携まちづくりについて」
マチスタントの取り組みを通じてオープンした店舗。個人店だけではなく、「無印良品」など大手企業の店舗も含まれる。
出典:「前橋市アーバンデザインによる官民連携まちづくりについて」

「マチスタントでは市の職員に加えて、民間では建築家や前橋工科大学の学生も事業に参加しています。こういった方々の知恵をお借りしながら、廃墟同然だった建物がベーカリーや古着ショップなどに生まれ変わりました。2021年3月には、しののめ信用金庫とMINTO機構が事業オーナーに融資する『前橋まちなか まちづくりファンド』も設立されるなど、良い作用が起きています」

なお、マチスタントによる取り組みは高く評価され、国土交通省が主催する2022年度「まちづくりアワード」の実績部門で特別賞を受賞している。

延長約200mに及ぶ水路・遊歩道公園・道路を整備する馬場川通りプロジェクトでは、前橋市とMDCが第一生命保険と連携し、民間資金を活用して社会課題を解決する事業を実施する「ソーシャルインパクトボンド(SIB)」を採用。民間企業が民間資金で公共施設を整備する画期的なスキームを採用した。

このように、多岐にわたる事業で中心市街地の活性化に取り組む前橋市。「最低限の約束事を定めておくことで逸脱は避けられます。むしろ、民間の方々に自由な発想でプレイスメイキングしていただける、理想的なまちづくりを進めることができました。行政として支援しながらも公共事業の権限をお渡しするなど、相手に任せる決断をできたことが、今日の成果に結びついたと考えています」と山本市長は述べる。

中心市街地の再開発でマンションなど住居が建つと、市内からの転居だけではなく、親が住んでいた、東京から戻り子育てをしたいなどの理由で市外からの転入者も増えた。郊外や赤城山の麓を住まいに選ぶ人もいるが、まちなかへの回帰が進んでいる。

一方、前橋市は鉄道や高速道路が充実しているが、車社会だからこそ高齢化などに伴う移動難民の増加は課題。今後はタクシーの補助事業やコミュニティバスの運行などに注力するという。2021年7月よりは市によるシェアサイクル「cogbe(コグベ)」の本格運用が始まり好評だ。

最後に山本市長にまちづくりのポイントを尋ねたところ、次のような答えが返ってきた。

「まちづくりのすべてを行政でまかなうには人的・資金的に厳しく、市民や民間を信じ連携するのが成功のポイントです。今後もアーバンデザインに基づいたまちづくりが続くことで、前橋市がより良いまちになっていくことを願っています」

なお、同プロジェクトには前橋市役所の職員も関わっている。締めくくりとして、代表者の方々からコメントをいただいた。

にぎわい商業課 課長 纐纈正樹氏

「アーバンデザインの策定から関り、現在はマチスタントを所管しています。本事業では遊休不動産を所有する不動産オーナーに店舗の貸し出しをお願いしたり、出店希望者のサポートや両者のマッチングを行っています。若い事業オーナーのビジネスを支援し、大企業だけではなく中小事業者まで、さまざまな方のビジネスの受け皿になりたいと考えています。アーバンデザインは民間主導だからこそ、クリエイティブな取り組みが生まれてきました。今後も、クリエイティビティに富んだ方々に前橋市が選ばれるような流れにしたいと考えています。最終的にはどこにもない、個性豊かな都市を目指します」

市街地整備課 課長 五十嵐紳一郎氏

「市街地整備課では広瀬川河畔緑地の改修や再開発事業、区画整理などを担当しています。中心市街地では建物の老朽化が進む中、建て替えやリノベーションで機能の更新を図っているところです。広瀬川は改修前の暗い雰囲気が一転し明るくなり、今後は馬場川通りも同様ににぎわいが戻るよう取り組みを進めていきます」

市街地整備課 課長補佐 五十嵐敦氏

「市街地整備課で市街地再開発を担当しています。先ほど中心市街地を中心に転居・転入が目立つという話がありましたが、そのほとんどはマイホームの購入。ここ数年のまちづくりをご覧いただき、楽しく過ごせると思い購入に至るケースが多いようです。落ち着いた雰囲気や自然豊かな環境も評価されています。再開発は単体・事業ごとに捉えられがちですが、周辺とつながりを持ち進めることで、より効果的になるはずです。前橋市ではにぎわい商業課と市街地整備課が連携することで、庁内でだけではなく民間ともうまくつながり、いくつもの事業を形にしてきました。今後も持続的なまちづくりを目指します」

市街地整備課 課長補佐 西村直之氏

「市街地整備課でアーバンデザイン業務や馬場川通りプロジェクト、まちづくりファンドを担当しています。これまでの行政主体のまちづくりとは異なる取り組みが進む中、我々が意識しないといけないのは、民間の邪魔になってはいけないという点。行政の価値観だけで民間企業の考えを否定するのではなく、うまく調整する役割が求められます。そのためには柔らかい発想を理解することが大切であり、今後も行政と民間の橋渡し役としてまちづくりに関わっていきたいと思います」

多くの成果を収めた取り組みだけに、同じような課題を抱えている地方自治体の参考になるに違いない。また、地域ににぎわいが生まれると、住居や店舗などに対するニーズも高まる。不動産オーナーにとっても、地方都市の活性化は興味深いトピックではないだろうか。

健美家編集部(協力:大正谷成晴(おしょうだにしげはる))

大正谷成晴

■ 主な経歴

フリーランスの編集・ライター。
不動産投資、株式投資、投資信託、FXなどマネー関連、ビジネス全般、働き方、副業、クレジットカード、医療・介護など、幅広いジャンルで取材・執筆を行っている。

■ 主な著書

  • 『決定版 1万円からはじめるFX超入門』(かんき出版)

※ 記事の内容は執筆時点での情報を基にしています。投資等のご判断は各個人の責任でお願いします。

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