こんにちは。オロゴンです。前回に続き、銀行員だったころの記憶を掘り起こしてみます。今回は、企業の決算書を受け取った後に行う格付作業について、初心者の方でもわかるよう、なるべく平易な言葉を使って書いてみたいと思います。
(10年近く前の話なので、細かいところは違っているor変わっているかもしれません)
銀行員が取引先から決算書を受け取ったら、まずは決算書をシステム・データベースに登録します。登録といっても、事務センターに送れば勝手にスキャナーなどでデータ化され、独自の計算式でその会社の財務状況が、スコアリング(点数付け)されます。
このスコアリングには、流動比率とかインスタントカバレッジレシオといったちょっと難しい財務分析指標や業界平均の数字、過去数年分の決算などが分析に使われます。業種などによりそれぞれの基準でスコアリングが行われてA1~F1のように評価が下されます。
「銀行員は財務知識に精通してる」と思っている人も多いと思いますが、このようにコンピュータが自動でスコアリングしてくれるので、仕事しているうえでは財務分析はあまり必要じゃなかったりします。
(社内で財務分析の研修やテスト等があるので、普通の人よりくわしいのは間違いありません)
与信額がそこまで大きくなければ、僕がいた銀行では、このスコアリングだけで決算書の査定作業はほとんど完了です。後に説明する、実質的な自己資本(純資産)の算定のための格付作業は行われないので、人間は手をあまり動かさずに終わります。リスクの少ない取引先は、決算書表面の数字で、簡易的な審査をしているイメージですね。
保証協会が付いている融資は、7割~10割を、協会が万一の時にカバーしてくれるので、銀行側のリスクとしては30%以下となります。したがって、借入が保証協会のみの場合などは、この自動スコアリングだけでの融資になることが多かったように思います。
与信額が小さい・保証協会の借入だけの場合、決算書を担当者に渡した以降も、特に込み入った質問をされなかったという投資家の方も多いのではないでしょうか。これはリスクが小さいためこのように簡易的な点検のみで、決算書の審査が終わっているということです。
一方で、借入が増えて、与信額がある程度大きくなってくると(この辺りは銀行ごとに基準があるかと思います)、取引先企業の財務状況や経営状況をより精緻に分析し、格付と呼ばれる評価作業を行います。
これは、融資の際のリスクを判断するために行われる重要な作業です。取引先のリスク判断だけでなく、融資の際に使える金利や期間の条件もこの格付に左右されるようになります。格付がよくなれば、融資可能な総額や支店内決裁の額なども増えます。
これまで決算書について特に深堀りされなかったのに、次年度から、いきなりくわしい説明を求められることになった経験がある方は、怪しく思われているというよりは、自動スコアリング → 格付対象先 にステージが1個アップしているのかもしれません。
基本的には、この格付を良くしていくことが「決算書を磨く」行為であると僕自身は認識しています。格付が上がれば、金利も安くなるし融資の金額も伸びます。
■「決算書を磨く」には、何をすればいい?
「決算書を磨く」ためにどういうことをすればいいかは、銀行側がどういう作業をしているかがヒントになります。
ちなみに僕がいた銀行では、格付は決算後、4~5ヶ月後の月末に期限が設けられていたため、3月決算の会社の格付が集中する7~8月が、銀行の営業マンの1年間で特に忙しい時期だった思い出があります。この時期の銀行員には少し気遣いを見せてあげるといいかもしれません
格付作業の中でも、特に精緻な確認を行うのは、決算書の中でも、貸借対照表(バランスシート)の部分になります。
決算書の数字は取得時簿価ですので、例えば100万円の預金&取得当時100万円だった上場会社の株式/を保有している企業が50万円の融資を受けている場合、決算書上の貸借対照表はこうなります。
しかし、この上場株式が100万円→10万円に値下がりしてしまっている場合、実態はこういうことになりますよね。
資産の価値が減ると、バランスシートは左右が同じ金額になるため、連動して自己資本が削られてしまう訳です。そのため、より企業の実態を把握するためには、決算書上に載っている数字を鵜呑みにするのではなく、「実質的な自己資本」を調査する必要があるのです。
このようにして、決算書の数字とギャップが生まれる「実質的な自己資本」の金額を精査することが格付のメイン作業となります。その企業の真の姿を明らかにするという感じですね。
実質的な自己資本は、簡単にいえば、決算時点で持っている資産を全部現金化する→そのお金で今ある借金を全部返す→最終的に会社の手元に残るお金ということになります。この金額が多ければ多いほど安全ということは、財務に明るくない人でもなんとなく直観的にわかってもらえると思います。
この自己資本がマイナスになってしまう(債務超過ともいう)会社は、「今 持っている資産を全部処分しても、そのお金では借金が全部返しきれない」状態ということです。
したがって、銀行としては、自分たちの貸したお金が帰ってこない懸念がとても高い状態なので、融資を実行することは難しい会社ということになってしまいます。融資を続けて受けていくのには、債務超過はなるべく避けたいところです。
不動産投資の書籍などでよく「信用毀損」という言葉が出てきます。決算書上の金額(簿価)よりも時価評価額が小さくなる物件を購入した場合、保有した瞬間「実質的な自己資本」が削られてしまいますが、これを「信用毀損」と呼んでいるのだと思います。
信用毀損を避けるためには、銀行の評価額が購入額を上回る(もしくは差が小さい)ような物件を狙うのがポイントになるわけです。
例えば、下図のように2,000万の物件を自己資金200万+銀行融資1,800万で取得するとこの案件を貸借対照表で考えるとこのようになります。
しかし、銀行のこの物件に対する評価額が1,500万だったとすると、このようになります。万が一 運営が行き詰まり、土地・建物を処分することになっても、銀行は融資を全額回収することができません。このように、銀行の物件評価額が融資額を下回ってしまうと、「信用毀損」が発生するという風に言っているわけです。
このような信用毀損が積み重なり、自己資本を食いつぶしてしまうと、実質的に債務超過しているとみなされ、次回以降の融資がとても不利になってしまいます。
不動産投資業界では、どうしてもフルローン・オーバーローンが持てはやされがちですが、格付の観点だけで見れば、自己資金は入れればいれるほど「信用毀損」が起こらずに良いという見方もすることができます。
自己資金をいくら入れるかは、銀行の担当者とも条件も含め相談しながら、次の融資を見据えて戦略的に進めていきましょう。
■銀行で行う格付の作業について
銀行における格付作業は以下のようにすすめていきます。
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①不動産以外の資産の現在評価額を算出
・上場株式・ゴルフ会員権など 価格がすぐわかる資産の時価を算出
・売掛金・未収入金・前受け金など 取引先向けの債権であれば信用状態を調査(信用状態によって50%にしたり、ゼロにしたり掛け目をかけていく)
「役員貸付金」はこのタイミングで、まるまるゼロ評価(返ってこないお金)とされてしまうことがあるので、あまり計上しないことが勧められています。
仮想通貨や海外不動産、得体の知れない投資商品などは銀行によってはゼロ評価にされてしまうことがあります。
②不動産の評価額を出す(担保評価と同様、銀行によってルールが大きく違う)
僕のいた銀行では、次のような感じでした。
・土地は「路線価」を使って査定
・賃貸不動産は家賃収入をベースにした収益還元評価を行う
・「償却不足」がないかも確認
不動産の評価は謄本の取得から路線価調査など細かい事務作業が発生するので、担当者にとっては物件数が増えてくると大変な業務でした。
(司法書士に謄本依頼するだけでも大変なので、不動産番号などが一覧でまとまってる表などあると喜ばれるかもしれません)
③負債についても精査を行う
「役員借入金」はこのタイミングで「自己資本」とみなしてもらえる金融機関もあるようです
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このようにして、算出された「実質的な自己資本」の金額を入れて、再度コンピューターでのスコアリングを実施しなおします。こうして格付作業が進んでいきます。
格付にはこの自己資本の算出に加えて、「債務償還年数」という数字も重要になってきますが、そちらについては情報も多いと思いますので、ネットで検索してみてください。
決算書はある程度、自分で数字をコントロールすることができます。税理士さんにも相談して、節税だけではない、銀行に好まれるような決算書を磨いていってもらえばと思います。