長期空室物件ほど、「入居者ターゲットの選定」が疎かになりがちだ。早く決めようと入居者ターゲットを拡大するほど、返って空室期間は増えてしまうことに気づきにくい。「集中と選択」が必要なのだ。
募集を依頼している管理会社では、たくさん管理物件を管理し、空室物件を抱えているほど、ただ闇雲に募集をしてしまいがちである。
管理会社の担当者も多数の空室在庫を抱えているため、どれか一つを優先することが難しく、その結果、手が回らないために、さらに空室対策がおそろかになり負のスパイラルに陥る。
反響を増やそうとポータルサイトを活用しても、ターゲットが決まっていないため、返ってどんな人に伝えたい広告なのかがはっきりせず、ただ掲載するだけにとどまってしまう。確かに反響総数が増えれば、多くの人に見てもらえる可能性が高くなるため、成約確率は高まるはずだ。
しかし、何百人が内見しようと、最終的に決めてくれるのは、たった「ひとり(一世帯)」である。その「ひとり(一世帯)」に刺さるよう、決定率を高めるための施策が必要なのである。
■成約から逆算する入居者ターゲットとセグメント
決定率を高めるには、「入居する人」から逆算した部屋作りとマーケティングが重要だ。入居する人、つまり「ターゲット」を明確にしたほうが、マーケティングの戦略が組みやすく、無駄なく効率的に決定率を高めることができる。
賃貸住宅の募集方法や広告は、とかくターゲットが「マス」になりやすい。ポータルサイトでの募集が中心ということもあるが、窓口を広げることで、単身者でもファミリーでも入ってもらえればOKという、供給過剰の市場ではありがちな状態に陥っているのである。
しかし、地域での空室が多くなると、ターゲットを絞らないことは、返って「空室情報の海」に物件が溺れることになってしまう。そうならないためには、「市場細分化(セグメント)」をして狙うべきターゲットを明確にした方が良い。
入居希望者は、年代や性別、ライフスタイルによって、求める設備やデザインは千差万別。つまりセグメントに刺さりやすい物件にしてあげる必要がある。よって募集に際しては、物件ごとの入居者セグメントを設定することが必要だ。
■入居者ターゲットの設定
次に、ターゲットを設定する必要がある。セグメントにもさまざまな属性があるため、より物件のレベルに適したターゲット設定をする必要がある。たとえば「20代後半の女性というセグメント」があったとしても、「年収」「職種」「ライフスタイル」などの属性によって、求められる物件は大きく異なる。
たとえば、物件の賃料設定が8万円とした場合、年間支払い賃料は96万円(8万円×12ヶ月)となる。
家賃は一般的に年収の30%程度とされているため、96万円÷30%=320万円となる。つまり、年収300万円以下の人はターゲットにすることができない。
また、駅から遠い物件であれば、セキュリティ上の問題もあり一般的に単身女性をターゲットにしにくくなる。ところが、「在宅ワーク可能なクリエイティブ職」をターゲットにした場合、夜遅くの帰宅の必要がないため、駅近くの物件である必要はない。反対に、ワークスペースなどの広さを求める可能性があるだろう。
このように「賃料」「職種」「ライフスタイル」だけでも、セグメントからより詳細な入居者ターゲットがイメージできるはずだ。
ここまでくると、より入居する人物像がはっきりしてくる。あとは、空室対策をそのターゲットが入居する前提で進める必要がある。「賃料の設定」「壁紙の色」「ライフスタイルに合わせた設備」など、管理会社や仲介会社に相談をして、不足している箇所を改善していく。
「なんとなく募集」をしていることを改善しターゲットを決めると、募集媒体や方法もより具体化するはずだ。もちろん、実際に入居するのがターゲットと完全一致していないこともあるが、このように動き出すことで空室期間を短縮することができるだろう。
執筆:
(いまいもとつぐ)