「 これ( 壁の2㎝ぐらいの汚れ )、消しゴムで消せるっしょ? 」
裁判官にそう聞かれた大家は口をあんぐりと開けたまま、言葉を発せず…。
被告が出してきた証拠写真( 青いのは汚れのところにつけたポストイット )
身内が居住用に借りていた部屋を退去した際に、法外なお金を請求され、「 敷金返還 」を求める少額訴訟を起こした話を前回のコラムでかきました。
参照:■ 悲しい少額訴訟デビュー!( 涙 )
先日、第1回口頭弁論に出頭した原告に付き添って、私も東京簡易裁判所に行ってきました。法廷といっても、普通の部屋が柵で区切られており、一方にテーブルがあり、反対側に傍聴席があるという簡単なもの。
テーブルの向こう側に、中央に裁判官が、向かって右に女性の書記官、左に男性の司法委員が座っていました。テーブルの反対側に原告が向かって左に、被告が向かって右に、傍聴席に背を向けるように座りました。
最初に裁判官は「 少額訴訟なので原則一回の審理で直ちに判決を言いますが、よろしいですか? 」と被告に聞きました。
立ち合いのときは、写真のような汚れ3カ所に対して、印をつけていたのですが、証拠写真はそれよりも多く5~6枚が提出されていました。
私は「 後から他の部屋の写真なども入れたのでは? 」と思ったのですが、裁判官は「 これとこれ、それからこれとこれは同じ写真でしょう? 」などと言っていました。
大家さんは、壁紙を全部貼り換え、7割程度を原状回復費として請求しています。前のコラムでもかいたように、私から見れば張り替える必要がない部分も、全部お金をかけて交換しています。
「 ビニールクロスでしょ? 」
( 写真を見ながら、被告の大家さんに聞く裁判官 )
「 ええ。でもちょっと変わったビニールクロスでしてね 」
( それに答える高齢の大家さん )
わ、わりとカジュアルなやり取りなのですね…( 笑 )
その後、冒頭に書いた「 これ、消しゴムで消せるっしょ? 」という裁判官の質問が続きました。
すると「 消せませんよ!! 布のクロスですから 」と傍聴席の不動産屋さんが大きな声で言いました。
消せますって!
傍聴席で不動産屋さんと原状回復の工事をした男性の隣に座った私は、前を向いたまま、心の中で苦々しく反論しました。
不動産屋さんは、他にも大きな声でいろいろと口を挟んできたのですが、裁判官は「 ビニールクロスって被告は言いましたよ! 」「 そもそもあなたに発言を許可していませんから! 」ときつく言ってくれました。
「 この裁判官、他のこと( 言いがかりをつけられている「 事務所使用 」やエアコンの部品交換や清掃費など )は、わかっているのかな? 」と私はやきもきしていたのですが、確認するすべはありません。
そして口頭弁論はあっという間に終わり、裁判官から、「 直前に行われた裁判の判決を出すので、被告も原告も傍聴席に行ってください 」と言われました。すると、関係者がバタバタと入ってきて、私たちの目の前で原告と被告が判決を言い渡されていました。
なになになに???
私は興味本位で聞こうとしたのですが( 笑 )、集中力が散漫でよくわかりませんでした。その後、私たちの事件の原告と被告が別々の和解室に案内されました。
司法委員が入ってきて、「 和解を提案しているのですが、妥協ができる金額はありますか? 」と聞かれたので、原告は私と相談して、ほんの少し( 一万円ぐらい )妥協した金額を伝えました。
「 xx円だったらどうでしょう 」
すると、司法委員も「 そのぐらいだと思いました! 」とのこと。しかし、隣の部屋の被告の方はその金額では納得がいかないようで、壁の向こうからは不満そうな大きな声が聞こえていました。
20分ぐらい待ったでしょうか。司法委員が入ってきて「 和解とならなかったので判決を下します 」とのこと。ドキドキします。
そして、判決が下されました。
私はだーーーーっと外に走り出し、こうしたかった( 笑 )
訴状の金額がほぼ全額、認められました!
ここからは、大家さん達へのアドバイスです。今回の小額訴訟では、「 勝訴は当然! 」と思う反面、大家さんには少し気の毒だと思いました。
高齢の大家さんはおそらく地主として長く賃貸業をなさっている方。家賃の数カ月分の礼金や更新料を取るのが当たり前のときから大家さんだったかと思います。少しも自分が費用を取り過ぎていないと信じているようでした。
多分、今まで少額訴訟を起こすような入居者はいなかったため、敷金や過払いの家賃を「 原状回復費 」としてほとんどを取り、ほんの少し返金するということをしていたのだと思います。
もしかしたら、管理と原状回復工事をしている不動産屋さんに騙されている可能性もあります。たとえばクロスにあの程度の汚れがあれば「 汚れは落ちないですよ。全面張り替えましょう。大丈夫。費用は入居者から取りますから! 」と言われていたかもしれません。
大家さんはリフォーム費用やリフォームの内容をきちんと把握しておきましょう! それから、時代についていく努力をしましょう。
また、契約書に書いてある「 ルームクリーニングは退去時に借主が負担 」について「 負担の割合は5割ですよね? 」と、ささやかな反抗をしたのですが、通りましたよ!
最後に、判決の第1回口頭弁論調書にこのような文言がありました。
「 ……本物件の明け渡し時において、通常損耗を除き原状回復しなければならないが、原状回復工事は被告が行い、原告がその費用を負担することになっており、本物件の清掃費及び鍵交換費を除きその範囲があらかじめ明示されていないし、清掃費及び鍵交換費にしてもその範囲、金額等の明示されていない。そうすると、それらの費用を原告の原状回復費用として原則認めることはできない( 最高裁第二小法廷平成17年12月16日判決の趣旨に基づく判断 )。」( 原文のまま )
大家としては、契約書に範囲や金額などの明示をしておくのがよいですね。私も管理会社さんと相談しようかと思います。
今後、被告から異議申し立てがあるかもしれません。また、被告の希望により通常の訴訟手続きに移ることもあるそうです。これで終わりだといいな~。。。