今、子育て世代の住居の整備を支援する狙いで、1戸あたり最大200万の補助金がもらえる「東京こどもすくすく住宅認定制度」が行われている。
東京都以外でも国土交通省により「子供の安全につながる設備」を設けた賃貸住宅の新築や改修に1戸あたり最大100万円、さらにコミュニティスペースなど「居住者等による交流を促す施設の設置」に最大500万円の補助金が受け取れる「子育て支援型共同住宅推進事業」が行われている。こうした補助金をうまく活用したいものである。
そこで今回は二人の男の子の母として育児と仕事に奮闘する女性建築家が手掛けた、子育て世帯に大人気の賃貸住宅をご紹介する。
取材したのは、宅建士の資格も持つ一級建築士のとりやまあきこさんが率いる「あとりえ不動産」だ。個人住宅はもちろん教育施設、賃貸住宅などの設計に加え、宅建業者として土地探しの段階から建築家の知見を踏まえたアドバイスを行っている。
これまで手掛けた事業用物件は、「時間が経っても集客力が下がらないとオーナーさまから好評」で、現に子育て向け賃貸「KONKO」は竣工から9年経つ今も家賃の下落なく、満室が続いている。
9年経っても、家賃も集客力も下がらない!
子育て世帯を惹きつける「希少性」を持たせる
「賃貸住宅の場合、競争が激しいエリアでは築年数が経つと集客力がどうしても低下してしまいます。今回のオーナーさまは長年の賃貸住宅経営から長期的に収益率が高く、コンセプトがしっかりした賃貸を建てたいとお望みでした。
コンペ形式で複数の提案があったなかで、子育てがしやすいテラスハウス型の賃貸住宅の提案をし、選ばれました」
もともと古いアパートが建っていた土地を活用して2014年にKONKO1を、2015年にKONKO2,3を竣工。入居者として想定したのは小学校入学前の未就学児がいる家庭だ。
子供が大きくなると個室を求め、住宅購入を考える人が多いが、それまでの期間の使用を想定した。
「藤沢市はファミリー層にも人気のまちですが、子育て世帯向けのテラスハウス型賃貸が少なく、希少価値があります。1~2階を1世帯が使うことで子育て世帯に多い『騒音』の悩みを軽減しました」
入居者の心を掴んでいる1番の魅力は広い共用部だ。
「メインエントランスが遊べるような広場で、2階のリビングなどから広場の様子が分かる設計で安心感や防犯性につながります」
コミュニティスペースを確保したことで居住スペースが狭くなるようなことがないよう、避難経路をうまく確保するなど、敷地の使い方を工夫した。
子育て中の働くママを集め、ヒアリング。
リビングを中心に家事や仕事がしやすい動線に
設計にあたり、子育て世帯のリアルなニーズをつかむためにママ仲間を集め、「チームお母さん」と名付け、力を借りた。
「もともとの友人で、フリーランスでクリエイティブの仕事についている仲間と出産のタイミングが重なったこともあり、アイデアを出すところから手伝ってもらいました。
子育て世帯向け賃貸というと、デザインがポップなものが多い気がしますがスタイリッシュに暮らしたいと望む層が一定数います。そのためデザインや色使いにもこだわりました」
「チームお母さん」の意見をもとに、玄関先に買い物から帰った際に荷物をかけておけるようなフックを取り付け、2階の階段を上がった先には、子供の転落防止のためにベビーゲートを設置できるような配慮を施している。
「無駄な動線が多いと部屋が狭く感じるものです。個人住宅を多く手掛けて、効率のいい家事動線を考えることに慣れているため、これまでの経験をうまく活かせました」
昨今では賃貸住宅でも省エネ性能が見直されているが、とりやまさんは賃貸住宅の設計において、当然のこととして住宅の気密性や断熱性を重視している。
「今は子育て賃貸に対する補助金制度が充実し、金額も大きいため、ぜひうまく活用して魅力的な賃貸住宅を建ていただきたいですね。
当事務所はスタッフがみな子育て真っ只中で、当事者目線で子育て世代に向けた提案ができます。また土地探しからお手伝いできる点も強みです」
写真:スズキアサコ