2023年のリノベーション・オブ・ザ・イヤーの受賞作品のうちにいくつか、広く関心を集めた作品があった。そのうちのひとつがフレキシブルリノベーション賞を受賞した「遊び心は無限大!顧客に響く賃貸リノベ」(住環境ジャパン)である。
賃貸住宅のリノベーションであることに加え、築45年、入ったところにキッチンとダイニング、バルコニー側に個室2室というよくある間取りが大胆に変えられており、それが目を惹いた。企画に当たった株式会社TOOLBOX(以下ツールボックス)に話を聞いた。
インフラも含めてすべて刷新するリノベーション
今回、この物件で使われたのは「ASSY BIZ COMPO(アシー ビズ コンポ)」という本来は買取再販事業向けの定額制リノベーションサービス。同社では元々個人向けの定額制リノベーションサービス「ASSY(アシー)」を手掛けており、それが非常に好評だったことから4年前から事業者向けのサービスをスタートしたという。
このサービスの特徴は大きく2つ。ひとつはインフラも含めて全部新しくするという点。その分、コスト的にはいくぶん嵩み、割高に見えるが全て刷新されるので古い物件でも安心して住める、貸せる状態になる。
これについてツールボックスの石田勇介さんは「表面だけだと限界があります。リノベーションでは部屋のポテンシャルをどれだけ高められるかを考えるのですが、やはり一旦まっさらにしたほうが引き出せるものがあります」。
受賞した部屋の場合には間取り的に古い賃貸住宅によくある2DKだが、実は窓が多く、風が抜けて気持ちの良い物件。ただ、現状では部屋が仕切られて、その良さが引き出せていない。特にユニットバスが通風、採光を遮る存在になっていると思われた。
そこでキッチンとユニットバスの位置を交換。個室は2方向に窓のある1室のみとし、あとは広いリビングダイニングに。個室には壁に室内窓を設置、光と風が住戸奥まで届くようにした。
これによって住戸内が明るくなり、かつ回遊性が生まれた。玄関、水回り近くには収納部も増えた。写真ではまるで別物のように見えるほどだ。
ベースとなる素材3種類は決まっていても、それぞれ違う部屋に
もうひとつの特徴はベースとなる素材が決まっていること。具体的には壁などに使われるラワン、コンクリートの躯体、そして白い塗装の3点。
それでは自由にできないではないかと思われるかもしれないが、すべてが自由だと逆にとっ散らかった、ばらばらな印象のモノになる可能性もあると石田さんは指摘する。
「よく自転車の例を挙げて説明しています。どんなにこだわりのある人でもパーツを全部選んで組み合わせていくのは至難の業。それが理想的な自転車になるかどうか。それよりも気に行った完成車を手に入れて、サドルだけ替えたいなどとこだわりたい部分だけを変えたほうがしっくりくるものになるのではないかということです。
それにベースとなる素材は決まっていても、間取りやそれぞれの素材のバランスは住戸ごとに違うので結果的にはどの家もそれぞれオンリーワンになります」。
このサービスでは解体した時点で全体を再度考える機会があり、そこで計画を変更することもあるのだという。
「部屋を明るくするだけならコンクリートの壁を白く塗れば良いのですが、躯体を現してみたら壁そのものが良いのでそのままにしたいという方もいらっしゃれば、汚いから塗りたい、もっと荒い雰囲気が良いという方も。
また、面白いことに白く塗れば明るくなるかといえば、当該物件のように寝室を白く、構造壁をコンクリート現しの暗いままにしたほうがコントラストで逆に明るく見えることもあります。
広く見せるためにも全部が見えるようにするより、一目で全体を把握できない、奥行きのあるほうが広さを感じることもあります。手前に何かあることで奥行きを感じることもあるわけです」。
こうした感覚はプロならでは。石田さんは以前映像の仕事をされていたそうで、リノベーションを考える時には見え方も強く意識しているのだとか。特に賃貸住宅で入居者が決まっていない段階での、不特定多数を対象にしたリノベーションではどう見えるかは大きなポイントになるはずだ。
カップルに貸すより、シングルのほうが予算が潤沢なことも
気になるのは価格だが、自宅向きのアシーに比べれば安めとはいうものの、インフラからの施工になっているため、それなりの額になる。住戸面積で単価が決まることになっており、70㎡の場合で1㎡あたり12万9643円。
個人宅の場合は平均で75㎡前後とはいうものの、200㎡もありと幅が広いそうだが、買取再販を始め、ビジネス向けの場合には40~50㎡台が中心になっている。
「20㎡台のワンルームなどの場合、間取りが変えられるわけではなく、また、賃料的にも大きくアップしにくいところもあり、費用対効果としては辛いところがあります。
ところが40~50㎡の2DKなどの場合には間取りを変えることで新たなターゲットを得られる可能性があり、今までの間取りの考えを大きく変える参考にということで依頼を受けることがあります」。
例として挙げた物件は1棟を所有しているオーナーさんだそうで、間取りの可能性を知るために費用をかけたという。ここまで変わることを知り、次は何をするべきか、新しい形を模索しているのだという。
ここで面白いのは昔ながらの2DKよりも例として挙げたような1LDKのほうが人気が高くなっており、賃料も高く貸せる可能性があるという点。
toolboxの広報を勤める来生ゆきさんによると2DKでコンパクトな部屋で家賃を押さえて暮らそうというカップルや部屋数重視で2DKを選ぶ兄弟姉妹、友人同士などよりも、シングルで自宅でも仕事をしていて広さを求めているデザイナー、SE、リモートワークをすることもあるIT系、外資系企業勤務者などいった人のほうが予算が潤沢なことがあり、特に都心近くなど利便性の高い立地であれば集客の間口が広がる可能性があるという。
「これがファミリーになってくるともう一部屋個室が欲しいなどとなるので難しいのですが、仕事も意識しつつ住まいを探しているシングルには予算が高めで、かつデザイン性を求めている人も。
使い方を意識して間取りを変え、デザインを気にする人に向けて改装することでターゲットが変わり、賃料設定も変る可能性があるというわけです。もちろん、広さによっては1LDKを選ぼうというカップルも想定できます」。
その意味では手をかけて一番化けるのがこの広さの古い都心に近い立地の2DKというわけである。
ちなみにスピードもASSY BIZ COMPOの強み。パッケージングされているので設計検討期間は1カ月ほどで済み、現地調査から引き渡しまでを最長3カ月で実現するという。
必要に応じて個性的な物件が揃うことで知られる東京R不動産で集客、仲介をサポートしてもらえる点もうれしいところ。競争力のない古い2DKを複数所有しているなら、今選ばれる物件を知るためにも検討してみる手はあるかもしれない。