品川区の東急大井町線戸越公園駅近くにあった社員寮を改装、コクヨ初の集合住宅「THE CAMPUS FLATS TOGOSHI」が開業した。
地下と1階に「プロトタイプする暮らし」を掲げた8つのスタジオを配し、2階以上に住宅という配置だが、9月1日の開業を前に住居の多くが決まっていたという。人気の秘密はどこにあるのか。
チャレンジする場のある住宅が人気
再開発が進む東急大井町線戸越公園駅から歩いて3分。商店街沿いにあった社員寮を改装して誕生したコクヨ初の集合住宅「THE CAMPUS FLATS TOGOSHI」のメディア内覧会に参加した。
この物件、特徴はなんといっても1階、地下1階に用意された8つのスタジオ(有料)だ。
ヨガやダンスに利用できる吹き抜けになったStudio01:フィットネス(以下スタジオ番号は省略)に始まり、メニューの試作や料理動画の撮影に利用できるクッキング、ワークショップやイベント会場として利用できるラウンジ、ミーティングや各種カウンセリングなどに利用できる1on1、オンラインミーティングやウェビナー収録に利用できるリモート、リラクゼーション、メイクや着付け等に利用できる施術台とミラーが備え付けられたビューティー、飲食店営業許可付のキッチンのあるスナック、物販や展示などに利用できる屋外のPOPUPが設置されているのだ。
これらのスタジオは入居者以外も利用できるようになっており、入居者であれば10%オフで利用できる。決して無料で利用できるわけでない。それなのにこれらのスタジオが人気を呼び、同物件は内覧会以前、8月23日の時点で総戸数39戸のうち、74%が埋まっていたという。
向上心、副業指向が背景に
この背景には社会、特に若い世代の変化があると内覧会で全体説明を行ったコクヨ株式会社の荒川千晶さん。
「いわゆるミレニアル世代を対象にした意識調査ではスキルアップ、自己研鑽し続けたいと考える人が全体の60%おり、56%には副業指向があるという結果が出ています。
多拠点、移住など居住の流動化にも関心が高い。そうした変化に合わせて住宅も変っていかなくてはいけないのではないかと考え、「THE CAMPUS FLATS TOGOSHI」では新しい集合住宅として3つの提案をしています」。
その3つとは住宅を留まる場所から試す場所へ、街に閉じたものから開いたものへ、共有スペースをラウンジからスタジオにというもの。
憩いやコミュニケーションの場であったラウンジをスタジオにすることで試す場とし、それを入居者とそれ以外の人にも利用できるようにすることで街に開いたものにしていくというわけである。
それに共感を覚えた若い人達が申し込みをしており、彼らは各種スタジオを利用、これまでやりたかったことを試してみようと考えている。これまでチャレンジしたいと思いながらも場を借りることを躊躇していた人にとっては自分の住まいにそうした場があり、割安に借りられるのは良いきっかけになるはず。
「チャレンジをサポートするコミュニティマネージャーを配しており、実務面に加え、集客面などの相談にも乗り、各人のチャレンジを後押ししていきたいと考えています」。
ここでチャレンジをスタート。成功する人が輩出されるようになれば、ある種のインキュベーション施設ともなり得る。集合住宅に新しい可能性を切り開く施設といえそうである。
短期の契約、スタジオ利用で収益を多様化
ところで気になるのは収益。社員寮から賃貸住宅への改修に加え、地下、1階にはスタジオ(1階にはフードスタンドも)も作られている。それなりに費用が掛かったことと推察される。それらが賃料で回収できるのだろうか。
住宅は2階以上で、広さは10.06㎡~25.93㎡。単身者向けの洗面台だけを備えた部屋とシャワー、トイレもある2人入居の可能な部屋があり、広さとトイレ・シャワーの有無で全5タイプ。賃料は7万7000円~14万8500円(*賃料については今後変更の可能性がある)。一番狭い部屋だと7万7000円に水道・光熱・通信費と管理費が合わせて2万円。
各室にベッド、マットレス、収納庫(ルームAには無)、デスク、チェア、カーテン、照明、デスクライト、冷蔵庫、エアコンがあらかじめ設置されている。契約は定期借家契約で期間は3カ月から1年間までの1カ月単位。再契約は可能である。
住戸自体は一般的な単身者向けの賃貸住宅とさほど変わらない。家具・家電があらかじめ用意されている分は一般的なものよりはプラスと考えられる。共用施設としてはキッチンの付いたシェアリビング、バスルーム、シャワールーム、ランドリー、有料にはなるがプライベートサウナ(今後設置予定)、グループルームなどもある。
と考えると、賃料自体はさほど高いというわけではない。荒川氏によると相場並みくらいではないかという。
それよりもポイントになるのは最低居住期間が3カ月で、契約自体は定期借家契約で1年と短期であること。入居者が入れ替わりが頻繁にある場合、初期費用がその都度入ってくることになるのである。
また、もうひとつ、スタジオ利用料がある。最初の時点の入居希望者は参加必須の説明会を経てエントリー、その後に面談で何をしたいのかを聞かれており、明確にやりたいことのある人達が入居していると思われる。確実にスタジオを利用する人達と言っても良い。となると、スタジオも賃料同様にきちんと収益を上げてくれると思われる。
一方でコミュニティマネジャーは配するものの、それ以外では無人化を図っていると荒川氏。エントランスからスタジオへ、住居へはそれぞれスマートロックを利用しており、受付は不要。スタジオも申し込んだ人だけが利用時間にキーを解除できる。
「清掃は住宅にも必要なので、それをスタジオと一体で依頼することなど、運営全体で工夫をしてコストダウンを図れると考えています」。
つまり、スタジオは入居者にとってはやりたいことを障壁少なく始められる場であると同時に運営者にとっては賃料以外の収益を生んでくれる場というわけである。
ちなみに当初のヒアリングベースでは1on1、リモートを使いたいという人が多かったとか。
もうひとつ、話を聞いて興味深く思ったのはスナックで「お悩み相談バーをやりたい」という声。スナックを単に飲むだけの場=スナックとして使うのでなく、そこにプロが話を聞く、相談に乗るという付加価値の付け方があるのだ。そう考えると、8つのスタジオにはその数以上の利用法があるのかもしれない。場を柔軟に使うことが価値を生む時代が来ているというわけである。