アマゾンのレイオフの影響は?
スローダウンした理由はやはり…?!
アメリカ北西部、ワシントン州シアトルは、東京からの飛行機時間が約9時間と日本からもっとも近いアメリカの大都市。現在、JAL、ANA、デルタ航空の3社がデイリーで直行便を運航している。
アマゾンやマイクロソフトの本社があることでも知られるが、森や湖など自然にも恵まれ、市内ではライトレールやバスなど公共交通機関も使える住みやすい街である。それでいて、サンフランシスコなどカリフォルニアのベイエリアの沸騰価格に比べると値頃感があって、テック系人材などが移住してきてもいる。
ワシントン州最大手のウィンダミーア不動産に所属し、2022年には全米リアルター協会NAR理事も務めている北林、真・マーク氏にそんなシアトルの不動産事情を聞いた。

今年に入ってから、アマゾンも含むアメリカの巨大IT企業5社GAFA(Google・Apple・Facebook・Amazon)のレイオフ報道がメディアをにぎわせていた。
果たして本社のあるシアトルの不動産市場はその影響をどう受けたのか?と勢い込んで北林氏に尋ねると「実は影響はあまりありません。というのは、日本ではレイオフ部分がものすごく大きく報道されていますが、減った部門もありますが別のところで増やしていたりでプラスマイナスはとんとんだと感じています」と、日本の報道は危機感を煽ってる感があるよう。

「アマゾンに関していうと、シアトル市内にある本社を少しずつワシントン湖をはさんで車で約15分ほどのベルビューに移してきているので、そちらにシフトとされてきてはいますね。そもそもシアトル市は、タックスなども含めて、企業に対してビジネスフレンドリーではないので。しかし、全般的にいって、南はタコマから北はエバレットまでの、ピュージェット海峡のセントラルエリアは、それなりにテック系の拠点もありますし、安定的に伸びていきそうです」と語る。


「もちろん、アマゾンの本社キャンパス拡大によりどんどん進んでいたレイクユニオン周辺の開発はスローダウンしました。これはレイオフというより、やはりコロナの影響で、出勤する必要がないし、ダウンタウンのコンドミニアムから出て郊外に人は移りました。
今、また市内に戻りつつあるけど、週5日出勤まで戻ってる企業は少ないし、治安回復などの課題もあるのでゆっくりです。オフィス需要も同様ですが、コロナ禍をはさんでリースが切れる時期にならないと、オフィスも郊外に出るのかどうかわかりませんね」
車で20分ほどでは郊外に入らず
今のシアトルの住宅価格感
郊外というのはどのあたりなのかと聞くと「車で20分ほどのウエストシアトルは郊外とは言いません。テック系の人は、コロナでアイダホ州に移住した人もいたりで。週1だったら飛行機で1時間で通えますから、アイダホ州は一時期伸びてました。コロナでまたシアトル郊外に戻ってきたりしてますが」とのこと。
それでは年利な市中での住宅価格はだいたいどれくらいか伺うと「今のシアトルの中位価格が82万5000ドル。高級住宅地のベルビューだと140万ドル、セントラルエリアの端になるタコマ市で47万ドル、エバレットだと60万ドルというところです。家族ができると、やはり一戸建てということで周辺に移る人が多いですね。コロナで、ホームレスが増えて治安がよくない市内エリアが避けられていたこともあります」

アメリカで住宅価格が下がらない訳
リーマンショック以来まだ供給が戻ってない
今後の価格動向については「アメリカ全体について言えることですが、住宅価格はまだ下がりそうにないですね。一つの理由はリーマンショック後の新規物件供給が一時は50万棟まで落ちて、まだ持ち直していないからです。全体でまだ150万棟足らないんですよ。だいたい、年間で200万棟ぐらいないといけないんです。そこに、コロナでさらに物流が滞って資材は暴騰、人件費も高止まっているので、新築物件の住宅価格は下げられないんです」

「中古も含めての流通量はあまり変わらず、21年などはワシントン州では過去最高の売買件数でした。これまで金利が低かったのはありますが、過去1には8.9%まで上がったこともあるので、金利1%の上下は気にしていないと思います。
気にしているのは毎月の返済額ですね。ただ、新築供給が足りてないので、中古は高く売れても、買う物件がないという状況です」
シリコンバレーの後を追うシアトル
郊外が狙い目
「投資では、何を目指すかですね。まずは減価償却、特に法人は短期間で償却を図る加速度償却ができるんで。または売却益を狙うのか、それとも賃貸収入を狙うのか。この3つのどれかを選択すればよいのですが、3つ共などとよくばるととなかなか買えません。中古市場は、出し価どおりで1週間で売れるというほど好調ですから。
また日本人の場合、自分たちが知っている名前に縛られがち。トヨタが移転したダラスなどもそう。シアトルで言えば、イチローが活躍していた頃が、日本からシアトルへの投資が最高だったと思います。シアトルもアマゾンやマイクロソフトで知られてはいますが。そういう観点からいうと、郊外が狙い目。

IT系の人にはシアトルは自然が身近だし、自然災害もないし、基本的に住みやすくて注目は高いのです。そして、空も海もアジアからいちばん近い物流のハブです。この地理的な条件のよさは変わりませんし、最初に言ったようにマイクロソフトやアマゾンなどの企業が支えている状況も変わらないでしょう。
カスケード山脈を越えたサンケディアあたりの、そもそもは郊外の避暑地だったところに、こうしたIT系の人が移ってきて住宅地になってます。こうした郊外まで注目が広がっているので、投資物件も幅広く探せばカリフォルニアのベイエリアに比べると買いやすいし安定していると思います」
北林、真・マーク
ワシントン州最大手のウィンダミーア不動産(Windermere Real Estate)に所属、住宅仲介を中心に22年間(トータル物件仲介数2000件以上)活動をしている。中古仲介、新築マーケティング、差押物件、投資物件などシアトル近郊の住宅不動産マーケットに精通しており、30年間の国際マーケティング、国際取引の経験、アメリカ、日本、アジアとのネットワークを生かし国際不動産投資などのアドバイザーとしても活躍。長年全米アジア不動産協会(AREAA)顧問を務めている。2013年ワシントン州リアルター協会会長を経て、2019年全米リアルター協会副会長(12地区担当)に就任。2016年に全米リアルター協会(NAR)日本・モンゴル大使、2021年からNARアジア太平洋グローバルコーディネーター、2022年にNAR理事を歴任している。
取材協力/Visit Seattle https://visitseattle.org/
執筆:
(おのあむすでんみちこ)