日銀、長期金利の1.0%超への上昇容認を決定
市場金利の上昇圧力受け対応 債券市場の弊害防ぐ
日本銀行による金融政策の修正が進んでいる。10月31日には、長期金利が事実上1.0%超えることを認める方針を決定。3カ月前の7月には、上限を1%へ引き上げることを決めたばかりだ。
市場で上がり始めているのは、24年1月、さらに短期金利も今のマイナス金利が解除されるのではないかという見方。そうなれば金融機関の融資金利が幅広く上がることが見込まれ、不動産投資家は戦略の見直しが必要になる。
「内外の経済や金融市場をめぐる不確実性がきわめて高い中、今後の情勢変化に応じ円滑な長期金利形成が行われるよう、政策の柔軟性を高めておくことが適当であると判断した」
政策修正を決めた10月31日の金融政策決定会合後の記者会見で、日銀の植田和男総裁は、こう語った。
これまで日銀は長期金利について、許容する変動幅を「プラスマイナス0.5%」とし、念のための「上限」を1.0%として抑え込む政策運営をしてきた。
今回は「プラスマイナス0.5%」の変動幅を撤廃し、「上限」を「めど」に変更。事実上、長期金利が1.0%を超えることを容認する形となった。
日銀が今回の修正を決めた背景には、まず、市場で想定を上回って長期金利が上昇していたことがある。決定会合直前には0.95%を超え、上限の1.0%に迫る勢いだった。米国の経済が強いことを背景に、米国の長期金利が上昇していることに引きずられるなどした。
こうした日本の長期金利の上昇圧力を無理に抑え込もうとすれば、日銀は国債を大量に市場から買い込まなければならない。
しかし、これまでも日銀が国債を大量購入する大規模な金融緩和を続けてきたため、正常な債券取引が市場で成り立たず、取引のプレーヤーである金融機関が収益を上げられないという「副作用」「弊害」が出ている。これ以上、日銀が無理に国債を買い込む状況が続けば、債券取引市場の弊害はますます大きくなる。日銀はこうした事態を避けようとしたのだと考えられる。
短期金利、来年1月にも「マイナス0.1%」解除の観測
長期金利は固定型、短期金利が変動型の融資金利と連動
もう一つは、日米の金利差拡大による円安の進行を食い止めることだ。足元では、円を売り、金利が高く資産運用に有利なドルを買う動きが止まらず、1ドル=150円台の円安ドル高水準が続いている。
円安が続けば輸入されるモノの値段が高止まりし、国内の物価が上昇して国民の生活や消費意欲を悪化させる。こうしたことを避けるためにも、日銀は一定以上の金利上昇を認めたのだと思われる。
それにしても、前述した通り、実に前回7カ月の会合からわずか3カ月しか経っていない中での金融政策修正だ。前回は、それまで「0.5%程度」としていた長期金利の上限を「1.0%」に引き上げていた。
相次ぎ金融政策の修正が行われていることを受け、市場で意識され始めたのは、日銀は、短期金利も修正する方向で準備し始めたのではないかという観測だ。植田総裁が、物価上昇も勘案した実質金利の低さをよく指摘するようになっていることも、その観測を強めている。
現在の短期金利はマイナス0.1%。もし修正されるなら、これを、「0%」のゼロ金利に戻すなどの選択肢が考えられる。市場からは「早ければ2024年1月にもマイナス金利を終わらせるのではないか」という見方も上がっている。
では、融資の金利にはどんな影響が及ぶのだろうか。
長期金利は、固定型の融資金利に連動する。一方、短期金利は、変動型の融資金利に大きくかかわる。つまり、日銀が長期も短期も金利を上げ始めれば、融資金利が幅広く上がっていく可能性があるのだ。
1億円を30年融資、金利3%→5%で月返済額42万円→53万円
金利6%なら月約60万円に 融資戦略転換も考慮を
ここでその影響を、改めて試算してみたい。単純計算なので、あくまで金利上昇の影響を実感するための参考としていただきたい。
かりに1億円の資金を30年間、3%の固定金利で元利均等方式によって借りたとしたら、月々の返済額は42万1604円、返済総額は約1億5177万円だ。
この金利が2%上昇し5%となった場合、月々の返済額は53万6821円で約11万円プラス、返済総額は約1億9325億円で4000万円以上のプラスだ。
3%上昇で6%になった場合には、月々の返済額は59万9550円。返済総額は約2億1583万円で、もともと借りたお金の倍以上となる。
不動産投資家としては、今後、金利が上昇しうることを念頭に置きながら戦略を練っていくほうがいいだろう。
変動金利で借りている人は、途中で月々の返済額が上がり、負担が増すことになる。
すでに固定金利で借りている人は、固定期間中は返済金利が上がり返済額が増えることはないが、新たに固定金利で融資を受ける場合は、高い金利水準でしか借りられないことを忘れてはいけない。
こうしたことを踏まえ、自分の資力なども慎重に見極めながら、投資戦略を練っていくことが肝要だ。
取材・文:
(おだぎりたかし)