4月27日に、相続した土地を国に返還できる「相続土地国庫帰属制度」が始まり、3ケ月ほど経つ。各地の法務局で相談を受け付け始めた2月下旬から5月中旬までに、6500件を超える問い合わせが寄せられたとの報道があるほど反響は大きい。
報道によると、申請は約280件あり、そのうち4割が田畑、約3割が宅地だという。これらの申請が承認されると国が利活用に乗り出すことになる。
この制度を利用するには土地を更地にする必要があり、建物が建っている場合は解体する必要がある。そこで今回、63の自治体と連携し、土地売却査定費と解体費をシミュレーションできる『すまいの終活navi』を運営し、空き家や空き地の所有者の動向に詳しい株式会社クラッソーネ 代表取締役CEOの 川口 哲平氏に話を聞いた。
これまでになかった土地の新たな『出口』。
人口減少傾向にあるエリアで、重宝される
これまで建築家ニュースでは相続土地国庫帰属制度についてコンサルタントや企業などに、どのような反響があるか取材をしてきたが、いずれも「この制度が適用されるのは、一部分で限定的」とみられてきた。川口氏は今回の報道を受けてどう感じられたのか?
「全国の空き家の総数は約850万戸(総務省最新調査より)に対して、帰属制度についての問い合わせが6500件というと決して多くはなく、『限定的』であることは確かです。
ただし相談をした6500人にとっては、所有する土地の新たな『出口』ができたわけで、その点でこの制度は大きな意義があります」
実際に川口氏の会社で運営するサービスについても、空き家所有者から問い合わせが増え、解体を検討する人も、帰属制度を利用したいと考える人も増えているようだ。
またクラッソーネでは空き家所有者1051 名を対象に調査を実施している。所有する空き家への今後の対応として約半数(47.6%)が「活用したい」と回答し、2 割強(23.9%)が「処分(解体)したい」、3 割弱(28.5%)が「分からない」と回答している。
「最初から相続した家を解体したい人は少なく、活用したいと考えるものの、空き家の場所や状態によっては、売ることも貸すことも難しい場合があります。
空き家には『人口が維持できているエリア』と『人口が減少しているエリア』、さらに『状態のいい建物』と『状態が悪い建物』の4つに大きくわけることができます。
人気エリアで状態が良ければ賃貸や売却もできるのですが、人気のないエリアや状態が悪い状況ではそれができず、悩みが顕在化しているのが実情です」
人口が減少しているエリアでは、かつてはニュータウンとして発展したり、産業が発展したりして賑わっていたが、産業構造の変化とともに人口が減っており、こうしたエリアで空き家の悩みが増えている。
「人口減少エリアや立地条件が悪い場合は、解体後の土地を手放したくても売却が難しいことが多く、こうした場合に帰属制度が1つの救済策となりえます」
自治体によって人口が維持できているエリアと人口が減少しているエリアでは対応が異なることも覚えておきたい。
「人口が維持できているエリアでは空き家を放置すれば町の魅力が下がるため早めに『予防策』を打っていこうと考えます。一方、人口減少エリアでは管理が行き届いていない空き家が増え、危険な空き家にどう対応すべきか、緊急対応策が求められています」
人口が増えて街が過密になる時期は土地が細かく区切られ、区画整理されるが、人が減っていく時期には、ポツポツと虫に食われたかのように、空き地が増えていく。
「過去に見聞きした有効な土地活用の方法として、所有者不明の空き家の隣地の人が、市と交渉して、その空き家の解体費を負担する代わりに土地がほしいとのことで、実際に解体後、駐車場として使っている例があります。このようにその町に慣れ親しんだ隣地の人や近所の人が空き家や空き地を活用することは、とてもいい活用方法だと思います」
安く放出されている空き家はたくさんある。
投資家にとっては掘り出し物を見つけるチャンスも
こうしたなかでクラッソーネでは自治体と連携して、土地売却査定価格と建物解体費用の概算を同時に調べることができる『すまいの終活navi』を運営し、好評をえている。
「ご実家など空き家を処分する際、いきなり不動産会社に行くのは抵抗がある方もいらっしゃるでしょう。解体費や売却費の相場感をつかんでいただくために気軽に利用してもらいたい」
最後に健美家読者に向けて。
不動産投資家のなかには、古くても安く入手できる「築古の戸建て」を手に入れて自力でリフォームなどして入居者を見つけている人もいるが、空き家活用の可能性はまだまだあるだろうか?
「投資家から見れば、まだまだ掘りだし物件あるでしょう。うまくやれば利回りが高く出せるような戸建てが埋もれています。再生させるスキルがある方にはぜひ積極的に空き家を活用していただきたい」
どうしても活用のあてがないような場合は、解体して駐車場などに利用するなど、新たな活用方法を検討することも重要だ。
「解体というと『ただ壊すなんてもったいない』と感じるかもしれませんが、解体の現場では9割以上の資源をリサイクルしており、使われなくなった建物から再度資源を取り出しているとみなすことができます。資産としての空き家の活用と、資源としての空き家のリサイクルから、『街』の循環再生文化を育んでいけたらと考えています」