前回のコラムで少し触れたが、私は家賃保証会社を使っていない。
参照:家賃保証会社に入る前に確認したいこと。実際に使っている大家仲間たちに評判を聞いてみた
仲介会社がご入居時に1年だけ保証を付けるが、その後の更新はしない。所有物件が23戸と戸数も少ないこともあり、最近の滞納は1戸もない。これはご入居時に保証会社がしっかり審査してくれるからだろう。もちろん、運が良かったというのもあるあだろう。
また、ファミリータイプの分譲マンションは退去が少なく皆さん長期ご入居だ。トラブルは「エアコン故障」「給湯器故障」など、設備関係だけだ。
そういう意味で私は「楽ちん大家」だ。
■長期入居者の滞納の理由
家賃滞納はかつて3回ほどあった。いずれも同一人物。間もなく高齢者になる女性だ。物件は1kのアパートで、家賃は32,500円。物件は15年前に築10年で購入したもので、彼女はその時からお住まいだった。
最初の滞納は13年くらい前だった。管理会社が催促するが支払わず、あっという間に半年分の滞納になった。そこで管理会社の担当者と一緒に女性を訪問した。
管理会社(以下、管):家賃払って貰わないと困るんですが。
滞納者(以下、滞):アルバイト先の出勤可能日が減っているんです。だから払えません。
管:それはあなたの都合で、家賃をちゃんと払わなければ出て行ってもらいますよ。
滞:働きたくても仕事がなく、お金がなくて支払えないんです。
管:じゃあ、違うところで働いたらどうですか。
滞:私はアイスクリームを作る今のところで働き続けたいんです。
私:それはあなたの都合でしょ。私は家賃いただけないと困るんです。
滞:来月は仕事に行ける日が増えるので、来月は払えます。
私:滞納分もお支払いいただけるんですか?
滞:一度には無理です。分割で払わせてください。
管:これだけ滞納すると追い出すこともできるんですよ。
滞:必ず払うので、それまで待ってもらえませんか。
私:必ず払ってくれるんですね。
滞:月に1万円ずつ上乗せして必ず払います。
私:では、必ず払ってくださいね。
その後、彼女はちゃんと1万円ずつ上乗せして、滞納家賃を完済してくれた。
■2回目の滞納
ところが、完済して2年足らずで再び滞納。2か月間、全く入金がされない。今度は私一人で督促に行った。
私:また家賃をお支払いいただけないんですが。3か月滞納だと裁判して出て行ってもらいますよ。
滞:払いたいけど、また仕事が減って・・・
私:仕事が減ったなら、ほかの仕事もやったらいいじゃないですか。
滞:私には無理なんです。でも、もう少ししたら仕事が増えるのでそれまで待ってください。
私:それは無理です。どんどんたまる一方ですよ。
滞:約束しますから何とかお願いします
私:じゃあ、とりあえず払える額だけでも払ってください。但し、事前に今月はいくら払いますと連絡ください。
滞:ありがとうございます。必ず払います。
その後3か月くらい、家賃に足りない金額の振り込みが続いた。しかし、お詫びと振り込む金額を電話してくるようになった。
その後、滞納分を分割して払うようになり、やがて滞納家賃は完済された。
■3回目の滞納の後で生活保護受給へ
そして、コロナ。3回目の滞納が始まったが、振込額の事前電話はちゃんとしてきた。やがて、また支払いがゼロになった。
理由を聞くと、足が悪くなって働けなくなったという。
私:それは大変ですね。体が悪くて働けないなら生活保護を受けたらいかがですか?
滞:社会にご迷惑かけたくないんです。
私:それは立派ですね。だけど私に迷惑かけるのは構わないんですか?私としては受け入れることができないので、出て行ってもらいます。
滞:この年だと、部屋探しは無理です。
私:しかも滞納の履歴があるので、部屋探しは難しいかもしれませんね。足が悪くて役所に行けないなら、私の車でお連れしますよ。
滞:考えさせてください。
そして翌月から家賃に1万円ずつ上乗せして、滞納分の返済が始まった。
自分で生活保護を受けることにしたという。彼女としては苦渋の選択だったと思うが、仕方ない。
■相手に支払う気があるのなら、待つのも愛
その翌年の正月。アパートの前でばったり彼女と会った。
私を見るなり彼女の動きが止まる。目からは大粒の涙が溢れてくる。
「大家さんのおかげでホームレスにならずに済みました。正月を部屋で迎えることができました」と。抱きつかれそうな感じで迫ってきたが、そこは何とかかわさせていただいた。
「大家さんはホントに恩人です。一生ここに住ませてください」
ということで長期入居確定。生活保護で安定収入が入るので、もう滞納もないだろう。
もし、裁判して追い出していたらどうなったか。
滞納家賃の回収は無理だろう。さらに裁判の費用、リフォームの費用、募集の費用が出ていく。強制執行も必要だったかもしれない。
もちろんその間の家賃も入らない。多額の損失が出て、彼女も不幸になる。
後味の悪い結果しか想像がつかない。
また、新しい方がご入居いただいてもすぐに出るかもしれない。
それが、1円も払わずに滞納全額回収、さらに長期ご入居確定になった。
それを考えると、いい判断だったと思う。
滞納→督促→3か月滞納→明け渡し訴訟→強制執行。
そういう流れもいいだろう。
しかし、支払う気があるのなら待つ。そういう愛も大切だ。
情けは人の為ならず。それは、いつか自分に回ってくるかもしれない。
入居者さんの生活があっての大家。法で解決するより、話し合って解決できればそれに越したことはない。