東京都台東区の最寄り駅から徒歩15分、人気エリアとはいいがたい場所で1LDKが家賃15万でも満室の賃貸住宅がある。手掛けているのはSTUDIO AK 一級建築士事務所の代表で、日本最大級の建築家ネットワーク アーキテクツ・スタジオ・ジャパン株式会社(ASJ)に登録する吉田 明弘氏である。
狭小地を有効活用した賃貸住宅を多く手掛けてきた。狭い場所でいかにして収益性を上げるのか、詳しく話を聞いた。
限られた敷地と予算で、いかに収益性を上げるかが、
建築家の腕の見せ所であり、賃貸住宅の命題
上の写真の台東区清川の賃貸住宅は、建物の間口が6.4mしかない。1階は店舗で、2~5階に1LDKが8戸ある。相場よりも高い家賃設定ながら、満室続きの人気である。
「目の前が公園という恵まれた立地から、各戸の窓から公園が望めるようにしたいと考えました。そのため開口部は道路側(公園側)に最大限に確保し、リビングは天井高いっぱいの窓に面し、採光性に優れ、目の前の緑豊かな公園の借景を望むことができる設計です」
狭小地を活かすためには、レンタブル比(総面積に対して収益部分の占める割合のこと)を上げ、敷地全てを使い尽くすことが重要になる。だからといってなんでも詰め込めばいいわけでなく、いかに美しくまとめるか、デザイン性も重要になる。
たとえばこの物件の場合、窓ガラスのデザインが1戸1戸異なり、内装も1戸として同じ部屋がない。アクセントクロスの色を各戸変え、ユニットバスのアクセントパネルも部屋の内装に合わせた色にしている。入居者は自分で部屋を好みの部屋を選んだという満足感を得られる。
「大きなことをやろうとするとお金がかかるので、利回りを追いながらも、お金をかけずに、入居者の気持ちをくすぐるアイデアを採り入れるようにしています」
デザインのなかでも、賃貸住宅でこだわるべきは、エントランスや共用部だという。
「エントランスを分譲マンションに匹敵するような上質なデザインにすることで、内見に来た人に、『ここに住みたい』と印象付けることができます」
また、共用部に費用をかけるという事は各住戸の仕様をアップするより費用対効果が高い。
地価の高い人気エリアでも、狭小地を有効活用!
住宅しか建てらないような狭小地で賃貸住宅を建てる
次にご紹介するのは、品川区小山で、駅徒歩5分程と利便性に優れた人気エリアである。
「65.5㎡の敷地で、住宅しか建てられないような狭さですが、住宅を建てるには土地の価格が高い。そういった場所に目をつける投資家さんもいます。各住戸20㎡を超えるという目標のもとプロジェクトはスタートしました」
無駄なスペースは一切許されず、共用部には階段室はあるものの、廊下を一切設けない設計に。そうして地下1階+地上5階建て、全11戸と収益性も十分に確保した。
狭小地に、5階建てのテナントビルで収益性を上げた例も。
ピクトグラムを活用し、低コストで洗練された印象に
東京・白金台で、間口4mしかない場所で、5階建てのテナントビルにすることで収益性を上げた例もある。
「実はこの物件、驚くほどリーズナブルな建築費で建てています。5階建てでエレベーターはないものの、庭園の緑を楽しみながら、階段を上がることができるようにしました。階段室には階数を示すピクトグラム(情報や注意を示すために表示される視覚記号の一つ)をデザイン的に配置しています。ピクトグラムはお金をかけずに、デザイン性を上げることができるおすすめのテクニックとしておすすめの手法です」
このテナントビルは強気な家賃設定ながら、ヘアサロンからフレンチレストラン、パーソナルトレーニングジム、デザイン事務所など多様な業種の方で入居が決まり、建物の工場中から入居が決まっていくほど注目を集めた。
このように狭小地をフル活用して、収益性を上げるテクニックは、ぜひとも参考にしたいものである。
●取材協力:アーキテクツ・スタジオ・ジャパン株式会社(ASJ)
約3000人が登録する日本最大級の建築家ネットワーク。全国各地のスタジオや定期的に開催するイベントで、さまざまな建築家と出逢い、話し合える場所を提供している。
健美家編集部(協力:高橋洋子)