家賃保証会社が、業界のスタンダードになって久しい。最近では賃貸借契約における連帯保証人の存在を忘れてしまいがちだが、それでも家賃保証会社より守備範囲は広い。
一般的に家賃保証会社の場合、家賃の滞納と場合によっては原状回復等の費用を負担する。ところが連帯保証人というと、それ以外も含め、とにかく退去まで全ての責任を負う。また金銭以外のトラブル時にでも、本人を諫めてくれる存在でもあるので頼もしい。
一方でまったく頼れない連帯保証人がいることも、残念ながら否定できない。
賃借人が滞納したとしても「オレ金ないし」と平気で言う。このような場合、家主側は、結局無担保で賃借人に自分の財産である不動産を渡している状態に他ならない。
つまり連帯保証人を選択する場合には、それ相応の協力してくれる存在でなければ意味がなく、その見極めも難しく、結果、安定したサービスを提供してくれる家賃保証会社がスタンダードになったのであろう。
20代の息子が全額支払い
62歳の木村氏(仮称)は、2年前10ヶ月分以上滞納していた。近所に住む家主が督促するのだが、「払うからちょっと待って」と言われ、長年住み続けてくれていることもあり、それ以上強く言えなかったのだ。
もともとこの部屋は、妻と子どもと住んでいた2K。いつしか離婚し、妻は姿を消し、子どもも巣立って行った。つまり木村氏がひとりでこの部屋に住むのは贅沢な状況で、まして滞納しているなら退去した方が毎月の負担額も確実に低くなるので生活も楽になるに違いない。
私が内容証明を発送すると、木村氏はさっそく泣きついてきた。
「今は仕事も低迷しているが(自営)、数字が上がるメドは立っている」と退去を拒む。年齢からしてこの先、収入が減ることはあっても増える可能性は少ない。ましてひとりで住むには、広い部屋だ。
生活保護受給相当の家賃帯に引っ越せば、万が一の時にも、生活保護を受給することができる。今現在滞納ということなら、この段階で安い物件に転居するのが年齢的にも良いと判断していた。だから必死に説得したが、木村氏は首を縦に振らなかった。
当時の連帯保証人は20代の息子。既に家庭を持っていた。その環境で親の滞納分を負担させるのは忍びなく、何度も説得したが、結果として息子が80万以上の滞納分を補填して手続は終わった。
スッキリしない思いを抱えていたところ、2年近くなった今、また滞納が始まった。
何度も用立てしてきたんだ
息子は滞納額全額を支払った後、連帯保証人は木村氏の兄に変更された。80万円ちょっとが、手切れ金ということだったのだろうか。
滞納が2回目ということもあり、書類を受け取った木村氏は抵抗しなかった。
「次の所探すわ。引っ越しするわ」
前回の執拗な執着から比べると、達観したのか諦めたのか、あっさりとしている。
「今度こそは連帯保証人に迷惑かけないように、転居先探してくださいね。勝手にいなくなっても契約は解除にならないから、退去する際には必ず連絡ください」
私はそう伝え、木村氏からの転居先が決まったという連絡を待っていた。
ところが連絡があったのは、木村氏ではなく家主から。
「先週から帰ってないみたい。どっか行ってしまったようだ」
借りていた駐車場から車は消え、1階の木村氏の部屋の窓は少し開いている。中で猫がお腹を空かせて鳴いていた。
どうやら木村氏は、飼い猫を置いたまま夜逃げしたようだった。電話しても電源は切ったまま。連絡はつかない。窓が少し開いていたのは、猫が勝手に外に出られるようにか……。
連帯保証人に連絡してみると、諦めたような口調で愚痴が飛び出した。
「今まで何度もお金渡してきたんだ。さすがにもう払えないと思って断ったんだよ。ほんと、とんでもない奴だなあ」
連帯保証人なので、支払義務があるということは納得している。それよりも少しでも早く解決できないか、滞納額と原状回復費用は全部でいくらくらいになるのか、猫はどうなるのか、矢継ぎ早に質問が飛び交った。
結果、連帯保証人が全て負担する形で終結したが、協力的でない場合には、これらの費用は全額家主負担になってしまう。
連帯保証人が一度全額支払うと、家主はどうしても安心してしまうと同時に、どこまでも連帯保証人は支払続けてくれると錯覚してしまうようだ。
連帯保証人が全額補填するのは、二重丸ではない。花丸でもない。むしろ要注意なのだ。本人は味をしめ、最後は彼らが何とかしてくれるだろうとしか思わず、また滞納を繰り返す。
今現在、古い案件で連帯保証人の案件は、その連帯保証人が今も存命かどうか、高齢ならば家賃保証会社に変更してもらうか、きちんと協力してくれそうなのか確認しておいた方がいい。
何度も連帯保証人が補填するような場合、賃借人の滞納癖は治らない。早めに手を打っておくことを強くお勧めする。
執筆:
(おおたがきあやこ)