東京都足立区。以前は沼地だったことが分かる「皿沼」という地名で、目の前はゴミ収集場。いいとはいえない立地に、昨年完成したガレージ付きアパートが話題を集めている。
相場の1.56倍の家賃でも、施工中に満室に。漆黒の鉄骨でできたガレージの写真が、写真共有サイト「Instagram」や「Facebook」で、1万を超える「いいね!」が付いている。そんな話題のガレージ付きアパートを手掛ける、株式会社LDKの玉田敦士社長にガレージ付きアパートを作る際のポイントを聞いた。

●写真映えするような魅力的なガレージが重要
玉田氏は、車好きな人に向けた自動車雑誌『カーマガジン』やライフスタイル雑誌『Daytona(デイトナ)』と、20年近く、「クルマ共生住宅」を開発してきた。それが通称、デイトナハウス×LDKである。
一般住宅だけではなく、ガレージ付きのアパートのニーズがあると確信し、3年ほど前からガレージ付きアパートも手掛けるように。それが予想以上の反響となった。車やバイク愛好者の心をわしづかみにしたのが黒の鉄骨が?き出しになった独特の空間だ。
「ガレージ付きといっても、車やバイクが置けるだけでは魅力に欠けます。車やバイクが映える空間の演出が重要。そこで辿り着いたのが、美しくて丈夫な鉄骨パネルの構造です。20年以上に渡り、開発・生産してきた自信作で、ベトナムで生産しており、コストを抑えながらデザイン性や耐久性に優れています」
そうして魅力的なガレージ付きアパートができれば、駅から距離のある立地でも、難がある立地でも強気に勝負できる。
「入居者は車やバイクを所有しており、電車を使わないため、駅からの距離は関係ありません。むしろ、駅から遠くても成立します」
事務所兼自宅のSOHOとして利用するケースも多い。車で移動する職人さんや設備屋さんにとって1階に車が置けるのは都合がいいようだ。
また、女性のニーズもある。2戸借りて、ガレージ部分で陶芸の仕事をしているケースもある。

●喜ばれる設備は、カスタマイズできる棚
ガレージ付きアパートを作るうえで、設備面では、キッチンは狭くても、必要な水回りが揃っていれば問題ない。やはり、入居の判断材料になるのがガレージ部分である。ここをいかに魅力的に見せるかが、入居の決め手になる。ここでぜひ取り入れたいのが、可動式の棚である。
入居者は、ガレージにソファや趣味のものを置いて、お酒を飲みながら、愛車やバイクを愛でながら、ゆったりとくつろぐことが多い。また、入居者は手先が器用だったり、DIYが得意であったりすることから、カスタマイズできるような可動式の棚などがあると喜ばれるのだ。

●相場家賃8万円のところ、12万5000円の家賃で満室
今回見学した物件は、メゾネットの1LDKが6戸入る設計で、1階がガレージ、2階は吹き抜けで、LDKと浴室やトイレ、ロフトがある。気になる建築費は、地盤や外構部分など現場の環境によって異なるが、坪50〜70万円ほど。
鉄骨だからといって、飛びぬけて高いわけではない。今回の物件の建築費は約8000万円。自己資金はほとんど使わず、表面利回りは12.5%。
「近くの不動産屋4社でヒアリングしたところ、足立区の土地柄もあり、新築の1LDKでも家賃はせいぜい8万円。ガレージ付きにして施工中から雑誌の連載やSNSでも取り上げることで、12万5000円と相場の1.56倍の家賃設定でも完成前に満室に」

●集客のコツは、ダイレクトマーケティング
入居者を集めるために、SNSを活用した。
「雑誌の連載で、竣工から取り上げ、同時並行して、SNSにも画像を投稿しました。魅力的なガレージの画像を見ている人は多いのでしょう。1万を超える『いいね!』がつきました」
「ガレージ」の写真だけで、多くの関心を集め、集客することが可能なのだ。賃貸市場も、マスマーケティングから、ダイレクトマーケティングの時代に突入したと、玉田氏は見ている。
「SNSによって興味のある人にダイレクトに伝えることができます。大家さんはもっとご自分の物件について発信すべき。たとえば、北海道の苫小牧でガレージ付きアパートを建てた人がいます。この方はバイクが趣味で、物件名で、バイクのレースに出場しています。満室にもかかわらず、バイク愛好者に、物件がリーチするように、心がけているのです」
●SNSは最良のツール。ありえない反響がある!
SNSでの予想以上の反響によって、全国各地から「こっちにも建てて」「もっと早くガレージ付きアパートを建てて」といった要望が届いている。
「全国の大家さんや投資家さんに、ガレージ付アパートをもっと建ててと伝えたい。そのため全国賃貸住宅新聞社が主催するイベントに参加しています。9月は大阪に行きます。東京や名古屋で大家さんと直接話をして、家賃の値下がりに悩んでいる人が多いことを知りました。これからはターゲットを狭くして、刺さる住まいを提供すること。そして刺さる情報を、SNSで発信すること。SNSは最強のツールです。これまでの常識ではありえない反響があります」
車やバイクの置き場所がないから、欲しいのに買うのをやめている人もいる。そんな人に、ガレージ付きアパートは、新しい暮らしを提供することができる。
「ガレージに限らず、大事なのはテーマ。たとえば、ペットや陶芸など、大家さん自身の好きなものや興味のあるもので、テーマを決めて、住まいを提供していく。そうすれば入居者との関係性も深まり、ますます人生が楽しくなるはず」
趣味のものがいっぱい詰まったガレージを見るのも面白かったが、玉田氏の話を聞いていると、趣味や生きがいのある暮らしの楽しさが伝わり、ワクワクしてきた。
健美家編集部(協力:高橋洋子)