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神戸で進む面的空き家再生。使いにくい大型物件の新活用法、工房、アトリエ、アーティスト・イン・レジデンス

賃貸経営/技あり・話題の賃貸物件 ニュース

2022/11/14 配信

高低差の多い街では坂の上に空き家が生まれやすい。港町神戸市もそんな街のひとつ。平地に立地する中心市街地から電車で2駅、3駅離れただけで、あるいは駅から10数分離れただけで100万円で空き家が買えるような地域が出て来る。

最近ではそれ以外の地域でも空き家が目立ち始めた神戸で、面として空き家の再生に取り組んでいる人がいる。

坂の上には空き家が多い

訊ねたのは神戸市兵庫区梅元町。最寄り駅は地下鉄西神・山手線大倉山駅。駅の近くには市立中央図書館などがある大倉山公園、神戸大附属病院などがある、神戸の繁華街三宮から2駅目という決して不便ではない場所である。

バイソン手前で振り返ってみると坂の下に中心部が見える
バイソン手前で振り返ってみると坂の下に中心部が見える

だが、駅を降りて宇治川沿いに歩き始めると坂である。特に市内を東西に走る幹線道路を超え、梅元町に入る辺りからは坂がより厳しく、細くなり、自動車はおろか、場所によっては階段もあってバイクも入りにくい場所になってくる。

西村組の西村周治氏が現在手掛けている梅村(梅元町に作っている村だから梅村!)はそんな坂の先の、どん詰まりの道の両側にある。その道の両側にも高低差があり、左側は道路から階段を上り、右側は降りる。斜面にあるのだ。

「長田区を始めとした市の南部では斜面はもちろん、斜面地以外の商店街などでも空き家が目立ちます。兵庫区、須磨区、垂水区の山際などそれ以外にも空洞化している地域は多く、これまでに住宅地を広げ過ぎてきたのだと思います。

しかも、山際には住居系の、規制が厳しい用途地域が多く、住宅以外には使えない場所も多々。かろうじてアトリエ、飲食などの兼用住宅だけは可能なのですが、実際にはそうした物件は少ないのが現状です」と西村氏。

坂に加えて用途制限が厳しく、大型物件も

バイソンエリアを上空から見たところ。写真中央の路地を挟んで中央部、真っ白な屋根がバイソンギャラリーでその左右(右側はひとつの敷地内に小屋も含めて3軒、手前の薄い水色の3軒+その隣のグレーの屋根がバイソン内
バイソンエリアを上空から見たところ。写真中央の路地を挟んで中央部、真っ白な屋根がバイソンギャラリーでその左右(右側はひとつの敷地内に小屋も含めて3軒)、手前の薄い水色の3軒+その隣のグレーの屋根がバイソン

西村氏が手掛けるのはその道に面したアパート1軒を含めた全8軒。最初に購入した角から2軒目の再生をしている過程で通り沿いに空き家を所有する人達から順次声を掛けられ、最終的には現在居住している一番奥の家を除き、一画の空き家を全部所有することになった。

バイソン内の道幅は狭く、しかもくねっている。右側は改修済み、アトリエになっている建物
バイソン内の道幅は狭く、しかもくねっている。右側は改修済み、アトリエになっている建物

細い坂道が続くこのエリアでは解体も改修も難しく、まして新築をしても売れる見込みはない。誰か買ってくれるなら処分したいというわけである。

最も大きな、敷地内に母屋、離れと小屋がある物件の母屋の前から離れを見たところ。広さがお分かりいただけよう
最も大きな、敷地内に母屋、離れと小屋がある物件の母屋の前から離れを見たところ。広さがお分かりいただけよう

さらに難しいのは買い取った住宅の多くが広いお屋敷であること。もっとも大きな家に至っては入ったところに母屋があり、庭を挟んで茶室があるという具合なのだ。

現在では坂が嫌われて新たに移り住んで来る人もほとんどいない地域だが、以前は眺望が良い高台で住環境が良いと市会議員、弁護士や医者など富裕層が住んでいた地域なのである。

こちらはその家の離れ。立派な造りで、しかも神戸市中心部を眼下に眺められる
こちらはその家の離れ。立派な造りで、しかも神戸市中心部を眼下に眺められる

大きな家で難しいのは手を入れるとなると莫大な費用がかかるという点。かかった分が回収できれば良いが空き家が多いエリアでは家が広いからといって高い家賃を設定できるわけでもない。家族数の少ない現代では部屋数が極端に多いのは逆に不利なのだ。

そこでこれまでの活用では宿泊やシェアハウスのような、1軒を複数人で利用するやり方が一般的だった。そうすれば部屋数が多いことを活かせるからである。実際、バイソンでも1軒はシェアハウスとなっており、現在4人が居住している。

アトリエ、工房付賃貸というニーズ

もうひとつ、バイソンでの活用はアーティストに貸すというやり方である。改修済みの住宅のうちの2軒はアトリエ、工房として賃貸されているのだ。いずれも100㎡以上ある住宅で、普通に賃貸住宅として貸すのは難しい広さ。

だが、ターゲットをアーティストとすればその問題はクリアできる。アトリエ、工房、作業場として広い空間を求めているアーティストは多く、しかも、市中、賃貸市場にはそうした物件は少ない。

もうひとつ、空き家、築古物件とアーティストは相性が良い。本業とは違うものの、モノを作ることを仕事としている人達にとって建物に手を入れることにあまり抵抗がないのである。躯体、設備をきちんとしておけば、後はDIY可として貸すことも十分考えられるのである。

アーティスト・イン・レジデンスというやり方も

バイソンギャラリー内部。2階は宿泊できるようになっており、アーティスト・イン・レジデンスとして利用されている
バイソンギャラリー内部。2階は宿泊できるようになっており、アーティスト・イン・レジデンスとして利用されている

バイソン内の、元々は二世帯住宅だった広い住宅はギャラリー兼アーティスト・イン・レジデンスとして改修が進んでいる。アーティスト・イン・レジデンスとはアーティストが一定期間ある土地に滞在し、常時とは異なる環境の中で作品制作やリサーチ活動を行うこと、あるいはそれを支援する事業のことを指す。

一般にはあまり馴染みがないかもしれないが、アーティスト・イン・レジデンスは一部では注目されている事業のひとつでもある。たとえば地方創生の成功例としてしばしば取り上げられている徳島県神山町の変革は1999年から始まった「神山アーティスト・イン・レジデンス(KAIR)」から始まったと言われている。

最近では2000年に始まった大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ以降、全国各地で地域を舞台にしたアートイベントが増加しているが、そうしたイベントに絡んだアーティスト・イン・レジデンスが増えてもいる。

地域に人、しかもアーティストという能動的に動く人を呼びこむことで単に空き家を使う以上のインパクトが期待されているといえば、地方で期待されるアーティスト・イン・レジデンスの意味がお分かりいただけよう。

その文脈から西村氏が再生しているバイソン、それ以外のエリアにも同様の注目が集まっている。

神戸市では2022年春に俳優でダンサーの森山未來らが市内北野地区にアーティスト・イン・レジデンスを開設。2022年10月にはKOBE Re:Public ART PROJECTという、アーティストが神戸市に滞在、制作活動を行いながら、新たな視点で地域の魅力を発掘するというプロジェクトをスタートさせてもいる。

バラックリンのイベント時の賑わい
バラックリンのイベント時の賑わい
不思議なイベントが開催される、実にアートな空間が生まれている。こちらもバラックリン
不思議なイベントが開催される、実にアートな空間が生まれている。こちらもバラックリン

また、長田区では9月に全国初というアーバニスト・イン・レジデンスなる事業が行われたのだが、そこで舞台となったのは西村氏が長田区内で再生したシリイケバレー(神戸市長田区東尻池町)。

長田区にあるシリイケバレー。滞在拠点として自治体のイベントで利用された
長田区にあるシリイケバレー。滞在拠点として自治体のイベントで利用された

前述のプロジェクトのホームページには西村氏が作っているもうひとつの村、長田区丸山にあるバラックリンの空撮写真が使われてもいる。神戸市は文化の拠点としての空き家再生というやり方に着目しており、その実践の場として西村氏の活動が有効ではないかと考えていると思われるのだ。

もちろん、どこででもできる手ではないが、郊外、地方の大型空き家の活用としてアーティストを対象にするというやり方があることは覚えておいても良いはず。神戸市のように自治体と連携できればさらに面白い。

また、ここでは取り上げなかったが、最近はアトリエを売りにした賃貸住宅が登場、人気を集め始めている。不動産を借りる人の姿も変化している昨今というわけだ。

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健美家編集部(協力:中川寛子(なかがわひろこ))

中川寛子

株式会社東京情報堂

■ 主な経歴

住まいと街の解説者。40年近く不動産を中心にした編集業務に携わり、近年は地盤、行政サービス、空き家、まちづくり、地方創生その他まちをテーマにした取材、原稿が多い。
宅地建物取引士、行政書士有資格者。日本地理学会、日本地形学連合、東京スリバチ学会会員。

■ 主な著書

  • 「ど素人が始める不動産投資の本」(翔泳社)
  • 「この街に住んではいけない」(マガジンハウス)
  • 「解決!空き家問題」「東京格差 浮かぶ街、沈む街」(ちくま新書)
  • 「空き家再生でみんなが稼げる地元をつくる がもよんモデルの秘密」(学芸出版)など。

※ 記事の内容は執筆時点での情報を基にしています。投資等のご判断は各個人の責任でお願いします。

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