2019年5月に数年間全空で元風俗店舗だった廃墟物件を3,700万円で購入しました。購入後に数回の大規模な改修を約2,000万円をかけて行い、1年前に満室で賃料75万円(税込)の物件に仕上がりました。
この物件を購入した経緯は、過去のコラムでも紹介しているので、興味ある方は読み返してほしいのですが、今回は、これまでの経緯をまとめてみたいと思います(以前と同じ話が出るかもしれませんが、ご容赦ください)。
■ビル投資だけでなく、ロードサイト店舗の投資もやってみたい
この物件は400坪の土地に、43坪の平家建ての店舗が2つ建っています。建物は重量鉄骨造の築17年(購入当時)でした。車を買いに行こうと思って通り過ぎた場所でたまたま売り看板を見つけました。自宅から車で20-30分かかる場所で、普段は全く通らない道です。
こんな縁もゆかりもない遠い場所に投資物件を購入する必要は全くないのですが、当時は現金がたくさん口座にありました。銀行に寝かせていても少しも増えません。仮に利回り10%だとしても、投資をした方が良いと考えて、購入に踏み切りました。
ペナン島から本帰国をすると決めたタイミングで、日本に戻って今までと同じ投資を繰り返すのもつまらないなと考えていたところでした。それなら、ビルだけではなく、ロードサイド店舗に力を入れてみるのも良いなと思ったのです。
角地で土地も広く、駐車台数もかなりたくさん取れそうです。一方で、大型看板には性風俗の店舗名が書かれていました。「高バック・高収入」「デリバリー○ルス」という看板の下を、小学生が歩いています。こんな形で放置されているなんて近隣の人や行政は何をしているんだと思いました。
この看板を見て、学生時代に母に聞いた話を思い出しました。父の不動産会社に、90年代に流行ったアダルトビデオの販売店が問い合わせてきたときのこと。
その物件は学生がたくさん通る表通りの通学路にあったため、父は、「子供たちが目にすることになるのでそういうお店には貸せない」とお断りしたのです。
若かった僕はお金儲けを前に断った父をすごいなと尊敬しましたし、近隣社会のことまで考えてテナントを決めることも、不動産会社の大切な仕事の1つなんだと思いました。今では僕の大切な心構えの1つになっています。
■不安が膨らまないようにノートに数字を書き出した
話を戻します。聞けばそのエリアは風俗業が許可されていないにも関わらず、行政と警察の縦割りのスキマを突いてこの手のお店が営業できていたということ。何だか分かるような分からないような説明です。とにかくそんな状態で営業を続け、閉店後は放置されていたのです。
誰も好き好んで、違法(脱法?)性風俗店の跡地でお店をしたいとは思いません。それなのに、僕はその時になぜか、「俺ならこの物件を変えられる」と思いました。そんな義理も責任もないのに。この物件のせいで僕は遠方まで何度も通うハメになり、後になって何度も後悔しました。
でもある時、「自分でこの決断を正解にしていくしかない」と腹を決めました。グルグル渦巻く不安を大きくしないように、何度もノートを開き、感情ではなく数字、見込まれるリスク、損失、失敗した時の損失額、逆にこの物件を再生した時に見込まれる収益を計算し、自分を鼓舞しました。
の物件の再生に成功すれば、郊外の店舗の至る所でこの経験を活かせるようになる。そうなれば、自分は物件を無限に買い進められるのではないか、と感じました。
■なぜ誰も買わない物件に手を出したのか?
周囲の反応はボロカスでした。「あんな物件を買って、あいつはどうかしている」。ただ、僕はこの物件のポテンシャルを見抜ける人は少数だから仕方がないと思っていました。これについては、僕が個人的に過去のマイ・ベストコラム5に挙げたい第106話の文章を改めて紹介させていただきます。
ここの場所を知っている地元の人たちからは「ここの場所はダメだと思う」と言われた。でも、僕はそうは考えなかった。市場は作るものだ。需要があるところに供給するだけなら誰でもできる。そんな人ばかりだから価格競争などのレッドオーシャンを戦うことになる。
僕の場合は、需要がないところに市場を作り、時間をかけてその価値を高め、その市場を独占する。そして他の人がその噂を聞きつけて乗り込んで来た頃に、高値でその市場を売り抜いてまた別の市場を作る。レコード店時代もビル投資でもそうやってきた。
よくある例え話だが、靴を売る営業マンが靴を履かない国に行った時、「誰も靴を履いていないから売れない」と思うのか、「誰も靴を履いていないから巨大な市場になる」と思うかの違いだ。世の中の9割が前者の考え方をするが、そういう人は不動産投資の世界でも勝てないと思う。
そして、この時に別の例えで、ベトナムのフーコック島を旅した時の話を書きました。「そこの中にいる人には見えないものが、外の人には見える」という内容です。僕は、その土地の人間ではないから客観的に廃墟の中から長所を見抜けたのではないかと思っています。こちらも再掲します。
フーコック島に住む人は長らく津波や嵐を恐れ、海辺を避けて島の中心部に町を作って住んでいた。そんな中、欧米系の巨大ホテルチェーンはこの10年で海沿いの土地を競うように購入し、リゾートホテルを建て始めた。
その話をグラブのドライバーに教えてもらったが、僕はこの話を新聞や雑誌、ネットニュースなどではなくて実際に自分がその島に行って完成したばかりのホテルに宿泊して体感した。周りには建築中のホテルがたくさんあった。
それと同じで、田舎にずっといて外を見ていない人には見えていないものが僕には見えている。そういう視点を得るために僕は海外を旅している。
実際に、僕はこのフーコック島の話を聞いた時に、この物件のことを思い浮かべたのです。
みんな、わかっていない。今は苦戦しているが、僕が再生したら、またみんな「凄い」というだけだ。そして、その経験から新たな自分だけの投資ノウハウを得ることができる。僕はフーコック島で全身の血が踊るような興奮を味わいました。
■2000万円かけて2つだった店舗を5つに改修
当初、改修費は1,000万円を予定していたのに、最終的には2,000万円もかかりました。これは、2つだった店舗を5つに分けて、各店舗に上下水道を引き、トイレを作り、グリストラップやエアコンなど大きな設備を用意したからです。コロナの影響もあり、完全満室までに3年かかりました。
この間に色々なことを学びました。街中のビルと郊外の店舗は考え方が全く異なります。全空の複合店舗のノウハウがなかったので、1つ1つ店舗を手探りで作り上げていきました。
工事に来てくれる業者さんたちが、「ここでお世話になったなあ」と顔を赤らめていたのも印象的でした。一人が話すと、「そうそう」と話が盛り上がって、誰々を指名したとか、朝から並んだなあとか、話は尽きません。
僕も、「オーナーはなんでここを買ったの?」「思い出でもあるの?」と質問されるので、その都度、面白い答えを用意しててきとうに答えていました。
でも、そういう話が終わった後の業者さんたちは一致団結して、皆真剣です。皆さんの美しい思い出のおかげで、通常の現場より気合の入った工事をしてくれたと思います。
■内装をテナントに任せるより、プロが作り込んだ方が収支は良くなる
これらの経験を通して学んだことを考えたら、2,000万円は安かった、というのは決して強がりではありません。お金をかけてきちんとした店舗を作ると、きちんとした店舗が入居してくれる。あるいは退去してもすぐに次の入居が決まることも分かりました。
お客様に安く貸して、お客様に好きに作っていただくのも1つの方法ですが、多くのケースでお客様の作った店舗は次の方に受け入れられません。しかし、内装業者さんがしっかり作った店舗は、その後もプラスに作用します。仕上がりのレベルが高いからです。
結果として、賃料は僕が何もしない場合は当初55万円(税込)と想定していましたが、それを20万円上回る75万円(税込)となりました。10年で考えると収支はほぼ同じ、しっかりした建物が残るなら、プロと一緒に自分で工事をした方が良いと感じました。
■舞い込んできたグッドニュース
誰もが避けていたこの場所を再生したご褒美なのか、グッドニュースが舞い込んできました。1つ目は、近くに工場団地が造られること。当然、ここのレストランに食事に来る人も増えるでしょう。2つ目は、店舗の近くにコストコやIKEAなどにつながる橋が造られる予定があるということです。
そうなると交通量はさらに増え、店舗の需要は高まり、土地の価値は上がることが見込まれます。そうなったら、盛り上がりの最高潮でこの物件を手放そうと思っています。その時には、誰もここが元風俗店舗だったなんて思わないでしょう(告知義務があると思うので伝えますが)。
今日は、誰も見向きもしなかった物件にあえてお金をかけて、人気物件に仕上げるというブルーオーシャンを、その時の僕の気持ちを交えながら紹介させていただきました。
<追記>
この建物の過去を忘れないために、大きな看板を1つだけ捨てないで保管してあります。将来は、この女性の絵を使ってTシャツを作ったり、ステッカーを作ったりしたいなと考えています。
<追記2>
店舗内に貼り残されていた女子五原則。女子読者は毎日復唱されたし。