2022年7月に、男性入居者が9年間住んでくれていた部屋が退去になり、タバコのヤニやペット飼育による汚れなど、通常摩耗ではない49万円の請求をしたところ、「払わない」と言われたお話の続きです。
参照:解約清算金が裁判に発展。ネコによる破損、ヤニ汚れに関する入居者トラブル
■いよいよ裁判スタート
僕が49万円の支払いを求めて少額訴訟したところ、通常訴訟に発展、相手は払わないどころか「8万円返金してほしい」と主張してきました。当然、受け入れるわけにはいきません。
裁判所には、訴状のほかに「解約清算書」「リフォームの見積書」「間取り図」「退去立ち合い時の陳述書」「証拠申出書」「賃貸借契約書」「退去時の写真一覧36枚」「被告から届いた通知書(14日以内に約8万円を返金してほしいという内容)」「紛争の要点」を提出しました。
事前打ち合わせの際、顧問弁護士に紛争の要点を相談したら、「準備書面が届いてから考えましょう」と言われたのですが、準備書面は被告から届かないまま、裁判の日になりました。
裁判所には管理会社の退去立ち合いをした担当者とその上司と常務の3人が、助人として同席してくださいました。常務は何度か裁判に同行しているということで、裁判に慣れていて非常に助かりました。
裁判所に着くと部屋に通され、「原告は手前の左に座ってください」と言われました。しばらくして書記官と司法委員の方が奥に座り、その後で被告が入ってきて、手前の右側に座りました。
ドラマで見るような裁判を想像していったのですが、実際は小さな会議室のような感じで、傍聴席も簡易的なものです。初めはリラックスしていたのですが、裁判官が入ってくると背筋が伸びました。
テレビで見たような服装をした裁判官が奥の中央に座りました。奥の右側に書記官、左に司法委員が座り、裁判が始まりました。書記官は、何も話さず淡々と書き込んでいました。司法委員は裁判官と相談したり、原告・被告に質問したりしてきます。
冒頭、裁判官から氏名と住所を聞かれ、当事者本人であると確認されると、尋問が始まりました。尋問はドラマのように被告を言い負かせると良いなと思っていましたが、実際は裁判官に対して自分の主張をアピールするやり方でした。
裁判官はそれぞれの主張を聞いたあとで、法律に照らし合わせて、どちらの主張が正しいのか?を判断します。
■準備書面を当日提出する被告
裁判官が訴状の確認とこれまでの経緯を伝えた後、「準備書面が提出されていない」ことに言及しました。
すると、被告から「今提出します」と、証拠申出書に対する準備書面が急に提出されました。裁判官の心証は非常に悪かったようで、「事前に出してほしかった」と何度も言っていました。
証拠申出書に、「紛争の要点(請求の原因)」がわかりやすくまとめられています。今回の争点の要点は5つです。
- 退去日は7月7日で間違いないか?
- 証明すべき事実:本物件において被告の飼育していたペットにより室内が汚損・破損したこと。被告の喫煙により建物内の煙草臭が充満していたことによりヤニ消臭やヤニ落とし費用が必要になったことを認めるか?
- 尋問事項として、退去時に被告がペットを放し飼いでの飼育を認めたこと。ペットによりドアに大きな傷がありシートの張替えが必要になったことを認めるか?
- 契約書の特約にペットに起因する汚損・破損等については経年劣化の如何に関わらず被告の負担とすると規定されていることから被告にて飼育していたペットにより室内がひどく汚損、破損について支払ってほしいことを認めるか?
- その他、本件に関する一切の事項として何度も請求しているにも関わらず一方的に支払い拒否していることは間違いないか?
被告が急に提出した準備書面によると、請求の原因について、次のような回答をしていました。
- 認める
- 認めない。リビング以外の煙草臭は充満していない
- 認める
- 認める
- 否認する。支払い拒否は行っていない
口頭弁論では、2番の「認めない」という事由に対してのみ、写真を交えて原告と被告の主張・反論がありました。退去立ち合いした管理会社スタッフも原告側の重要参考人として答弁に参加してくれました。
その際、真っ黄色に変色したリビング写真を見せながら、「階段や玄関やトイレ以外はすべての場所で臭いが充満していた」と述べました。最終的には被告も「全部屋での煙草臭」について認めてくれました。
■ビックリの和解勧告
認めたということは払ってもらえるものだと思っていたら、裁判官から、「喫煙は認めるものの、被告が払えないと言っているので17万円で和解をしないか?」という和解勧告が出されました。
これには、正直ビックリしました。すべて認めているのに、「払えないから減額して和解」という案を提示されるとは思ってもみなかったのです。
和解しない場合は、手間や時間をかけて控訴して、もう一度裁判をすることになります。そうなれば17万円以上の和解金を受け取れるかもしれませんが、逆に17万円以下になる可能性もあります。
今回の裁判のために、できることはしたつもりです。また顧問弁護士とあれこれ相談したり、裁判で緊張する時間が続くことは得策ではないと考えて、和解案を飲むことにしました。
和解を認めたことで、裁判官から一連の尋問の内容が要約され、判決が下されました。判決正本は2週間くらいで送達され、判決正本の送達を受けてから2週間以内に控訴しなければ判決は確定します。
判決から1カ月後には、和解金が無事に振り込まれましたが、手出しは30万以上になりました。
「ない袖は振れない」とはよくいったものです。払えないとなると、裁判官はアパートオーナーより入居者の立場に寄り添うことが多いようです。とても勉強になりました。
今回の学びですが、臭いの数値化はできないので、高性能のカメラであきらかに煙草部屋だと分かる写真をたくさん撮っておくこと、入居前の写真もたくさん撮っておくことが、裁判になったときに効力を発揮することが分かりました。
なかなか厳しい経験でしたが、今後に生かしていきたいと思います。皆さんの参考になれば幸いです。