「傾斜地」や「準工業地域」「狭小地」など、何かしら難がある立地は敬遠されがちで、賃貸住宅は不向きだと考えている人も多いだろう。
しかし、そうした条件の悪い土地は、割安で購入できるメリットもある。そんなワケあり立地に魅力的な賃貸住宅を建てているのが一級建築士事務所 森吉 直剛アトリエだ。
森吉氏は「土地の価格が高い都心ほど、割安感のある、条件の悪い土地に注目すべき」だという。どのような賃貸住宅を建てているのか取材した。

傾斜地をいかして、北側に空間を確保し、北側採光に。
そうすることで戸数を増やして収益性UP!
再開発が進み、ますます人気を増している下北沢。なかなか条件のいい土地が売りにでず、売り出ても高額な場合が多い。そんななか駅徒歩6分の場所に傾斜地で、かつ道路幅が狭く、割安で土地が売りに出ていたことに目を付けたオーナーさん。賃貸併用住宅を建てるにあたり、建築家の森吉氏に依頼した。まずは設計のポイントについて聞いた。
「第一種低層住居専用地域で、北側斜線の規制が厳しい地域です。南北に勾配がある、なだらかな傾斜地を活かし、北側に大空間を確保し、あえて北側採光にしました。
一般的に日本の住宅は南向きで、南側にベランダやバルコニーを設けますが、この考え方を大胆に変えました。それにより北側斜線をクリアし、建物を高くする事が可能で、半地下を入れて4階設けることができています。
地下の住戸は容積率を緩和できるメリットがあり、賃貸の住戸を4戸設けていますが、それがまるまる容積率から除外できるため収益性アップにつながります」
昨今では日本の夏は暑くなりすぎて、南側に窓があると直射日光が強すぎることがある。北側に開口部を設け、北側採光にすることで、穏やかで、安定した採光を確保できる。
また、地下の住戸は、抵抗がある人もいるかもしれないが、地下を好む入居者は一定数いるようだ。道路に面した1階よりもクローズドな空間になることで、プライバシー保護の面からも支持され、入居者の定着率が高くなるケースもあり、こちらの地下の住戸には竣工当時から12〜13年住んでいる入居者もいるほどだ。
地下は道路から近いことで、お客さんの出入りがあるような個人事業主からも重宝され、自宅兼仕事場として利用するケースも少なくない。

室内はコンクリート打ち放しで、床には「塩ビタイル」を用いるなどコストを抑えながらシンプルモダンなデザインに。入居者を募集すると、立地の良さと、ほかにはない内装などが評価され、すぐに満室となった。
狭小地では、狭さを麻痺させる工夫を!
スキップフロアで、天窓のある賃貸併用住宅
次は東京・台東区の狭小細長敷地での賃貸併用住宅の例である。どのようにして居住性を高めるかがポイントになった。

「細長い敷地ですが、両方の道路に面していることもあり、高さを活かすこともでき、通り抜けもできます。そこで考えたことが断面の工夫です。建物の中央に階段室とエレベーターホールを設け、光が入るようにトップライト(天窓)を設けることで、斜め方向から光が入るようにしました。さらにリビングの天井を高くするなど、各階で天井高にバリエーションをつけました」

周辺に工場が多い立地でも
魅力的な賃貸住宅は可能!
次は東京都江東区の「準工業地域」での例である。工業地帯ではオフィス向けの賃貸需要があることに目をつけ、1〜2階をオフィス向け賃貸、3〜4階をオーナー住戸にした。周囲に工場が多いなかで、いかに快適に暮らせるか課題となった。

「工場がすぐ目の前にある立地から、騒音対策のために、3〜4階の住戸にはコンクリートの外壁のなかにオープンスペースのテラスを設け、テラスと部屋の間にも壁を構えることで、音を遮断しています。
コンクリートの壁によって、外からの視線も遮ることができるので、プライバシー保護のためにカーテンを閉める必要がなく、カーテンを閉めないことで、室内が広く感じるメリットもあります」

「特に都会では土地代が高いため、なかなか理想の場所で、土地を買うことができないケースも多いでしょう。しかし傾斜地や準工業地域、狭小地など、条件の悪い土地でも、アイデア次第でいくらでも魅力的な賃貸住宅を建てることができます。誰もがほしがる土地を狙うのではなく、少し視点を変えることでコストを抑えながら、ほかにはない賃貸住宅を作ることができると考えています」

●取材協力:アーキテクツ・スタジオ・ジャパン株式会社(ASJ)
約3000人が登録する日本最大級の建築家ネットワーク。全国各地のスタジオや定期的に開催するイベントで、さまざまな建築家と出逢い、話し合える場所を提供している。
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健美家編集部(協力:高橋洋子(たかはしようこ))