空き家を見学するだけのツアーならあちこちで行われている。だが、一般社団法人全国古家再生推進協議会(以下全古協)の空き家見学ツアーはただ、見て歩くだけでなく、それをどのように、いくらかけて再生し、どのくらいの家賃で貸せるかまでがその場で説明される。実際の見学ツアーに参加、そのリアルさに驚いた。
予算総額700万円が目安。人気地域、春日部の見学ツアーに参加

参加させていただいたのは埼玉県春日部市の空き家見学ツアー。
毎月1回の開催ですでに60回を数えているという、関東では一番歴史が古い地域で、空き家も多いが、賃貸ニーズも手堅く、すでに200軒以上の空き家を再生してきたという。
参加できるのは全古協の講座で学び、一定の知識のある古家再生投資プランナー(商標登録済)と呼ばれる人たち。地方では一部、資格がなくても参加できるツアーもあるそうだ。
この日、案内を頂いたのは全古協の古家再生士(商標登録済)の永田将太郎氏、谷保清香氏。お二人は春日部以外に千葉県船橋市、東京都八王子市も担当している。
「春日部の場合、物件+リフォームで総額700万円くらいが目安。ここ2年ほどで物件価格が100万円ほど、資材、設備機器類などがあがっており、工事費も上がっていますが、八王子の取得額600〜700万円、工事費300〜350万円でグロスで1000万円〜、船橋でグロスで750〜800万円に比べると、まだ手頃な印象があります。
ちなみに春日部の賃料は6万円からマックスで9万円くらい。大きな家だと9.3万円くらいということもありますが、一般的な3DKだとそこまでは行きませんね。
また、春日部は募集、管理をずっと依頼している不動産会社さんがあるため、客付けまで依頼できます。買いやすく、買った後も楽という、珍しい地域のひとつです」と永田氏。
当日の参加者は女性3人、男性2人の計5人。春日部駅で待ち合わせ、車で物件を回る。この日の予定は空き物件を2軒回った後に現在工事中の物件を見学、その後に空き物件をもう1軒見て、最後に完成物件を見学するというもの。
空き家に慣れていない人はボロボロの状態から完成後の姿が想像できない。そのために空き家に手を出せないことが多いのだが、全古協のツアーでは施工中、完成後の姿が見学できるため、安心して購入に踏み切れるという。
参加者ですでに4軒購入したという方も「最初の1軒目はこんなボロボロでもちゃんと借りてもらえるのだろうかなどといろいろ考えて躊躇しましたが、それがうまくいけば後は勢いがつくものです」とのこと。
また「見学時に建築目線でどうリフォームすれば良いかのアドバイスがもらえるのは大きなメリット。不動産会社だけだと分からないことがその場で分かるので、決断できます」とも。
どんつき、傾きのある家のリフォーム予算は350〜400万円

最初の物件は駅から13分、昭和48年築の、私道の奥にある、不動産会社のチラシには780万円、現況で上物有、売地となっている2階建て。永田氏によると、こうしたつきあたりの奥にある物件が多いとのことで、実際、2軒目、3軒目ともに私道つき当りの奥にあった。
間取りは1階に続き間の和室が2室、独立したキッチンと水回りというもので、2階は和室2室に洋室1室。建物には少し傾きがある。見学しながら、リフォームプランを聞く。

「キッチンのコンロ、レンジフードは交換、それ以外は清掃にダイノックシートを張るなどでできるだけそのまま使う。キッチンと和室との壁を抜いて1階はL字型のLDKに。2階の3室のうち、洋室は和室を通る必要があって独立感がないので、それを独立した3室に作り直すというところでしょうか。
バスタブは交換、壁にはパネルを貼り、トイレは便器はそのままでウォッシュレットを替えます。電気は30Aしかないので、60Aまで上げます。トイレ、お風呂、廊下、玄関、階段室にはLEDの付帯照明を設置、各部屋にエアコンが設置できるように配管、火災報知器を設置、地デジ対応でしょうか。庭は樹木を伐採、ごみを撤去、除草剤を撒きます」。
と、その場で具体的な案が出て、予算も出る。ここの家の場合、350〜400万円くらいとのこと。家賃は確実なところで7万円、強気でいくならもう少し行けるだろうという。

古い家なので天井は低いが、賃貸の場合は気にしない人が多いそうだ。続き間の和室でも決まらないことはないと谷保氏。春日部の場合、駐車場はあったほうが有利だが、無くても周囲に駐車場が多いので、それほど問題はないとも。駐車場料金は5000円ほどだ。
家の状態よりも動線で借りてもらいやすさを見る

2軒目は入口に枯れ枝が積り、庭も大変な状態になっている、古家付の、600万円の物件。勝手口が壊れており、永田氏はそこから入って玄関を開けてくれた。住戸内は1軒目よりもかなり荒れている状態だが、参加者の反応は明らかにこちらが上。
いくつか要因がある。ひとつは玄関の広さ。そして、もうひとつは動線。こちらは1階に洋室、和室各1室とキッチン、2階に和室、洋室が各1室と納戸がある。1階の洋室とキッチンを繋げれば容易に広いLDKになり、明るい。現在は暗い廊下、水回りもリビングに明り取りの窓を作れば問題ないと永田氏。

「程度は悪いけれど、家そのものはしっかりしており、動線も良く、使い勝手の良い間取りです。玄関だけでなく、風呂、洗面所も広く、きれいにしたら人気が出そうです」。
こちらの想定工事費は450万円。賃料の想定は7.5万円から8.5万円。駐車場についてはその場で谷保氏が電話で確認、歩いて5分ほどの場所に空きがあることが分かった。
もうひとつ、この物件で面白かったのは玄関の床部分の不具合についての参加者からの質問に対しての永田氏の答え。
「普通の工務店は一部に不具合があるだけなのに全体を新しくしようとしますが、私たちは必要最小限だけ施工してもらいます。足し算ではなく、引き算で考え、収益を確保するためです」。
ここは非常に大きなポイントだろうと思う。何も全部を新しくしなくても良いのに、職人さんは良いものを作ろうと考え、全体に手をいれがち。だが、賃貸住宅として貸す場合にはシビアに収益を考え、工事にもメリハリを付けるべきなのである。
市街化調整地域の猫ハウスに全員うっとり

続いて向かったのは埼玉県宮代町の市街化調整区域内に立つ、庭も、建物も大きな施工中の住宅。猫を飼っている人向けにドアに猫専用入口を付けるなどの工夫もある面白い住宅だ。
この物件は何度かツアーに参加した人が自分で見つけてきた物件で価格は200万円。それにオーナーの希望を入れて多少高めの410万円の予算で改修をしている。それでも賃料は7万円は確実にいけそうとか。


ここでなるほどと思ったのは和室の柱、梁のオイル仕上げ。古い日本家屋の木部は手垢や汚れ、日焼けで汚くなっていることが多いが、永田氏はそこにオイルを塗って木目を生かす形での改修を提案している。
これなら作業は楽だし、安価で済む。しかも、長持ちもするし、次に手を入れる時は研磨してもう1回塗れば良いだけだという。手間をかけずに効果最大を常に考えているからこそ、できる話だろうと思いながら聞いた。
空き家で見るべきポイントとは?

次の空き家は永田氏も初見という。そこで空き家見学に訪れたら何をチェックするかを教えていただくことに。ひとつは下水道の状況。下水道か、浄化槽かで、浄化槽の場合には敷地内に枡がある。このお宅は浄化槽で、法定点検、保守点検に年1〜3万円がかかる。

次は電気のアンペア数。家に引き込んでいる線が3線だったので、このお宅は60Aまで行けるということ。これが2線の場合は30Aで、ファミリー居住には足りない。増やす必要があり、余分な支出が必要ということになる。
ガスは都市ガスか、プロパンかをチェックする。ただ、都市ガスが入っていても設備機器の交換を考えてプロパンに切り替えることもよくある話だ。アンテナでは地デジが入っているかを確認する。

建物では軒先天井(言葉通り、軒先の天井)をまずチェック。ここが破れている場合、雨漏りの懸念があるそうだ。

室内はつい最近まで居住されていたようで、いろいろとモノが残されている。だが、残置物が多いお宅はこんなものではないのだとか。
その分、建物の傷みは少なく、風呂も新しいユニットバスに交換されていた。このお宅では表層のみをきれいにして貸す手と、間取り変更までする場合で予算が変わるとのこと。
予算は前者で250万円、後者で300万円ほどの見積もりだ。賃料は確実な線で6.5万円だが、7万円は行けるかもしれない。このあたりは運用する人の考え次第だ。
もうひとつ、このお宅は外構に少し手を入れることで駐車場付きにできそうとのこと。無くても問題はないが、あればプラスにはなる。駐車場造成の予算は20万円ほどという。
買いたいという声が出るほど魅力的な完成物件


最後は完成物件。430万円で出ていた住宅を350万円で取得、350万円をかけてリフォームしたそうで、6.5万円の賃料を想定していたものの、実際には7.4万円で決まった。1階は元々洋室2室にキッチンなどの水回りがあった間取りだが、洋室2室をぶち抜いて広いLDKにしてキッチンを移設、そのスペースに脱衣所、洗面所、洗濯機置き場を作った。


見せていただいた最初に感じたのはリフォームのメリハリぶり。1階は白く、アクセントウォールの映えるかっこいい部屋になっているのだが、2階は和室3室のうち、2室を続けて広い洋室にしただけであまり手は入っていない。

だが、最初に1階を見て好印象を持てば、多くの人はここを借りたいと思うのではなかろうか。玄関ドアは古いままでよくあるフックが残されたままだったが、そんなことよりも一点、非常にアピールする空間を作ることがポイントなのだろう。
人気は2軒目。ジャンケンで優先順位を決めて買付へ
見学が終わったところでファミレスへ移動。見学した物件を再度説明してもらい、希望する物件に手を挙げることに。希望者が他にいなければ手を挙げた人が買付を入れられることになっており、希望者複数の場合にはジャンケンになる。このジャンケンというのが公平で良い。金額を多く出せる人に優先権があるわけではないのだ。
もちろん、そこで優先権を得た人が要れた指値で買えなかったなどの場合には二番手になった人が買えることもある。このあたりのやり方は主催する再生士によって違うそうだ。
さて、この日の結果だが、1軒目、3軒目はこれまで何度も参加していたものの、ジャンケンに負け続けていた女性が一人、手を挙げた。2軒目には4人が手を上げ、ジャンケンに。二番手、三番手までを決めてその日は終了。実際の買付に当たっては再生士とさらに条件を詰めるなどしてから望むそうだ。
これ以外でも半日のツアーには役立つ情報が多く、いちいちなるほどと思いながらメモを取った。多くの人は半年ほどツアーに参加、情報、ノウハウについて学び、そこから購入という流れになることが多いそうだが、1回の参加でもこれだけ有益な情報を接することができるのだ。複数回参加すればさぞやと思う。
実際、何度も参加、自分で物件を探せるようになっている人も出てきているとか。買ってよい物件が見分けられ、おおよその改修予算が分かるなら空き家も怖くはない。戸建て賃貸に目を付けているなら参加してみて損はないはずだ。
健美家編集部(協力:
(なかがわひろこ))